フォトコンテストのすゝめ Vol.2|フォトコンに応募してみよう
フォトコンへの、よくある〝誤解〟
写真は好きでもフォトコンテストはちょっと…という人は少なくありません。理由を聞いてみるとさまざまですが、
(1) レベルが高くてなんだか難しそう
(2) 自分の写真を見せるのが恥ずかしい
(3) 他人から写真を選ばれるのは好きじゃない
(4) フォトコンって賞金や賞品が目的でしょ?
…などが主なところでしょうか。
フォトコンの規模やレベルにもよりますが、(1)についてはもっともです。数百点数千点の応募から選抜された写真作品にはプロ顔負け、いやむしろプロには撮れない作品がたくさんあります。初めて応募しようと考える人にとってはとても正直な感想かも知れません。でも、同じコンテストという土俵で写真愛好家の仲間と一緒に自分の写真を磨きたいと考えるなら、ハードルは低いより高い方が上達のためのプラスになりますよね。まずは、応募して自分の力試しをしてみよう!という積極的な気持ちを持ってみましょう。
(2)は控えめな性格の人に多いようです。自分の好きなものを好きなように撮っているのが楽しみ、という人。それはそれでよいと思います。とはいえ自慢の写真は誰かに見てもらいホメてもらいたいのは人の常。大丈夫、コンテストは入選した写真しか発表されず、残念ながら落選した人は誰にも知られません。自分の好きなものを好きなように撮って、その中の良い評価を得た写真だけが人に見てもらえる。考えてみれば、こんな楽で楽しい写真発表のシステムはないでしょう。
あの巨匠だってフォトコンに応募したことが…
(3)は若い写真学生さんなどに多いようですね。「自分の写真はフォトコンなんかで評価されたくない」という自負なのかもしれません。しかし、著名な写真家で若い頃にフォトコンで力試しをして世に出た写真家もいます。一例を挙げれば、若くして三島由紀夫を撮った『薔薇刑』でデビューを飾り『男と女』『鎌鼬』『ガウディ』など数多くの名作で世界的にも知られる細江英公さん。学生時代に富士フォトコンテストでアメリカ人の少女を撮った作品で初めて入賞した時の嬉しさを懐かしそうに語っています。
コンテストは自分が選ばれるだけではありません。審査員はさまざまな分野で活躍する写真家が担当します。この写真家が自分の写真をどう見てくれるか試したいという意味では、審査員を〝選ぶ〟ことで自分の写真の評価を確かめることも可能なんです。
(4)は、はっきり言って大きな誤解です。たしかに賞金や賞品が目当てで応募する方も少なくはないでしょうが、入賞した優れた作品の目指すところはむしろそれとは反対の方向にあると思っています。経済的なものを目的にするならフォトコンは採算が合わない、ということになるでしょう。20年以上、フォトコンテスト専門誌の編集長として多くの応募者の方々を見て、体験談を聞いてきた僕が言うのだから間違いありません。
「いくら高額な賞金や賞品をもらっても、作品づくりに費やしてきた費用・努力・機材・撮影の時間を考えたらとても〝採算〟は取れませんよ。入選して何より嬉しいのは、自分の写真が認められたことに尽きます。いってみれば第三者に自分の感動が伝わったということですね」。思い出すのは、あるベテラン応募者のこの言葉です。お金と時間と努力をかけて入賞した作品に与えられる賞金や賞品は、それに対するせめてもの〝ご褒美〟ぐらいに考えたほうが良いでしょう。
応募要項をよく読んで、まずは気軽に応募してみる
…とまあ、ここまでフォトコンテストのよくある誤解と、それに対するポジティブな立場からのフォトコンの魅力を書きましたが、要はそれほど難しく考えずにもっとシンプルに考えて応募してみてはどうですか?ということを言いたいのです。
前号にも書きましたが、フォトコンテストは日本の写真工業の発展に伴って普及してきた側面があります。カメラや写真材料のユーザーが写真上達に切磋琢磨してもっと機材を使って写真文化を豊かにしてほしい、ということが目的。そのため応募者が出品料を負担する美術・写真団体系の一部のコンテストをのぞいて、カメラメーカー主催のものを中心にほとんどのフォトコンが応募料はかかりません。それを確かめたうえで、積極的に自分の写真上達と作品発表の場にフォトコンを使わない手はないと思います。
そうは言っても、どんな世界にも厳守すべきルールはあります。基本はそのコンテストの「応募要項」をよく読むこと。テーマの有無やプリントサイズなど細目はさまざまですが、ほぼ共通している厳守ルールは
(1) 二重応募(同じカットもしくはきわめて類似したカット、また過去に他のコンテストで入選したカットは応募できない)
(2) 他のコンテストにすでに応募中の写真は応募不可
(3) 本人が撮影した写真に限る
大まかに言ってこの三つくらいです。
そのほか「合成写真不可」という応募要項もときどき見かけます。一般的に合成とは「画面中にもともと無かったものを他から持ってきて合成する」あるいは「画面の中にあったものを処理で消してしまう」などといった、画面内の構成要素をデジタルによって加工する写真のことを言います。加工写真と言い換えてもよいでしょう。合成といっても、作品仕上げ時のレタッチや彩度調整、コントラスト調整まで含むほど厳しいものはさすがに少ないようです。
最近は写真の完成度を高めるために、カメラ内ですでにさまざまな合成(深度合成や比較明合成など)を勝手に行ってくれる時代になっているため「合成」の概念も変わり、応募要項の用語から姿を消す日も近いかも知れません。
家族や友達で作品づくりするメリット
そのほか応募要項には、被写体となった人物の肖像権について記述されている場合があります。その人物の肖像権(自分の姿をみだりに写されたりその写真を勝手に使われない権利)を守った写真かどうかを問われているわけです。「主催者は肖像権侵害などの責任を負いかねます」などと表記されることが多いです。つまり、応募作品は「撮影者によって被写体本人の承諾や使用許可が得られたものとします」ということ。ですから、撮影時に相手にちゃんと了解を取り、手ごたえのあった自信作なら「コンテストに出すかもしれません」と連絡先を聞いておくのが賢明な方法かもしれません。もし入選しなくても後でプリントにしてプレゼントすれば喜ばれますね。
また、街中や路上でたまたま画面の中に人物が入り込んだり風景の添景として撮り入れた場合などは、よほど画面内に大きく、個人を特定する環境や目的で撮影したのでなければ一般的には問題になることはありません。私たち写真愛好家にも、人間として風景や街をスナップする当然の権利があるのですから。要は、その両方のせめぎ合いの中で互いの距離を上手に保っていけばいいのです。
それでも中にはそんなわずらわしいなら人物スナップは遠慮したいという人もいて当然。そういう場合は、肖像権もプライバシー権も気にせずにご自分の家族や友人知人を撮るのが一番。いつでも撮れるテーマとして継続的にチャレンジでき、良いものは作品として世に発表しながら撮影テクニックを磨くことができます。
もちろんその成果は素晴らしい家族アルバムとして永久に残せます。実際、ご自分の娘さんを小さな頃から写し始め、彼女が二十歳になるまで二科会写真部のハイレベルな公募展に応募し入選し続けた素晴らしいアマチュア作家を僕は知っています。コンテストへの応募は、そんな継続的な写真行為のきっかけにもなる力を秘めているのですね。
フォトコンテスト入選作品から学ぶ
今回はフォトコン初心者にも相応しいテーマである、カメラのキタムラ フォトコンテストの「日常・自由」と「ネイチャー」の部門から、優れた入賞作品をご紹介したいと思います。
1. 特選「幸せな瞬間」江藤益美さん(日常・自由部門)
積雪後の雪合戦や雪だるま作りは子供の写真でも定番ですが、こちらはまさに雪の降っている真っ最中とあって、スナップとしての臨場感があります。二人とも完璧で予定調和的なポーズではないにしろ、非日常の嬉しさを身体全体で表現する子供の心理がよく出ていて、特に左の子の舌を出したチャンスを見事に捉えています。背景の雪景色を美しく情緒的に捉えたからこそ、主役が良い舞台で生き生きと引き立ったのだと思います。
2. 準特選「トワイライト・ブルーの思い出」植村盛太郎さん(日常・自由部門)
クールな写真ですね。コンテストでは珍しい主観的な作品。分かる人にだけわかればいいという潔さがあり、それを審査員がしっかり受け止めてくれました。車外のブルーの夕闇、車内に光る計器の灯りに、青年のドライな〝孤独感〟がしみじみと伝わってきます。
3. 入選「ぼくとぼく」佐藤久美子さん(日常・自由部門)
うまい写真だなーと感心します。まるでキッズファッションのコマーシャルみたい。背景はゴージャスだし、モデルは片目だけで気持ちを語っていてカメラマンに媚びていないところが本職のよう。露出もこれ以上ない適正さ。お母さんカメラマン?すごい。
4. 入選「鬼は外!」橋本直子さん(日常・自由部門)
こりゃまた楽しさにあふれるファミリーフォト。計算された演出と見事なシャッターチャンス。木村伊兵衛賞を取った作品『浅田家』を彷彿とさせます。コンテスト入賞もさることながら、こんな傑作をアルバムに残せること自体、最高に幸せなことです。
5. 入選「切りすぎないでね!」小林麻由子さん(日常・自由部門)
ママさんのヘアカットは最高のシャッターチャンスですが、この作品にはタイトル通りの女の子の心理が写されています。ぎりぎりまでママの手とハサミを省略したせいで、心配そうな少女の上目遣いがしっかり描写されました。ライティングも自然でいいです。
6. 入選「Colors」和田宣生さん(ネイチャー部門)
小さな自然の世界を描いた作品ですが、葉のカラーバランスが絶妙で、画面の隅々まで気を配って構成された味わい深い写真です。霜に縁取られた小さな葉を正確に捉えたシャープなピントも適切で、音楽のCDジャケットを思わせる洒落たタイトルも素敵です。
7. 準特選「もう一つちょうだい」小林裕之さん(ネイチャー部門)
動物園で撮っても立派なネイチャーフォト。撮りやすく心ゆくまで動物たちの特徴と魅力を狙える良い撮影場所です。よく観察し適切なフレーミングで三頭の仕草と表情をピタリと写し止めています。動物園は辛抱強くシャッターチャンスを待つ訓練にも、ふさわしい場所ですね。
■ナビゲーター:板見浩史(いたみ・こうじ)
1952年、福岡県生まれ。月刊日本フォトコンテスト(現フォトコン)誌の編集長を長年経て、現在はフォトエディター。写真賞や多くのフォトコンテスト審査にも関わる。公益社団法人日本写真協会(PSJ)顧問。カメラのキタムラ フォトカルチャー倶楽部(PCC)理事、一般社団法人日本写真講師協会、日本フォトコンテスト協会代表理事。著書に「カシャッと一句!フォト五七五」(NHK出版)、「世界一受けたい写真のアドバイス」(玄光社)など。