スナップで街めぐり。一瞬の情景を愉しもう。Vol.10|大塚
はじめに
大塚駅は近くに大きな施設が少ないので、山手線の中でもなかなか降りる機会が少ない駅だ。
私の場合も駅前がごちゃごちゃしているくらいかなと、なかなか降りることがなかった。しかし池袋の隣駅なので一度歩いて行ってみたら、都電の駅がJRの隣ということもあり、他の町とは違う独特の雰囲気があって、撮っていて楽しい所だと気が付いた。駅周辺は再開発されすっきりとしてしまったが、それでも他の山手線の駅よりは個性があって、自分の中では再開発に成功した珍しい街だと思っている。今日はそんな大塚駅周辺をどう撮ったか見てほしい。
北口ロータリー
北口はロータリー上の輪の形になっているオブジェ(屋根?)が特徴的。ぱっと見、タクシーの位置だけ気にして撮ってるのかなと思わせつつ、右上に都電が入る瞬間を意識してシャッターを切った。輪の真ん中少し左の人も背景と被らずいいシルエットになってくれて、ただ撮っている感が減って地味にいい写真になった気がする。画面の中に小さくても「実はここに」って小さな被写体があると、この人の写真は実はなにかあるかも、と気になる人はなるかもしれない
南口駅前広場横のビルの入り口から
古いビルのドアは両面開きのガラスの事が多い。開いた状態だとガラスに余計な枠が映り込まないので、この様に綺麗な反射を狙うことができる。この場所では都電と往来する人の反射が撮れたらいいなと待っていたところ、路面を計測している人たちが。制服を着て働く人ってスナップを撮るときに意図して狙って撮ることが多いのだが、この様に実際働いている動作をしているときはさらに絵になる。そこを反射で捉えたらさらに作品性がアップした。
この写真の場合はレンズの位置的に完全シントメリーにはならないので、そこを利用して、真ん中の女性は反射がなくなった事でユニークな写真となってくれた。プラス都電でお気に入りの一枚。
都電大塚駅
青年が電車を待っているのだが、映り込みの方を覗いてみるとプラスチックの保護パネルが軽く歪んでいた。普通の反射では弱いので、歪みを利用して青年の髪型で楽しくできないかカメラの位置を上下左右に微調整。頭の先が尖がって見える位置を発見。今では見ないようなリーゼントになったところでシャッター切った。楽しくなる方向に頭を使うと、どこを撮っていても楽しくなると思う。
駅ビル2階から
駅ビル2階の休憩所から駅前広場を見渡せるのだが、ガラスに夏の期間限定の大きな花火のシールが貼ってあった。畳ほどあったので、ここは超広角一択。画角が広いと少し下がるだけでこのように全体をとらえることができる。放射状の隙間に傘の人が入るタイミングでシャッターを切った。欲を言えば、都電が走っている瞬間もあればよかったのかなと思う。俳句には季語がある様に、写真にも季節のものが一か所にでも写ればわかるので、意識して被写体の一部として取り入れてみよう。
笹に埋もれた自転車
小道を歩いているときに見つけた、笹に埋もれた自転車。こういった植物等の組み合わさった被写体は、パンフォーカスで撮るにはもったいないと思う。オールドレンズの50mm開放F1.2で撮ってみた。車輪のスポーク(梁)の部分にピントを合わせている。あと、周辺がなるべく暗くなる様な位置に下がれるだけ下がるのがいいと思う。寄るよりも引いた方が絵的にしっくりくる事が多い気がする。
駅前広場
駅前広場の地面はストライプ模様が特徴的。影が強くなる日は、日傘&足のシルエットを狙ってみた。できるだけストライプ模様を多く入れたいので、カメラは高めに構えて少し下を向ける。人の頭を入れると超広角の歪みが出てしまうので、肩あたりで思い切って切ってみた。
駅ビル2階から
4枚目と同じ日、同じ場所。
青い傘がやってくるのがわかったので、手前の白と青い模様の部分だけを前景に選んでこの構図を作ってみた。こうなると青白以外の色をなるべく入れたくない。右下の黄色の線だけはどうしようもないので、そこは構図の中に取り込んでみることに。なるべく意味がある様に、ここも気を使ってシャッターを切っていたと思う。超広角はできるだけ角、端っこをどう処理するかできちんと撮っている感が出るので、シャッターチャンスだと思ってもササっと左右上下して角を意識してみよう。
ミラーに反射する都電の線路
普通のカーブミラーの反射だとそれほど面白い写真にはならないが、駐車場の出口に小さなミラーがあった。電車も沢山撮ったが、働くおじさん二人の方がインパクトがあったのでこれを選んでみた。軽く視線も貰えて、バラも咲いていて色的にも面白い写真になってくれた。
駅ビル休憩所から
下を覗いてみたらなかなかいい人の配置。雨の日だったので少し待っていたらピンク色の傘が一人。意外と真下って見落としがちだが、歪みなく撮ると面白い写真になることが多い。この写真は傘の人がメインなので、傘がラインの明るい所と被らない瞬間にシャッターを切っている。動くものが画面の中に一人の場合は、特にその位置が重要になる。
線路沿い
赤いバラ、赤い布団二つ、あと一つの赤待ちの中、郵便の赤いバイクがやってきた。こんな感じのリーチ待ち撮影、ずっと同じ場所で待っていてもなかなか撮るのは難しいが、ここを記憶しておくことが大事。この先を歩いていたとしても、間に合うと思ったら走ってでも戻って撮ることがある。手前のバラを見落としがちになるが、普段から視野を広く心がけているから撮れた一枚だと思う。
あとがき
10枚で紹介できないくらい魅力的な大塚。5~10分と待たずに都電がやってくるので、次着たらどう撮ろうと想像力が止まらなく、気が付けばもうこんな時間だって事が多い。駅前で撮ることが多くなるので、人がらみの写真も撮りやすい場所だと思う。雨でもしのげる所が多いので、降っている日を狙って行くのもよい場所だ。
線路沿いのバラは春、秋と二回撮ることができる。咲いてなくても十分に撮るところが多いので、撮影場所に困った時のために大塚を覚えておいてほしい。
■写真家:富久浩二
日々の通勤風景を主に、いつも見ている変わりばえのない、しかし二度とやって来ない一瞬の情景を大切にし、ちょこっと人が入った物語りのある写真をテーマのもとに、人びとの優しく楽しい感情が伝わる事を目標に日々撮影している。子供の頃の目線、何と無く懐かしさを感じて貰える様に、ライブビューを使った低い目線、思い切って背伸びをした様な高さからの撮影が特徴的。