プロが教える紅葉撮影のひと工夫|ネイチャースナップのすすめ
はじめに
暑かった夏も終わり、行動しやすい秋がやってきました。秋の自然イベントといえば紅葉です。紅葉の撮影に出かける人も多いことと思いますので、今回は誰が撮っても一緒の定番写真から、ちょっと違った写真を撮るためのコツを解説していきたいと思います。
定番写真は条件次第
風景写真の定番といえる写真は、一目でその場所の良いところが伝わるようなある意味観光写真でもあります。だいたい展望台などの景色を眺める場所が決まっているため、構図も決まってしまい、誰が撮っても同じになりがちな写真ともいえるのです。違いといえば、景色や天候の条件が良いときに撮れるか撮れないかとなってしまい、条件が良いと予想されるときは大混雑するような場所もありますよね。
絶景を狙っている仲間のカメラマンは、ワンカットのために数日、ときには一週間くらい粘って撮影しています。それでも撮れないこともあり、実はかなり難しい写真なのです。
でも、撮影に出かけられる時間が限られてしまう人にとっては、条件の良いときに撮れるかどうかは運次第。行ってみたけれど、撮影条件に恵まれなかったとガッカリして帰ってきたということもあるでしょう。
そこで諦めてしまわずにいろいろな被写体を探してみると、あなたらしい写真が撮れるようになっていくと思います。
歩いて視点を変えよう
紅葉の撮影地として出かけるのは、だいたい有名なところが多いと思います。定番の写真が撮れても撮れなくても、一段落したらそこからちょっと歩いてみましょう。同じ景色も見る角度が変わってくると、雰囲気も変わってきます。
私は撮影地に行ったら、なるべく歩ける場所を探して景色を見て歩きます。散策路や遊歩道など、紅葉のきれいなところでは歩ける場所も多くあります。遊歩道などがなくても、道路に沿って歩いてみたりして、視点を変えるようにしています。車で移動していると気が付かなかったものが見えてくることも多く、歩くことの大切さを感じています。
足下も見逃さない
歩くときにはゆっくりといろいろなところに視点を向けることが大切です。足下の小さな自然にも魅力的なものが多く、こういったものをひとつひとつ拾いながら撮影していくことで、作品に奥行きが出てきます。
この秋はいろいろなキノコを見る機会があり、名前は分からないままたくさん撮影しました。はじめは赤いキノコを意識して探していたのですが、だんだんいろいろなキノコが目に入るようになってきて、キノコ探しも楽しくなりました。紅葉そのものではなくても、秋を感じられる重要な被写体です。
それに紅葉はモミジやシラカバなどの樹木に限らず、足下に生えている草も色が変わって秋らしい姿を見せてくれるものです。紅葉のピークを過ぎれば落ち葉も美しいですね。一般的に紅葉というと樹木を意識するので、上ばかり見てしまうかもしれませんが、足下にも視点を向けると、景色の細部が見えてきます。
光にあった撮り方をしよう
秋の天気は変わりやすく、朝は晴れていたのに午後には雨ということも珍しくありません。
定番の景色はたいてい特定の光で撮影したときがベストといえることが多いので、状況を見極めてその光を選ぶ必要があると思いますが、その他のネイチャースナップ的な撮影では、光に合わせて被写体を探すと絵にしやすいです。
一般的に順光から斜光線では、空を入れるような広い景色を撮影するのに向いています。青空バックで撮るのはこの光が適しています。晴れているときの基本的な光となります。順光は色再現重視、斜光は立体感重視で、時間帯を選ぶ必要があります。
曇天は立体感が出しにくく撮影に向かないと思われがちですが、逆に影が出ないので画面全体の色や形を見せたいときに向いています。葉が茂っていて影が出やすいときには晴天よりも曇天の方が撮りやすいことも多いです。
逆光では葉が透過光となって色を鮮やかに見せることができます。ただ、葉が茂っているところでは影が出やすく、影の部分は肉眼で見たよりも暗く再現されるので、しっかり葉に光が当たっていることを確認することが大切です。影になっているところがほとんどの場合は、影の部分に露出を合わせることで全体に明るい景色として見せることもできます。
朝の赤みや日影の青みなども意識して光を見ていくと、さらに変化を付けて撮影できるようになります。
主役を脇役にしてみる
思ったほど紅葉のコンディションが良くないというときは、紅葉を脇役にしてしまうのもひとつの方法です。紅葉をはっきり見せないで、背景にしてしまうと考えると分かりやすいでしょうか。
紅葉をぼかして色として見せることで、秋らしさを伝えながら傷んだ葉の細かいところをごまかすこともできます。背景としてだけではなく、前ボケとして画面に入れることでも、彩りを加えて華やかな画面にできます。
スマホのカメラだと大きなボケは得にくいですから、一眼レフならではの表現ともいえるでしょう。ぼかしやすい望遠レンズや大口径レンズを活用してスマホとはひと味違った表現をしてみましょう。
季節の移り変わりを捉える
でかけたのが紅葉のピークに当たれば見事な景色になりますが、タイミングもなかなか難しいものです。まだ色づきが浅かったり、もうピーク過ぎで葉が傷んでしまっていたりすることの方が多いですよね。そんなときも諦めないで、季節の移り変わりとして景色を探してみましょう。
毎年のようにピークの紅葉を撮影していると、結果的に同じ写真を撮っていることになってしまいます。同じ場所でも紅葉のタイミングが違うと絵になるポイントや木々も違ってきて、作品に変化が生まれるはずです。今の景色は今しか撮れないと考えて、その季節の移り変わる瞬間を意識して撮影しましょう。
あとで見直すとそういうワンカットが組写真を作るときに良いアクセントとなって活きてくるのです。
まとめ
一年のなかで最も自然が彩りに溢れる紅葉シーズン。せっかく撮影に出かけたら紅葉のコンディションや天候に左右されず、存分に楽しみたいものです。それはちょっとしたひと工夫で可能になります。絶景にこだわらず、ネイチャースナップ的視点を持って、ゆっくりのんびり景色を感じてみましょう。ゆっくり景色と語り合うことで、自然は応えてくれるものです。
■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。