富士フイルム X-S10はペット撮影に適しているのか?|湯沢祐介
はじめに
私が本格的にペット写真を初めて約15年。当時に比べ、ペット写真を撮る人の数はかなり増えました。カメラの普及はもちろんSNSの普及がペット写真人気に拍車をかけたように感じます。かつてペット写真はプロに撮ってもらうものだったのが、自分で撮るものに変わりました。
たくさんのペット写真で溢れているSNS上にはプロと見紛うほどの腕前の方もたくさんいます。そしてそんな素敵な写真を見て「私もこんな風に撮りたい!」とカメラを始める人も多くいます。実際に私が受けるカメラ選びの相談で多いのが重さです。出来るだけ小型で軽いカメラがいいけどちゃんと撮れるカメラがいい。そんな相談を実によく受けるのです。
そこで今回は2020年11月に発売されたFUJIFILMのX-S10でペット撮影に挑戦。コンパクトでありながらX-T4と同等なスペックを持った優秀なカメラと言われているのは本当なのか。実際に撮ってみてX-S10はペット撮影に適しているのかを検証していきます。
ペット連れに嬉しい小型軽量
冒頭でお話しした通り、ペット撮影を楽しむ一般の方は非常に多く、そのレベルはとても高いです。みなさん季節に合わせて様々な場所で撮影をするのですが、ペット撮影でネックになるのは荷物の多さでしょう。ペット撮影を楽しむ方たちはカメラ以外にたくさんのペット用品や撮影に使う小道具を持って出かけています。そんな中でよく聞くのは小さくて軽いカメラを求める声です。犬を連れて犬用品と小道具を持ってとなると、やはり重たいよりは軽いカメラにしたいですよね。
その点X-S10の重量はわずか465グラム(SDカード、バッテリー含む)と軽いので、肩や首からかけて歩いても重たくありません。またカバンに忍ばせて必要な時にさっと取り出せるので、遠方への撮影はもちろん、普段のお散歩のお供にも最適です。
ちなみに私が普段使用しているX-T4と比べると142グラム軽くなっています。操作性もより一般的な使いやすさになっていて、どなたでも抵抗なく使用できます。
多頭飼育している方はさらに荷物が増えます。2匹、3匹と連れて歩く方には特にオススメです。
しっかり握れる深いグリップと安心の手ぶれ補正
小さいカメラを使う上で私がネックに思っているのはグリップの小ささです。片手で撮影する事も多々ある私にとってグリップはとても重要な要素なのです。今まではカメラが小さくグリップも浅いのでしっかりと掴む事が出来ず、無駄に握力を使わなければならないなんて事もありました。しかしこのX-S10は小型にも関わらずグリップがとても深いのでグッとしっかり握る事ができるのです。
まるで大型のカメラのような安定感のあるグリップ。それでいて軽いんですから言うことなしです。このグリップの深さは片手撮影が多い私にとってとても大きなメリットです。
こちらの写真のように目線をコントロールして撮りたい時には左手に猫じゃらし、右手にカメラを持って猫をあやしながら撮影します。もしもグリップが浅いとカメラが安定せず手が必要以上に疲れてとても撮影しづらいのですが、グリップの深いX-S10ならしっかりと握る事が出来、片手でもカメラを安定させて撮る事が出来ました。
深いグリップでしっかり持てたとしてもやはり片手撮影で気になるのは手ぶれです。その点X-S10には5軸6段のボディ内手ぶれ補正が付いています。これのおかげで片手持ちでも手ぶれのない写真に仕上がります。屋内撮影がメインとなる猫撮影において深いグリップとボディ内手ぶれ補正はとても心強いです。
野良猫撮影との相性は?
さて家猫もさることながら野良猫も私の好きな被写体の筆頭です。果たして野良猫撮影とX-S10の相性はどんなものでしょう。
野良猫撮影は最初に被写体である野良猫を探すところから始まります。普通の街中、観光地、公園などなど、野良猫がいそうな場所をただひたすら探し回ります。今回もちょっと大きめな公園をあっちこっちと歩き回りながら野良猫を撮影してきました。
このようにたくさん歩きながらの撮影の時、小型軽量はやはり嬉しいです。大きなカメラを持って歩くとじわじわとストラップをかけた肩が痛くなるのですが、X-S10では全く疲労を感じませんでした。長時間且つ移動も多い野良猫撮影との相性は抜群です。
公園内をふらふら歩いていると園内でくつろぐ野良猫を発見。警戒されないように遠くからちょっとずつ近づきます。人に慣れているのか、単に私に興味がないのかはわかりませんが、逃げる様子がなかったのでグッと近づいて撮影。カメラがコンパクトだと被写体に圧迫感を与えないので近づきやすく、自然な表情を捉える事ができます。
バリアングルでもう服は汚さない
人間に比べかなり背の低い犬や猫。そんな彼らの表情をしっかりと撮りたいのならば被写体の目線の高さで撮る必要があります。出来るだけ低く、地面すれすれで構える場合、かつての私は地面に寝そべってファインダーを覗いて撮影していたものです。
室内ならまだしも屋外でしかも雨上がりや朝方の公園などでは水や泥で、一瞬で服が汚れてしまうんです。でもバリアングル方式のX-S10なら寝そべらずとも被写体目線(ローアングル)で無理なく撮る事が可能です。
こちらの写真は液晶を上に向け、しゃがみながら撮った一枚。ペットや野良猫撮影ではローアングルで撮る事が多いのでバリアングル液晶の恩恵をモロに受けます。私はファインダーを覗いて撮る派ですが最近は液晶を使って撮る機会もかなり増えました。おかげで服をドロドロにしながら撮るなんて事もなくなりました。
ペット撮影の命、ボケ味はどうなの?
ペット撮影で重要なのは何と言ってもふんわりとしたぼけ感。X-S10とレンズの組み合わせでどんなぼけ味の写真が撮れるのでしょう?
まずはこちらの写真。使用したのはXF35mmF1.4 R。開放値1.4の明るくて軽量なレンズです。柴犬を廊下であやしながら撮影しているとペタッと座って一瞬口を開きました。その一瞬を逃さず撮るとこのように笑ったような写真に仕上がります。
さて肝心のボケ味ですが、さすが単焦点レンズと言える柔らかなボケ味です。背景はもちろん、目よりも手前に伸びている鼻もぼけています。ふんわりとした優しいボケ味が被写体のかわいらしさを引き立ててくれていますね。
続いてはこちら。私がペット撮影でよく使うXF50-140mmF2.8 R LM OIS WR。ペット撮影の定番レンズで、特に屋外での撮影で重宝します。
お花畑で撮った一枚。望遠端の140mmで撮影しています。狭い範囲を切り取る望遠レンズはお花畑で大活躍。綺麗なボケ味はもちろん、圧縮効果で手前から奥までお花で埋め尽くされた写真に仕上がります。
そして再び野良猫です。こちらも綺麗なボケ味ですね。遠くから被写体を狙い、前ボケを入れる事で野生感を出しています。ネコ科の鋭さを強調するために少し暗めに設定。フィルムシミュレーションはVelvia。緑が鮮やかになりました。よく見ると猫の瞳も緑なのがポイント。
同じ被写体を別角度から撮影。背景の見え方が変わるだけで印象も変わります。後ろにいるもう1匹の睨みが最高です。
私が普段から愛用しているレンズをX-S10につけて撮影してみましたが、そのぼけ味はご覧の通りとても美しいという事がわかりました。
走り回る犬を激写する!
ペット撮影で絶対撮りたいのが元気に走っている愛犬の姿。成功すれば躍動感のあるかっこいい写真になりますが、じっとしている写真よりも難易度グッと上がります。ペット写真を撮り慣れている方でも「走っている写真を撮るのは苦手」という方も多いです。
さて、この写真を撮る時にカメラに求められるのがAF精度です。コンパクトなX-S10は走っている犬の写真をしっかりと捉えるAF性能があるのでしょうか?
AFモードをAF-Cに設定し走ってくる犬を正面から撮影。AFフレームが出来るだけ被写体の目に合うようにフレーミングしてシャッター半押しでフォーカスを合わせ続けます。被写体がちょうど良い大きさになるぐらいまで近づいたらシャッターを押し込み連続撮影。そうして撮った写真がこちら。
勢いよく走ってきた所を連写し空中を飛んでいるような写真になりました。かなり速い動きでしたが、しっかりとピントを合わせてくれました。
今度はもっと難易度を上げて川遊びをしているシーンに挑戦です。
まっすぐこちらに向かってくる先ほどとは違い、どこをどう動くかわからない状態での撮影です。さらに水しぶきも上がるので余計にピントが合い辛い非常に難しい条件ですが、見事にピントを合わせてくれています。
出来るだけ水面に近い方が犬の表情がわかるので私も川に入り胸のあたりまで水に浸かりながら撮影しました。流れに負けないように踏ん張りながら(大事なカメラを水没させないように慎重に)撮った1枚です。なかなか大変な撮影でしたが難しい条件でもピントを合わせ、動きのあるシーンもしっかり撮れるカメラだということがわかりました。
まとめ
様々なシーンを撮ってわかったのは小型な見た目とは裏腹に、十分な性能を持った心強いカメラだと言うこと。かわいくもかっこよくも撮れるX-S10はペット撮影に適していると言えます。
これからペット写真を始めたいと言う方もサブ機として使ってみたいと言う方、そして何より小さくてもしっかり撮れるカメラが欲しいと思っている多くの方々にオススメな一台です。
■写真家:湯沢祐介
1980年東京都生まれ。
七色の声を使い分けてわんちゃんの気を引き、猫じゃらしで猫を操りながら撮影するペトグラファー。
その巧みな猫じゃらしさばきから「猫じゃらしの魔術師」の異名を持つ。
写真教室講師、原稿執筆、テレビ出演、レンタルフォト撮影など多岐にわたる活動をしている。著書には「ペトグラファーが教える ペットの可愛い撮り方」(日本カメラ社)「こねこ」「こいぬ」(ポプラ社)、「ねこもふ。ごーじゃす」(宝島社)他がある。