早春の香り漂うスイセンを撮ろう|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
私が年の初めに撮る花のひとつがスイセン。春に咲くセイヨウスイセンではなく、冬に咲くニホンスイセンです。地域によって開花期は異なりますが、12月末から2月ごろに見頃を迎えます。日本三大群生地とされているのが、兵庫県の淡路島、福井県の越前海岸、千葉県の南房総。三代群生地には入っていませんが、静岡県の下田市にある爪木崎も首都圏からアクセスしやすいです。
ニホンスイセンの花は3~4cmほどと小さく、一本の茎から複数の花を房状につけます。花びらは白く、中央にある副花冠は黄色で少しうつむいたように咲きます。アップで撮る時はピント位置に迷いますが、シベが見える場合はシベに合わせ、横から見るときはシベが見えないので副花冠の手前に合わせると自然に感じると思います。
今回は2作品ずつに分け、対比させながらテクニックを解説していきます。どちらも正解なのですが、自分の求める表現によって、撮り分けられるようにしましょう。
背景の選択
作品1は花が光の方向を向いて咲いています。強い光が差し込んで、画面の左上にわずかながらに光の筋が見えますね。太陽の光に向かって咲く、力強いイメージに仕上げました。光の筋が見えるように、背景は大きくぼかしています。
しかしながら、周囲にもスイセンがあることを感じさせるために画面の下には周りのスイセンをぼかして入れました。また、光の筋が感じられるよう、明る過ぎず、暗過ぎずの程よい露出を選択しています。彩りの華やかさはありませんが、主役を引き立て、光を見せる背景になっています。
作品2はピンク色の背景がポイントです。2月に撮影したのですが、河津桜がちょうど満開でした。桜にも夕日が当たり、明るい雰囲気です。しかし、冬の夕暮れの光なので、どことなく弱々しく、優しげに感じます。
スイセンの花自体は白と黄色なので、ボケるとクリーム色になります。色彩豊かな背景は作りにくいのですが、花の周囲にどんな色があるのかを探しながら背景を見つけるといいですね。
アングルの選択
作品3は下から見上げるアングルで撮影しました。スイセンは下向きに咲くので、花を正面から撮ろうとすると見上げなくてはなりません。しかし、ここでは正面から撮るとことが目的ではなく、背景を青空にしたかったのです。
ちょうど天気が良く、青空にところどころ白い雲が浮かび、絶好の青空バックを撮るチヤンス。青空の色が濃く出るのは順光なので、順光で正面を向く花は撮れるポイントを探し、カメラを地面スレスレに据えます。ローアングルは姿勢がキツくなりがちですが、私が使用している機種は可動式の液晶モニターを搭載しているので、楽な姿勢で撮ることができます。
作品4はほぼ同じ場所ですが、斜面の上に咲いている花をやや見下ろし、背景に海を入れました。青色が綺麗ですし、花が咲いている環境を見せることもできます。海の色が綺麗に出るよう、ここでも順光を選び、PLフィルターを使用して水面の反射を取り除きました。また、主役のスイセンが目立つように、背景は様子がわかる程度にぼかしています。
アングルが変われば、背景も変わります。同じ場所でも、見上げれば青空が、見下ろせば青い海が背景に入ります。ひとつの花をいろいろなアングルで狙ってみるとバリエーションが広がりますよ。
明暗差を使う
作品5は“花に光が当たり、背景は日陰”というパターン。花には強い光が差し込み、明るく照らしています。しかし、背景は日陰なので、花と背景に大きな明暗差が生じて黒く写っています。
肉眼では真っ黒には見えないのですが、人間が見られる階調より、カメラが再現できる階調の方が狭いので見た目以上に黒くなるのです。露出を暗くするだけでは全体的に暗くなるだけで、花も暗くなってしまいます。花はちょうどいい明るさで、かつ、背景が暗くなるにはこの明暗差が必要になるのです。どのくらいの明暗差が必要かは実際に写してみて、勘を養いましょう。
その逆のパターンが作品6です。“花は日陰で、背景は明るい”という状況。明け方で空は明るくなってきたのですが、花にはまだ日が当たっていないので、空に露出を合わせると花はシルエット気味になります。花に露出を合わせるため、明るく写すことはできますが、そうすると空が白っぽくなってしまいます。主役はもちろんスイセンですが、ここでは空を生かしたいので、空が適正露出になるようにして、花はむしろシルエットになることを愉しみましょう。
主役も背景も明るい同士、暗い同士ではこのテクニックは使えません。明暗差があるシーンを積極的に利用して、黒バック、明るいバックを作り出してみましょう。
光を読む
ここでは光の強さと光の色の違いを見てみましょう。まずは光の色について。作品7の撮影時間は午前10時。冬の日中に撮影しています。晴れた日の光は色の影響がないので、白いスイセンの花は実際の色がそのままに白く写っています。
一方、作品8の撮影時間は午後5時。夕日の光を浴びて、オレンジ色に染まっています。作品6のような日の出前や日の入り後では青みがかります。このように時間帯によって光の色に変化が出ます。色をそのままに出したい時はホワイトバランスをオートにすると補正がかかるので、WB晴天(太陽光・昼光)にすると、光の色がそのままに再現されます。
どちらも花に光が当たっていますが、光が差し込む角度が違います。作品7は太陽がほぼ上にあるので全体的に光が回っています。主役の花も前後の花にも光が当たり、フラット気味な印象です。主役を目立たせるために前後の花はぼかして、主役だけがシャープに見えるよう工夫しています。一方、作品8は低い角度から光が当たるので、丈の高い花にだけ光が当たり、周囲の花は日陰になっています。主役だけが明るいのでこれが主役だとわかります。コントラストが高く、メリハリのある画面になりました。
写真を撮る上で、光を読むことはとても大切です。時間帯の違いによる光の差、光の差し込む角度、光の強さなどをよく見て、作品に活かしましょう。
おわりに
今回はスイセンをモチーフに「背景選び」「アングル」「明暗差」「光を読む」と4つのテーマを取り上げました。そのうちどれかひとつを意識すれば良いのではなく、どのカットにも複合的に要素を取り入れていく必要があります。工夫をすればするほど、撮影が楽しくなっていきますよ。
写真では伝わらないのですが、ニホンスイセンはとても香りが強い花です。花畑で撮影していると、良い香りに包まれてとても幸せな気持ちになります。ぜひ、撮影に出かけてみてください。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。
・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員