OM SYSTEMで撮影する 夜の風景写真のススメ|礒村浩一
はじめに
風景写真は写真撮影を楽しむ人々のなかで、昔からとても人気の高い撮影ジャンルのひとつだ。カメラを携え風光明媚な地を訪れ、その美しい風景をカメラに収めることができれば、写真というものの楽しさも倍増だろう。それを目的にして旅行計画を練るのもまた楽しいものだ。ただ人気の撮影地は常に多くの人々が訪れ、ネット上のSNSや写真投稿サイトなどでもすでに多くの作品が公開されており、せっかく時間をかけて現地を訪れ撮影したとしても、どうしてもどこかで見たような写真になりやすい。
そこでオススメしたいのが「夜の風景写真撮影」だ。日没後の風景は日中の見慣れた風景とは趣も大きくかわり、夜の限られた光の中で撮影した写真は、撮影方法次第で肉眼で捉える光景とはまったく違う表情を見せてくれる。それゆえに同じ撮影地であっても日中に撮影された作品との差別化も難しくない。ただし太陽光という圧倒的な光がある日中とは異なり、少ない光を効率的にカメラで捉えるためのテクニックの習得は欠かせない。そこで、ここでは夜の風景撮影に必要な機材やカメラ設定、基本的な撮影テクニックなどについて解説を行おう。
この記事で使用した主なカメラ
この記事内で紹介する作品は、主にOMデジタルソリューションズ社のミラーレス一眼カメラ「OM SYSTEM OM-1」および「OM SYSTEM OM-5」で撮影したものだ。マイクロフォーサーズ規格に準拠したデジタル一眼カメラであり、夜景撮影においても高い画質の画像を得ることができる。また夜景撮影における星の撮影に効果的な機能も備えているので、これらを活用した撮影方法なども併せてご紹介しよう。
夜の風景撮影で用意するもの
▼三脚
限られた光のなかで撮影を行う為にはいくつか用意したい機材がある。極めて光量が少ないなかで適切な露光量を得るには、シャッタースピードを極端に遅くする長秒露光撮影を行う必要があるからだ。そのためには、まず何をおいてもカメラを固定するしっかりとした三脚が必須だ。最近のデジタル一眼には強力な手ぶれ補正機能が搭載されている機種も多く、条件さえよければ1秒程度の長秒露光であれば手持ちで撮影することもできなくはないが、決して歩留まりの良い方法ではない。夜景撮影においては、やはり確実にカメラブレを起こさずに撮影できる三脚は欠かせないのだ。
▼スイッチ
長秒露光撮影では少しのカメラブレでも画像のクオリティに大きく影響を及ぼしてしまう。通常の撮影では指で直接シャッターボタンを押して撮影を行うが、指でカメラに触れた際に発生する振動は長秒露光撮影ではカメラがぶれてしまう大きな原因となってしまう。カメラブレの抑制には直接カメラに触れることなくシャッターが押せるリモートスイッチの併用が基本だ。OM-1およびOM-5では有線ケーブルで接続するリモートケーブルRM-CB2と、無線でも接続するワイヤレススイッチRM-WR1が使用できる。また、カメラとペアリングさせたスマートフォンから専用アプリでワイヤレスコントロールすることも可能だ。
▼ライト
カメラ機材を両手に撮影地まで歩いて移動する際には十分に気をつけて行動しよう。特に夜の暗い中での移動では足元を照らすライト類も忘れずに用意する。そして初めて訪れる場所では出来るだけ明るいうちに下見を行うようにしたい。暗闇では見にくくなる段差などを、あらかじめ確認しておくことで転倒などの危険性を下げることができる。
また暗い中ではカメラを三脚に取り付ける際や、レンズ交換を行う場合には誤って落下させることのないように十分な注意が必要だ。そのためにも両手が自由になるヘッドライトやネックライトなども用意しておきたい。ただしライトが明るすぎると、目が周囲の暗さに馴染むまで時間がかかってしまうので注意が必要だ。さらに周囲に他の撮影者がいた場合は撮影に影響を及ぼしてしまうことにもなりかねない。事前にライト部に濃い青や赤などのフィルターを貼り付けておくなどして、減光しておくように心がけよう。
▼レンズヒーター
夜の屋外での撮影では夜が更けるにつれ外気温が下がる。それにより長時間撮影を続けていると、レンズ鏡筒の中に封じ込められた空気と鏡筒外の空気との間に気温差が発生し、レンズ表面に水蒸気が結露することで曇りが発生することがある。レンズが曇ってしまうと撮影画像が滲んでしまうので注意が必要だ。
これを防止するためにはレンズ自体を温めることで外気との温度差をなくし、結露が発生しない状況を作る必要がある。そのためのアイテムがレンズヒーターだ。レンズヒーターはベルト内に電熱線が仕込まれており、USBケーブルなどで電源となるバッテリーに接続することで発熱させレンズを温める。ところで結露は冬季のみならず湿度の高い夏季でも発生するので、夜景や星景撮影をよく行う人は常に用意しておくとよいだろう。
▼アングルアダプター
夜景撮影に限らず風景撮影では最適な構図を得るために、横位置・縦位置を頻繁に変えながら試行錯誤を繰り返すことも珍しくない。通常はその都度三脚の雲台を傾けて構図を整えるのだが、それによりレンズの中心位置が変わってしまうことや、カメラの重心が変化することで水平位置を都度正確に合わせるのに手間取ってしまうことがある。これを解決してくれるアイテムが回転式の「ATOLLアングルアダプター」だ。これはカメラそのものをアングルアダプターのリング回転機構に取り付けることで、横位置・縦位置を自在に調整できるとても便利なアイテムだ。例えるなら、OM SYSTEMであればM.ZUIKO DIGITAL ED 40-150mm F2.8 PROに装着されている三脚座のような操作性となる。
なおリングに固定されるのはレンズではなくカメラボディなので、アングルアダプターにカメラを装着したままでのレンズ交換も可能だ。筆者はこの製品を少し前にアマゾンで見つけて購入したのだが、最近ケンコー・トキナーが国内の正規販売代理店となったとのことで、一般のカメラ機材販売店でも購入が可能となった。
なお筆者の使用環境ではOM-1およびOM-5への装着はミドルサイズの「ATOLL C」と別売の「ハイトニングプレート」を組み合わせることで、マウント中心点にリング位置を合わせて使用できている。これは使用するカメラのサイズやレイアウトによって変わるので、使用するカメラで装着が可能か、装着による制限が発生するかを、製品の紹介サイトなどで事前によく確認したうえで購入を検討しよう。
夜景撮影におけるカメラの基本設定
夜景撮影でのカメラ設定は、日中の撮影における設定を低照度での撮影に合わせて拡張したものとなる。基本的な露出の考え方は同じで、設定したい絞り値に合わせてシャッタースピードとISO感度を選択して、適正露出を導いていく。ただし日中の明るい被写体とは違い、光量が極めて少ないのでレンズは開放絞り付近に合わせることが多くなる。
まずは撮影に用いるカメラでレンズの絞りを開放絞り値(絞り値がもっとも小さくなる数値)に合わせたうえで、撮影したい風景をフレームに入れズームレンズの焦点距離を調整し構図を定める。構図内にある程度の明るさとコントラストを持つ物があればピント合わせはオートフォーカスでも可能だが、そうでない場合やAFが迷うような時はマニュアルフォーカスに切り替えて、カメラの背面モニターを見ながら正確にピントを合わせる。この際にライブビュー画像の一部を拡大表示させたうえでフォーカスリングを回すと、より正確なピント合わせが可能だ。
OM-1/OM-5には夜空の星にAFでピントを合わせることができる「星空AF」が搭載されている。AF方式で「星空AF」を選択したうえで、ターゲットモードをシングルターゲット、グループターゲット(3×3,6×6)のいずれかにして、ターゲットを画面内の明るい星に合わせ[AEL/AFL]ボタン(初期設定)を押すとフォーカスが開始され星にピントが合わされる。なお星空AFではカスタムメニューにて[精度優先]と[速度優先]が選択可能。[速度優先]ではより短時間で星にピントを合わせることができるので、ISO感度を上げた状態なら強力な手ぶれ補正機構と組み合わせることで、手持ちでの星空AF撮影さえもできてしまう。
OM-1/OM-5には低照度でもEVFおよび背面モニターに明るく画像を表示することができる「ナイトビューモード(OM-1)/LVブースト(OM-5)」が搭載されている。通常モードでは暗くて状況を確認しづらい被写体の様子を、表示画像を明るくすることで見やすくする機能だ。この機能をONにすることで夜景や星景撮影においても構図を整えやすくなる。
ただしOM-5のLVブースト[On2]ではより画像が明るくなるものの、画像のフレームレートが下がり若干画像がカクカクした表示になるので、構図が決まったらLVブースト[On1]もしくはOFFに切り替えてからカメラの操作を行うとよい。なお、あらかじめボタン機能設定で使いやすい位置のボタンに割り当てておくと、暗い中でも戸惑うことなくワンプッシュで切り替えることができるのでお勧めだ。
風景撮影では構図を整えるのに有効な罫線だが、夜景のように暗い背景では黒い罫線だと紛れて見えにくくなってしまう。そのようなときはガイド線設定で罫線の色を明るいグレーなどに変更すると見やすくなる。
構図が決まったらテスト撮影を行い露出のバランスを整える。あらかじめ開放値に設定した絞りにあわせて、適正露出となるシャッタースピードとISO感度の組み合わせを導き出す。シャッタースピードは周囲の明るさで決まるが、太陽が完全に沈んだ状態で、かつ月明かりおよび周囲に人工光がない状況であれば、まずは15秒に合わせてISO感度は1600程度でテスト撮影を行い、写った画像の明るさを確認するといいだろう。
それで明るければシャッタースピードを短くし、暗ければシャタースピードを30~60秒を目安に長くするか、ISO感度をISO3200~6400程度にまで上げて露出バランスを取るようにしよう。ただしISO感度は上げすぎるとノイズが発生してしまうので注意が必要だ。
満月の夜に月明かりで撮影した棚田の風景。限られた明るさでも丁寧に光をすくい上げることで、日中とは違う風景を写真に収めることができる。
高感度ノイズの除去に効果的なAIノイズ除去
夜景撮影において、高いISO感度での撮影で発生するノイズは極力避けたい現象だ。そのためには可能な限りISO感度は上げずに撮影したいところだが、淡い明るさの天の川の星々などを捉えるには、どうしてもISO感度を上げて撮影する必要がある。最新機種のOM-1/OM-5では高感度ノイズの発生は最小限に抑えられてはいるものの、よりノイズを抑えた画像を得るにはRAW現像時にノイズ低減処理を行う方法もある。特に最新のAdobe Photoshop 2023に搭載されている「AIノイズ除去」機能は、RAW現像を行うCamera RAW内で処理ができるなど操作もわかりやすく、また効果もとても高い。
AIノイズ除去を行うには撮影画像のRAWデータをPhotoshp 2023のCamera RAWで開いた上で[ディテール]-[ノイズ軽減]-[ノイズ除去]を選択すると[強化]ウインドウが開く。[ノイズ除去]にチェックが入っているのを確認のうえプレビュー画像を見ながら適用量スライダーを動かし最適な数値を選び、[強化]ボタンを押すとノイズ除去作業が始まる。ノイズ除去作業が終わったらPhotoshop 2023上でDNGファイルとして画像が開くので、その他必要な画像処理を行なったうえでJPEG等のファイルとして別名保存する。
左がオリジナル画像、右がAIノイズ除去を行なった画像。暗部のノイズが大きく抑えられ、ほとんど目立たない状態になっていることがわかるだろう。なおOM SYSTEMの純正ソフト「OM Workspace」にもAIノイズリダクション機能が用意されている。ただし対応可能なOM SYSTEMのカメラ機種限定、動作要件を満たしたPCの使用、事前のAIノイズリダクション機能のダウンロードが必要となる。
夜景撮影でも効果的なフィルターワーク
夜景撮影においてもフィルターは効果的に光量や光質の調整を行うことができるアイテムだ。日中ほど大きな差ではないものの、月の明かりの下などでは夜の空と地上とでも明るさに差は発生する。また街灯など人工的な灯りの影響でも同様だ。
この差を縮める目的にハーフNDフィルターはとても有用となる。ただし夜景撮影の被写体として取り上げられることが多い人工灯の点光源などは、フィルターを使用することで滲みやゴーストの原因となることもあるので、使用するフィルターは出来るだけ品質の高い製品を選ぶようにしよう。
夜空の撮影では、近隣の街明かりや街灯などが空の色味に影響を及ぼすことが多い。そのような時に効果的なのが光害除去フィルターだ。光害除去フィルターは水銀灯やナトリウム灯などの人工光が夜空に及ぼす影響を抑えてくれる効果がある。これらの光はホワイトバランスだけでは調整が難しいので、有害光の波長をカットしてくれるフィルターの存在は心強い。
ライブコンポジット撮影で夜の光景を演出する
夜の風景撮影において、星空は積極的に取り入れたい要素だ。日中とは異なる姿を見せる山や海など風景の空に、光り輝く星々が広がることで、よりドラマチックな光景となる。ただし空に広がる星々は、地球の自転に合わせ一時間に15°天空を移動し輝く位置を変えていくため、星々を写真に収めるに際にこの動きをどのように写真に取り入れるかを考えたうえで撮影方法を決めよう。
暗い森の上に広がる夜空。空の条件も良く淡い雲のように広がる天の川の星々まで捉えられている。左は星々を点に写るように1コマのみの撮影とした。右はOM-1のライブコンポジット機能を使用して、連続して54枚撮影した画像をカメラ内で比較明合成することで、時間と共に移動した星の点を繋ぎ輝線として一枚の写真とした。いずれも同じ夜空を撮影したものだが、肉眼で見ることができる星空のように星々を点として写真で表現することで現実的な風景とするか、星々の動きを繋いだ輝線とし写真のなかで時間の流れを表現するかのか、それぞれの表現方法を選択することができる。
OM SYSTEMのカメラに搭載されているライブコンポジット撮影機能は、連続して撮影した画像をカメラ内で比較明合成し、一枚の画像として記録・保存する機能だ。比較明合成とは複数枚の画像を重ね合わせる際に輝度の高い箇所のみを暗部に乗せるようにして像とするというものだ。つまり星空においては、時間経過とともに移動する星=輝点を暗い空に連続して書き込んでいくことで、点が線となり周回運動を輝線で表現することができる。なおライブコンポジット撮影では、バルブ撮影とは異なり撮影時間を重ねても暗部である夜空は明るくなることはない。
ライブコンポジット撮影を行うには、モードダイヤルを0M-5ではMに、OM-1ではBに合わせたうえで、シャッタースピードダイヤルを回しLIVECOMPに合わせる。このとき絞りは開放絞り値、ISO感度はとりあえず1600程度で構わないだろう。そのうえでメニューボタンを押して表示される[コンポジット撮影設定]画面で、1ショットあたりの撮影時間を1/2~60秒の間で設定し、撮影する構図を決めて星にピントを合わせた上でシャッターボタンを押す。
たとえばレンズの開放絞り値がF2.8であれば、コンポジット撮影設定で30秒に設定することで、F2.8,30秒,ISO1600の組み合わせで自動的に連続して複数ショットの撮影が行われる。これは撮影者が再度シャッターボタンを押しライブコンポジット撮影を終了させるまで繰り返される。このライブコンポジット撮影中でも、夜空の星は1時間に15°移動することから、ライブコンポジット撮影を30分(60コマ)続けると星は7.5°天空を移動する。このとき移動した星の光が繋がることで、結果的に輝線として画像に記録されるというわけだ。
ライブコンポジット機能は星の撮影以外でも効果的な撮影ができる。ここでは打ち上げ花火の撮影においてライブコンポジット撮影を行なった。ライブコンポジット設定で1ショットの撮影時間を8秒間に設定し、花火が打ち上がるタイミングに合わせて撮影をスタート。3ショット露光の間に時間差で打ち上がった花火を、比較明合成で同じ画像に重ねて記録することができた。
なおこの撮影では、打ち上がった花火はとても明るい閃光であることから、露出オーバーとなり花火が白飛びしてしまうことを防ぐため、水平線から上の花火にND効果がかかるようにハーフNDフィルターを装着してある。併せてC-PLフィルターも併用し、ハイライトとシャドウのコントラストを高めてドラマチックなイメージを得ている。
夜景撮影ならではの光を捉えて魅力的な風景作品を創ろう
夜景撮影と聞いて多くの人が思い浮かべるのは、高所から望む街明かりの輝きやイルミネーションのキラキラした光景だろう。これらの夜景は人工の灯りが描く煌びやかさを通じて、人の活発な活動を写真で表現することに繋がる。一方、今回提案した夜の風景写真では、普段の生活ではあまり人が目にすることがない、自然の夜の表情や星の巡りなどを写真に捉えることで、太古から未来への時間の流れを表現することにも繋がる。これはきっと作品制作の幅を広げてくれるはずだ。
夜の限られた光量の下では光を的確に読み、効率的に光量をすくい集めるためのテクニックや機材等の準備が欠かせない。だが撮影を繰り返しある程度慣れてしまえば、むしろ日中よりもじっくりと風景に向かい合い自身のペースで撮影を進められる。さらに時間をかけて同じ場所の風景を日中と夜景の両面から撮影するというのも面白いだろう。このように、思い切って夜という帳を開いてしまえば、これまで以上に表現の幅が広がるに違いない。
もっとも夜の暗い中での撮影であるだけに、思いがけない事故や防犯への対策などは十分に行う必要はある。夜間の行動に不安がある方は無理をせずに、まずは夜の風景撮影をテーマとした撮影会や撮影ワークショップに参加するのもいいだろう。筆者も定期的に夜の風景撮影ワークショップを開催しているが、参加された方はとても楽しみながら撮影を進めているのが印象的だ。今回の企画をご覧になり夜の風景撮影に興味を持たれた方は、ぜひ機会を設けてトライされることをオススメする。きっとこれまで以上に風景撮影の楽しさと表現の幅が広がるはずだ。
早朝、太陽が昇る瞬間に赤く染まる里山の雲海。
■写真家:礒村浩一
広告写真撮影を中心に製品・ファッションフォト等幅広く撮影。著名人/女性ポートレート撮影も多数行う。デジタルカメラ黎明期よりカメラ・レンズレビューや撮影テクニックに関する記事をカメラ専門誌に寄稿/カメラ・レンズメーカーへ作品を提供。国境離島をはじめ日本各地を取材し写真&ルポを発表。全国にて撮影セミナーも開催。カメラグランプリ2016,2017外部選考委員・EIZO公認ColorEdge Ambassador・(公社)日本写真家協会正会員