20年の時を超えてつくられたフィルムカメラ「PENTAX 17」|現代にマッチしたアナログ製品の魅力や開発秘話を担当者にインタビュー
はじめに
PENTAXにとって20年ぶりのフィルムカメラとなる、PENTAX 17が2024年7月12日に発売となりました。現代の若者向けにつくられたアナログのフィルムカメラ「PENTAX 17」の魅力や開発コンセプト、制作秘話をリコーイメージング PENTAX事業部 商品企画兼デザイナーの鈴木タケオさんにお伺いしましたので是非ご覧ください。
フィルムカメラプロジェクトについて
元々は新しいカメラの企画をたてようと考える中で、若者のフィルムカメラ人気などもありましたのでフィルムカメラの研究をしていました。今のフィルムカメラの現状はどうなのかと調べてみると、若い方がネットで中古のフィルムカメラを買って、撮影しようとしたら故障していたというような話しが出てきました。中古はコンディションがバラバラなので、そういった事もあるのかもしれませんが、若い方がせっかく頑張って購入したのに、それは本当につらい事だなと思いました。そこからメーカーとしてフィルムカメラを安心して楽しめる環境をつくるお手伝いができたらいいなと思い始めるようになり、それがフィルムカメラプロジェクトをつくるきっかけとなりました。
また開発を進めるにあたり多くの方のご意見を頂きたいという事もありましたので、2022年の年末にフィルムカメラにもう一度チャレンジしますという取組みをフィルムカメラプロジェクトとして発表させて頂き、いくつかの動画をリリースさせていただきました。そこから少しづつ制作を進めて行き、この度多くの方々の協力のもと、晴れて製品化する事ができました。本当にありがとうございました。
PENTAX 17はどんなカメラ
最初のカメラがどういったものが良いか非常に悩んだのですが、フィルムやアナログのカルチャーを拡げていけるようにすべきと考えまして新しいユーザーの皆さま、特に若い皆様がアナログの世界に入ってくるきっかけになるようなモデルになれば良いなと思い制作を進めてきました。
デザインに関しても多くの方からご意見を頂戴しました。若い方からベテランの方まで本当に沢山の方にご意見を頂いたのですが、面白いことに殆どの方がフィルムカメラはクラシックなデザインの方が良いと仰っていましたのでその方向で進めて参りました。
PENTAXではシルバーのモデルを沢山出していまして通常のシルバーはクセのない素直なものを使う事が多いのですが、今回はちょっと重たい感じでやや茶色がかったシルバーにしています。これはPENTAXが創業75周年を迎えた年につくられたLXチタンというフィルムカメラのハイエンドモデルがありまして、今回このLXチタンのカラーを復刻したものを採用しています。写真では少しわかりづらいかもしれないので、一度実物を見て頂けると嬉しく思います。
主だった特長
一つ目は構図が縦ということになります。カメラは横長ですがファインダーは縦になっていまして、これは昨今スマートフォンを使う中で縦の構図が日常に溶け込んでいますので一番馴染みのある構図ではないかなと考えています。また撮影した後に現像したプリントをデータ化して楽しまれる方も多いと思うのですが、縦写真であればスマホで閲覧するのにマッチしています。
二つ目は過去のフィルムカメラが主流だった時代と比べるとフィルムの種類も生産量も異なりフィルム価格は高騰していますので、その中で少しでも沢山の撮影を楽しめるように、倍の枚数を撮影できるように出来ればと考えました。
この2つのを実現する為に今回はハーフサイズにする事にしました。ですのでハーフフォーマットが先行したわけでなく、重要なのは現代にマッチした縦構図にする事とランニングコストを抑えて倍使えるようにするためハーフが適切なフォーマットだったという事です。
僕は少し特別な日に朝起きてから夜寝るまでにスマートフォンで何枚撮ったのかを数えてみた事があるのですが、だいたい80枚くらいでした。スナップのようなかたちで日常を切り取ってもらうのであれば36枚撮りだとハーフカメラでは72枚撮れるので、1日たっぷり遊んでもらうのに十分かなと考えています。
外観のお気に入り
今回思いを込めてつくったので全てがお気に入りではありますが、一つ上げるのであればマイナスネジを使っているところです。普段意識されない方もいらっしゃると思うんですが、世の中のネジの殆どがプラスネジでマイナスネジはあまり使われてなく種類も少ないんです。
工業製品で大量生産する製品はほとんどがプラスネジで、それは工場で組み立てますので電動ドライバーで締める際に一度はまると外れにくいプラスネジの方が効率が良いという事もあり殆どのものをプラスネジで生産しています。
そんな中でもマイナスネジが使われている工業製品があります。例えば機械式の腕時計なんかは手のトルクが大事だったりする事からマイナスネジを使っていたり、金管楽器などは汚れを落としやすいなどのメリットからマイナスネジが使われているものがあります。
今回PENTAX 17で使われているマイナスネジも最後にボディーを締める大切なネジになります。また最後の仕上げの部分ですので、そこには拘り抜いたマイナスネジを使わせてもらいました。
この正面の2つのマイナスネジを締めて行くと、ネジのくぼみがキレイに直線に揃ったり、平行になったりする事はなく、バラバラの角度で締まるかたちになります。プラスネジでも同じように揃う事はないのですが、マイナスネジだと不揃い感がとても目立つかたちになり、その一つ一つが自分の持っているカメラの顔になるので、より愛着が持てるんではないかなと感じています。まあオタクの発想でもありますので、あまり気になさらず気づいた方は是非ご覧になって頂ければ嬉しく思います。
発表後の反応
我々もびっくりするくらい反応をいただきました。国内だけでなく世界中で大変な反響をいただきました。2022年の年末にフィルムカメラプロジェクトを立ち上げて動画を配信した時も世界中の沢山の方が反応してくださって、その後もアドバイスとか色々なご意見をいただきました。そして今回製品発表をした時は皆さまから、「おめでとうございます」と言われまして、とても感激しました。製品を発表してお祝いの言葉を頂ける事に感極まって、ポロっと泣いてしまいました。それだけ心のこもったメッセージを頂き、我々も大変うれしく思っています。
カメラ業界の方からも沢山の方からお声をいただきました。勿論デジタルもそうなんですけども、特にアナログに至ってはカメラだけ出しても全然ダメで、業界全体で支えていくビジネスだと思うんです。フィルムメーカーもそうですし、製紙、現像、ラボ、現像液の処理、中古販売など様々な方によって、アナログの市場が支えられていますので、僕らはカメラをつくる事で下支えをさせてもらいたいと考えていて、本当にお邪魔させて頂いた感覚なんですよね。そういったところで、カメラ業界の皆さんもそうですし、アナログ関係の方からも「本当におめでとう」というお声や反響を頂き、僕らもとても嬉しかったですし、とても励みになりました。
印象深かった出来事
今回のカメラには手巻きの部分が必要だと思い採用したんですが、紙の図面しか残っていなかったで、そこから読み解いてつくることに困難を極めました。作業を進めて行くとどうしても分からないところが出てきて、そこをOBの方にアドバイスを求めました。
実は初めてOBの方へ相談した時は断られたんです。「今更フィルムかよ!」みたいな事や「今これだけ技術が進んでデジタルの恩恵をみんなが受けてカメラ業界が盛り上がっているのに、ここであえてフィルムカメラをやる理由は何なんだ?」というようなコンセプトに通じるような事を聞かれて、僕も一生懸命説明をしたら、しばらく考えてから「分かった、協力してやる」と言われ、そこから僕らも分からない事を教えてもらう事になりました。
そんな中、OBの方達に本当に少ないのですが謝礼というのを渡そうとしたら、また怒られて「ふざけるな、そんなものをもらえるか」、「お前らは若い人の為にカメラをつくるんだろう、そんな時にこんなものをもらえるか」と言われ電車賃する受け取ってもらうことは出来ませんでした。OBの方のパッションは凄いものがあって、フィルムプロジェクトのメンバー全員が凄く影響を受けました。
今後の活動
1機種ようやく出せたところですので、先のことをあれこれ言える状況でもないのですが、私たちはプロジェクトという事で始めたのでゴールはないんです。先々の事を考えるとアナログだと課題は沢山ありますので、少しづつではありますがアナログ業界の皆さんやカメラをつくられている皆さんと相談しながら進めて行ければと考えています。
フィルムカメラを使われているユーザーの皆さんのアドバイスも僕らを動かす原動力になっています。なのでそういった方の話を真摯にお伺いして、沢山の方に参加してもらい、みんなのプロジェクトというかたちで、次のモデル、その次のモデルをチャレンジして行けたらいいなと思っています。
新宿 北村写真機店での特別企画展
昨年の7月に新宿 北村写真機店のギャラリーでフィルムカメラプロジェクトの特別企画展を行わせていただきました。その時すごく反響がありまして、連日沢山の方にご来場いただきました。その時に若い方へフィルムカメラの事について色々ヒアリングさせてもらったり、PENTAXの昔のカメラを触って頂いたりととても良いイベントになりました。
今年も8月3日~11日にフィルムカメラプロジェクトの特別企画展を新宿 北村写真機店で行います。そこには新しい、若いユーザーの方も沢山いらっしゃるかと思うのですが、ベテランの方にも是非お越し頂き、このアナログ市場をみんなで盛り上げていって頂けたら嬉しく思います。我々もこのイベントをワクワクして楽しみにしています。
PENTAX17 with岩倉しおり 特別企画展 「 It’s time for film!」
2024年8月3日(土) – 2024年8月11日(日) の期間に開催する PENTAX 17 with岩倉しおり 特別企画展 「 It’s time for film!」 では、写真家・岩倉しおり氏が PENTAX 17 を使用して撮影した写真を展示します。
会場となる新宿 北村写真機店 B1F ベースメントギャラリーでは、「PENTAX 17」の試作モック、実機、フィルムカメラの図面展示を設けました。また、雑誌「BARFOUT!/バァフアウト!」を発行する株式会社ブラウンズブックスによるバックナンバーもお楽しみいただけます。
~ 岩倉しおり氏からメッセージ ~
私も携わっております「フィルムカメラプロジェクト」ついに「PENTAX 17」が完成しました。まず、新しいフィルムカメラができたことがとてもうれしいです。
PENTAX様のフィルムカメラを衰退させたくないという熱い気持ちを聞き感動し、私も同じ気持ちだなと思い参加させていただきました。
新しいフィルムカメラができることでフィルム業界が盛り上がり、これからもフィルム写真文化が続く世界であってほしいと思っています。
■日時:2024年8月3日(土) – 2024年8月11日(日) 10:00 – 21:00
■会場:新宿 北村写真機店 B1F ベースメントギャラリー 地図
■入場料:無料
■HP:https://www.kitamuracamera.jp/ja/information/news/pentax17-shioriiwakura-photoexhibition/
■主催:リコーイメージング株式会社
■協賛:イルフォードジャパン株式会社、株式会社写真弘社、株式会社ブラウンズブックス
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