サムヤン AF 85mm F1.4 FE II レビュー|良質で深みのある描写が魅力的な第2世代モデル
はじめに
今回紹介するレンズは、サムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」。この「サムヤン」というレンズメーカーは、1972年に韓国で創業され、2010年頃から日本に正規輸入が開始。現在は販売代理店として株式会社ケンコー・トキナーが扱っているレンズメーカーです。サムヤンのレンズはリーズナブルな価格で高性能なラインナップを揃えており、特に単焦点レンズには魅力ある商品が揃っています。
今回はその中から「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」をピックアップしてみました。この「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」はレンズ名にⅡとあるように、2022年10月にⅡ型にリニューアルされた新しいレンズです。焦点距離85mm F1.4の明るいレンズ「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」の気になるスペックとその写りをご紹介します。
サムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」の基本スペックと魅力
サムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」のセールスポイントは、なんといってもコストパフォーマンスの高さではないでしょうか。焦点距離85mm F1.4の純正レンズと非常に似通ったスペックであるのに、レンズの市場販売価格はその純正レンズであるソニー「FE 85mm F1.4 GM」のおよそ半分の価格で購入できる、お財布にも優しい高スペックレンズです。
「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」のスペックがⅠ型の「AF 85mm F1.4 FE」、そしてソニー純正の「FE 85mm F1.4 GM」とどう違うのか気になったので一覧にしてみました。3本ともスペック上では非常に似通ったレンズです。「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」はⅠ型で純正レンズに劣っていた最短撮影距離などが同等になり、そして小型軽量化されたレンズのような感じです。
AF 85mm F1.4 FE Ⅱ |
AF 85mm F1.4 FE |
FE 85mm F1.4 GM |
|
焦点距離 |
85mm |
85mm |
85mm |
レンズ構成 |
8群11枚 |
8群11枚 |
8群11枚 |
開放絞り |
1.4 |
1.4 |
1.4 |
最小絞り |
16 |
16 |
16 |
フィルター径 |
72mm |
77mm |
77mm |
絞り羽根枚数 |
9枚 |
9枚 |
11枚 |
最近接距離 |
0.85m |
0.90m |
0.85m |
最大撮影倍率 |
0.12倍 |
0.11倍 |
0.12倍 |
手ブレ補正 |
無 |
無 |
無 |
全長×最大径 |
83.4×99.5㎜ |
88×99.5㎜ |
89.5×107.5㎜ |
重 量 |
約509g |
約568g |
約820g |
発売 |
2022年10月 |
2019年5月 |
2016年4月 |
レンズ本体の重量は約59g軽量化され、全長もⅠ型よりも少し小型化されましたが、レンズフードはⅠ型よりも大きくなっているので、フードを装着した際のレンズの全長はⅠ型よりも大きくなっています。
Ⅱ型にモデルチェンジされた「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」は、フィルター径が変更になったり、最短撮影距離が変更になったりとより使いやすくスペックアップしていますが、特に大きな変更点はSTMモーターの採用でより高速で静かになったオートフォーカス、そしてカスタムスイッチやフォーカスホールドボタンが採用された点です。
カスタムスイッチは「M1」と「M2」に切り替えが可能。「M1」の状態でフォーカスリングは通常のピント合わせ操作(マニュアルフォーカス)として使用できますが、「M2」に設定を変更するとオートフォーカス時にはピントリングを絞りリングとして使用する事が可能になります。
動画撮影時には非常に使い勝手の良い仕様です。静止画撮影においては、クリック感が無いのと、素早く動かした時にやや遅れて絞り設定が変更される感じがするので、意図したい絞り値にピッタリ合わすのには少し慣れが必要かもしれません。
フォーカスホールドボタンはカメラ側でのカスタム設定が割り当てできるので、瞳AFの設定割り当てなどご自身の必要な機能を割り当てて使うことができます。
肝心な写りの方ですが、焦点距離85mm F1.4の開放で撮影した時の奥行き感のある深みのある描写は非常に印象的に感じました。絞り開放では周辺光量落ちがどうしても発生しますが、それが嫌な感じを受けるのではなく、何かその場の空気感をしっかりと写しとめてくれているような感じを受けます。
もちろん少し絞っていけば周辺光量の低下も治まっていきますが、このレンズの味わいを活かすのでれば、積極的に絞り開放付近を使って撮影したい感じです。
ボケに関して言えば、絞りを開けて撮影した際には周辺の解像度はやや低く、特に前ボケにぐるぐるボケが大きく発生する場合もあるので、被写体や構図によっては注意が必要になってくる感じです。
下の写真は、絞り開放でピントは右手奥の風車に合わせて手前の蓮華畑をボカして撮影してみた写真ですが、ぐるぐるボケが顕著に発生した写真になります。こういったボケを嫌う方も多いですが、特徴あるボケが発生するのはそのレンズの特徴でもあり、魅力の一つとして有効的に作品作りに活かすのも面白いかもしれません。
サムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」で静岡・奥大井をスナップ撮影
85mmの単焦点レンズというと真っ先に被写体としてはポートレート撮影が思い浮かびますが、今回は旅行でのスナップ撮影で「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」を楽しんでみました。
撮影した場所は、人気のスポット静岡県榛原郡川根本町にある大井川鐡道の「奥大井湖上駅」と「千頭駅」です。「奥大井湖上駅」はダム建設に伴い誕生したダム湖に突き出たところにあり、とても魅力的なスポットです。実際に筆者が撮影していた当日もテレビのロケ撮影が行われていました。後日、放送されたテレビ番組を見てみると後ろの方に筆者が映っていました(笑)
「千頭駅」から「奥大井湖上駅」に行くには、大井川鐡道井川線を利用します。ちょうど桜が満開の季節に行ったので、観光列車には「さくら」のヘッドマークを着けて走行しています。
「奥大井湖上駅」を見下ろして撮影できるスポットに行くには、駅から列車と同じ鉄橋をわたって行きます。駅を見下ろすスポットと言うだけあって、なかなかのハードな急斜面を登って行かなければなりません。日頃運動不足の筆者は、息切れ起こして撮影スポットについた時点でダウンしてしまいました(笑)
観光スポットなどで撮影する際に写りこむ人の処理に悩むことも多いですが、サムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」の中望遠F1.4という絞りのおかげで程よく嫌味の無いボケで賑わい感を演出する事ができます。
サムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」で香取神宮の御田植祭を撮影
次に撮影をしてみたのが神社の祭事です。場所は千葉県香取市にある香取神宮で、筆者がよく撮影に行く小江戸さわらの街並みからほど近い場所にある大きな神社。桜のピークは過ぎてしまっていましたが、ちょうど「御田植祭」の「耕田式」という祭事に出会うことができました。
この香取神宮の御田植祭は、日本三大御田植祭の一つと言われています。香取神宮の御田植祭は2日に分かれており、1日目が「耕田式」で2日目に「田植式」が行われています。今回は残念ながらスケジュールの都合で1日目しか撮影をできませんでしたが、2日間合わせて撮影してみたい祭事です。
お祭りごとの撮影は、比較的人が多くなり移動が難しくなって撮影の難易度も上がるのですが、今回は人もそれほど多く感じられず、移動しながら撮影をする事が可能だったので単焦点レンズを使って撮影する事も比較的容易でした。とはいえもう少しアップで撮影したいなと感じた時には、APS-Cクロップモードで焦点距離127mm相当にして撮影もしています。
撮影当日は、お天気も良くコントラストも高めですが、サムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」の描写する奥行き感や深み・濃厚さが、歴史ある神事ごとに上手くマッチしたと感じました。
イベント事での撮影ではズームレンズの方がいろいろなシーンに対応できるメリットがありますが、中望遠の単焦点レンズサムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」は大きなボケを活かし被写体をより印象的に写しとることができます。
まとめ
今回初めてサムヤン「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」を使用してみましたが、特に不満を感じる点も少なく非常に満足度が高いレンズでした。レンズ筺体のデザインもシンプルで質感も良く、写りは良質な深みのある描写をし、それでいてリーズナブルな価格設定でコストパフォーマンスの高いレンズであると思います。
今回は鉄道スナップやお祭りの撮影をメインに撮影をしてみましたが、ポートレート撮影やペット撮影には魅力的なレンズではないでしょうか。我が家の猫を室内で撮影してみましたが、焦点距離85mmであれば十分に室内でも撮影できますし、絞り開放F1.4の明るさで撮影ができるのでシャッター速度も十分に稼ぐこともできます。屋外だけで無く、屋内でも活躍できるサムヤンの「AF 85mm F1.4 FE Ⅱ」は、魅力的なレンズです。
■写真家:坂井田富三
写真小売業界で27年勤務したのち独立しフリーランスカメラマンとして活動中。撮影ジャンルは、スポーツ・モータースポーツ・ネイチャー・ペット・動物・風景写真を中心に撮影。第48回キヤノンフォトコンテスト スポーツ/モータースポーツ部門で大賞を受賞。
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)会員
・EIZO認定ColorEdgeアンバサダー
・ソニーαアカデミー講師