シグマ dp0 Quattro|ディストーション・ゼロ! 究極のFoveonセンサー搭載機
はじめに
SIGMA dp Quattroシリーズは単焦点レンズ一体型のカメラで、4種類の画角のラインナップとなっています。具体的には「SIGMA dp0 Quattro(35mm換算約21mm)」「SIGMA dp1 Quattro(35mm換算約28mm)」「SIGMA dp2 Quattro(35mm換算約45mm)」「SIGMA dp3 Quattro(35mm換算約75mm)」の4機種ですが、今回は、一番広角のレンズを搭載した「SIGMA dp0 Quattro」のレビューをお送りします。
ディストーション・ゼロというコンセプト
高い解像力と素晴らしい階調表現力を持ち、撮る人も、見る人も強く引き付ける独特の風合いの画を生み出してくれる、Foveonセンサーを搭載していることが、まず本機の一番の魅力ではありますが、もうひとつ、写真を見ればすぐに分かる大きな魅力があります。
「ディストーション・ゼロ」をコンセプトにした本機は、超広角レンズながら歪曲収差が1%以下(無限遠撮影時)に抑えられているのです。
真っ直ぐなものを真っ直ぐに写すことは意外と難しいと、写真を撮っている方なら実感されていると思います。特にレンズが広角になればなるほど、その難易度は高くなっていきます。本機は、その高いハードルを超えて生み出されました。
広角レンズの描写でありがちなタル型の歪曲が補正されているので、不自然なワイド感を払拭したナチュラルでリアルな超広角写真を撮ることができるのが、Foveonセンサー搭載にプラスされた、本機のもうひとつの魅力でしょう。
人間の目のような働きをしてくれるFoveonセンサー
人間の目は、いきなり暗い所に行くと最初は真っ暗で何も見えなくても、目が慣れてくると、どこに何があるか見えるようになってきますよね。同じようにいきなり明るくなっても、最初は目潰しをされたかのように真っ白で何も見えないけど、徐々に物や人が見えてくる……そんな’人間の目’の調節機能がこの長細い箱に入っているのでは?と思えるほど、Foveonセンサーは豊富な色情報を記録するのだと筆者に感じさせてくれたのが、SIGMA dp Quattroシリーズです。
正直、背面の液晶は別売りのビューファインダー「LCD VIEW FINDER LVF-01」を付けないと、撮影時の構図や色味の確認をし易いとは言えません。筆者もビューファインダーを付けていない撮影時は、フィルムカメラを扱う気分で、よく見えないけど帰ってから大きなモニターで確認しよう!という気持ちで、それを楽しむように撮っています。
でも、帰宅してから大きなモニターに写真を映し出してみると、写っているんですよ!肉眼では白トビぎりぎりだった明るめの空の模様も、黒ツブレのように影になっていた木の細かい節目も!この豊かな色再現性を体感すると、Foveonセンサーから離れられなくなります。
レンズの焦点距離は14mmで、APS-Cサイズのセンサーなので35mm換算で約21mmになります。レンズ構成は8群11枚(FLDガラス4枚、SLDガラス2枚、大口径両面非球面レンズ1枚、片面非球面レンズ1枚)で、長いレンズの特性を活かして、レンズに入る光をなるべく真っ直ぐにセンサーに届けることによって、美しい画を生み出すことに成功しています。
最小絞り値はF4、絞り羽根枚数は7枚、最短撮影距離は18cm、最低ISO感度は100です。2015年発売というこの時代のカメラにしてはホワイトバランスの性能がかなり良く、とてつもないミックス光でない限り、オートホワイトバランスで見た目に近い色味に仕上げてくれます。
「ディストーション・ゼロ」コンセプトの恩恵を満喫したくて、とにかく構図内に縦横のラインを入れたくなります。また、Foveonセンサーは錆びた被写体の質感の描き方がとても美しいので、古めの建物や、数種類の金属が構図内にあるようなシーンを、意識して探してしまいます。
本機では、明暗のあるシーンは、少しアンダー目に撮るのがお勧めです。豊富な色情報を取り込めるのと、味のある質感を感じられる画になります。
ISO感度は抑えめで撮影しましょう!
本機のISO感度はISO100からISO6400までで、1/3段刻みでの設定が可能ですが、ISO200くらいから若干、ISO400くらいからはわかりやすくノイズがのってくるので、基本的には最低感度での撮影をお勧めします。
この写真は、薄暗い本棚の下からの明かりだけを頼りに、上から見下ろす状態で、本にかなり近付いて撮影しました。
暗さには弱いカメラでありますが、撮りたい被写体を見つけたときに、どうすれば撮れるかを考えるのも、シャッターを押せば何でも写してくれる最近のデジタルカメラで撮影するのとはまた違う、工夫する楽しみがあります。
垂直色分離方式だからこその高い色再現性
超広角の画角のお陰もあり、かなり遅いシャッター速度でもブレずに写しやすいです。こちらも上と同様の薄暗い本棚での撮影ですが、開いて置いてある本の紙の断面部の、毛羽立った様子まで繊細に描写されています。
本機に搭載されているFoveonセンサーは、垂直方向に色分離を行う垂直色分離方式を採用しています。普通のベイヤーセンサーは1層に3色のRGBを並列で記録していますが、Foveonセンサーは、1層に垂直方式ですべての光の波長を記録するので、偽色が発生しにくいのはもちろんのこと、色の再現性がとても高く、クラデーションも豊かなのです。
スペックとしての描写性能の高さは知っていながら、撮影した写真を見るたびに何度も驚かされて、さらに好きにさせられるカメラです。
個性的なデザインながらグリップしやすいボディ
本機の大きさは、幅161.4mm、高さ67mm、奥行き126mmで、横長の箱に長いレンズがくっついているような形状をしています。重さは500gと軽いので、短めのストラップで首から下げると使い勝手が良いです。
グリップは後ろに突き出ている形状でとても握りやすいので、手の大きな方でも、右手のみでしっかりとホールドできるでしょう。歪曲の少ない超広角機なので、上を向いたり、高い所から下を見下ろしたりという撮影がとても楽しいです。その際、この握りやすいグリップと軽いボディが、撮影のしやすさをぐっとアップしてくれます。
モノクロ機としても優秀!
垂直配列の豊富な色情報を保持するFoveonセンサーは、モノクロの再現性が高く、美しいのも特徴です。特にアンダー部の締まりが筆者の好みで、明暗差の激しいシーンは本機の得意シーンとも言えます。
SIGMA dp QuattroシリーズのAFはおっとりとしたイメージがありますが、本機はラインナップ上唯一のインナーフォーカス方式のAFで、前玉繰り出し方式のAFよりも可動部分の質量が小さくなるため、少しだけ素早く動いてくれます。筆者が所持している「SIGMA dp3 Quattro」と比べると、その差は歴然です。
バッテリーの減りはとても早いので、一日外で撮影するときは予備のバッテリーを2個以上持って行くことをお勧めします。バッテリーパックはBP-51で、fpシリーズと同じバッテリーなので、同シリーズも所持している筆者は、使いまわしができてとても助かっています。
21mmの画角の楽しさを味わおう
筆者は標準から望遠画角が好みなので、SIGMA dp Quattroシリーズはまず最初に最望遠の「SIGMA dp3 Quattro(35mm換算約75mm)」を手に入れました。ですが、終売になると聞いて、最広角の本機を駆け込みで手に入れました。21mmの画角は慣れないと画作りが難しくもありますが、ディストーション・ゼロ機の斬新さもあり、珍しく愛用している超広角機です。
残念ながら現在は終売となっていますが、中古市場をチェックしていると、いい出物に出会える可能性もあります。少しでも興味を持たれた方は、ぜひ探してみてください!
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。