風景写真の引き出しを増やす!|その7:開放絞り付近で撮影してみよう
はじめに
絞り(F値)のコントロールは撮影の基本。絞りを開ければ(小さな数字にすれば)被写界深度が浅くなり、絞りを絞れば(大きな数字にすれば)被写界深度が深くなることはご存知の方が多いですよね。そこで今回は開放絞り付近での撮影方法にスポットをあてて解説を進めてまいります。「絞りを開ける」イコール「ぼかし表現」のイメージが強いのですが、ただ単に大きくぼかすだけではないバリエーションも身につけて作品の幅を広げましょう。
(1)大きくぼかして背景をシンプルにまとめる
絞り開放での描写では最も基本的な方法と言って良いでしょう。焦点距離の長い望遠レンズを使う程、被写界深度を浅く出来るのでより大きなボケが得られます。絞りの調整に慣れていない初心者の方は、まずこの表現をマスターすると良いでしょう。但し、何でもかんでも絞りを開放にすれば背景がきれいにぼかせるというわけではありません。ポイントはピントを合わせる主題と背景が離れていること。さらに美しい色や模様が背景に入ればより良い作品になります。
小さな草花を見下ろして撮影すると、地面までの距離が近くなってしまうためバックが煩雑になってしまいがち。カメラ位置を主題の目線に合わせて低めに構えれば背景までの距離感をとることが出来、大きなボケ表現が得られます。色々な撮り方はあるのですが、まずは絞りを開ける事に加えて「カメラ⇔主題⇔背景」の位置関係を意識してみましょう。
銀杏の葉から背景までは10メートル以上離れています。大きなボケのためには明るいレンズが有利なのは確かですが、被写界深度の浅い望遠域を使い背景を選べば、開放F値がそう明るいレンズでなくとも美しいボケが楽しめます。
逆光にキラキラと輝くさざ波を背景に選びました。点光源はその光がぼけることで玉ボケとなります。主役から背景まで離れている程、ボケが大きくなります。
(2)背景の雰囲気を感じさせつつぼかす
(1)の場合は単に背景を大きくぼかせば良かったのですが(2)の方法は背景の様子や雰囲気を伝えつつ、ぼかす必要があるので少し難しく工夫が必要でしょう。撮り方が違っても共通して重要なのは「カメラ⇔主題⇔背景」の距離感の取り方です。レンズの焦点距離ごとのポイントは以下の通りです。
望遠レンズ
→画角が狭くなってしまうので遠い所を狙わないと背景が入らないですし、被写界深度の浅さゆえ模様のあるところを意識しないとただ単にぼかしただけになってしまい、周りの雰囲気を伝えることが出来ません。
標準域~広角域のレンズ
→背景が入りやすくなるものの被写界深度が深くなってしまいぼかすことが難しくなります。コツは主題に近づくこと。そうすれば背景をぼかすことが出来ます。明るい単焦点レンズがあれば、撮影の自由度が上がります。
コスモスの背景に野焼きの煙と山の稜線を配しました。望遠レンズでも遠い所を狙えばその分、背景も多く入るので風景の雰囲気を伝えること出来ます。但しカメラから主役が遠すぎる、もしくは主役から背景が近すぎると上手くぼかすことが出来ません。
風景の全体像と雰囲気が伝わるよう広めのレンズを使い、絞り開放で撮影。風景的ぼかし表現を狙いました。被写界深度の深い広角域のため、手前の秋海棠になるべく近づき程よくぼかしました。これだけ花に近づいても背景が広く入るのが広角レンズの特徴です。
こちらは超広角域を使っています。鹿に近づいても逃げる様子がなかったので、思い切ってレンズの先から鹿まで1メートル以内まで距離を詰め、絞り開放でぼかしました。レンズが広角になるほど被写界深度が深くなるので、少しでもボケを作るには明るいレンズが有利と言えます。
(3)前ボケで主役に視線を誘導する
(1)の応用編とも言えます。被写界深度の浅い望遠レンズを使うと描きやすいでしょう。前ボケに使う被写体から主題までが離れており、かつ主題から背景がある程度離れている、もしくは離れていない場合は煩雑にならない背景を選ぶ事がポイントです。
前ボケの彼岸花~主役の彼岸花までの間に十分な距離を取って撮影。カメラの位置を微妙に調整してリズム感良く前ボケが入るようにしました。主役から背景までは総距離がありませんが竹の並びのリズム感が良く、大きくぼかしていなくても煩雑さを感じません。
上の作例と同様、前ボケ~主役までの間に十分な距離を取って撮影。さらに主役~背景が離れているので大きなボケが得られています。
風になびくススキの曲線を前ボケに取り入れリズム感良く構成しました。写真を見た時、瞬時に主役が伝わる事。そして煩雑にならないようなポジションを探ることが重要です。
カメラを低めに構えて大きな前ボケを作りました。この時の距離感は「カメラ⇔コスモス」が近く「コスモス⇔ススキ」が離れており、かつ「ススキ⇔背景の山」までが離れている状態。前後のボケに挟まれて主役のススキが引き立っています。
(4)周辺光量不足を利用して主役に視線誘導する
絞り開放付近で発生する周辺減光は本来レンズのウィークポイントとされていますが、それを生かせば画面中央付近に視線を誘導することが可能です。画面の中心付近にポイントがある事が重要です。但し、近年のカメラには周辺減光を補う機能がついており、カメラ側の設定で周辺光量不足補正(※)を「切」にしないと周辺まで明るさが均一になってしまいますので、事前にカメラ設定を確認しておきましょう。周辺減光は後から画像処理でも作ることが出来るのですが、撮影時でも出来ることを覚えておきましょう。
※カメラメーカーによって呼び名が異なります。
雨と深い霧に覆われる中で美しい紅葉に惹かれました。光の強弱が全くない状態での撮影のため、周辺減光が多めに出る単焦点レンズで撮影。主題に視線誘導しています。
こちらも霧のシーン。小島のように生える木々に視線誘導させようと開放絞りで撮影しました。
画面中央のスポット光を強調するために周辺減光を利用しました。望遠レンズを使っているにもかかわらず絞り開放でも画面全域にピントが合い、パンフォーカスになっているのはピントが無限遠相当になる遠い部分を狙っているからです。
(5)絞りを開けてシャッタースピードを稼ぐ
絞りを開ければ単純にシャッタースピードが速くなります。
そう明るくない状況で高速シャッターを切るためにISOを上げ、絞りを開放にしました。(4)の最後の作例よりもさらに長い焦点距離を使っていますが、こちらも相当遠い所を狙っているので画面全域にピントが合っています。
夕景を撮りに出かけましたがあまりに風が強いためパンフォーカスをあきらめ、少しでも速いシャッタースピードを切るため絞りを開けました。上の二つの作例とは違い、被写体が近いので画面全域がパンフォーカスになっていませんが明確な主題があり、ピントが合っていればOKです。ここでのピント位置はハスの花です。
(6)絞りを開けつつスローシャッターを切る
(5)とは逆パターンです。水の流れの表現では低速シャッターを切ることが多いのですが、そのためには普通であれば絞りを絞る必要があり、絞りを開けつつ低速にするのは難しいと言えます。しかし明るい状況であっても濃いNDフィルター(ND128やND1000など)を使えば絞り開放、かつスローシャッターを切ることが出来ます。
手前側の枝ぶりが良く色も鮮やかだったため、滝の前ボケに扱いました。この際、絞って低速シャッターにすると被写界深度が深くなってしまい手前側のボケが煩雑になってしまいます。ここでは濃色NDフィルター(ND128)を使い開放絞りのまま3秒という低速シャッター切りました。
まとめ
今回は絞り開放付近での撮影についてお送りしましたが、いかがでしたでしょうか。「絞り開放」と言っても色々な応用表現がある事を頭に入れておくと自分自身の写真表現が広がります。デジタルカメラの良い所はトライ&エラーの繰り返しで、より完成度をアップさせることが可能なこと。今回ご紹介した他にも、撮影現場で思いつくことがあれば積極的に試してみて下さいね。最後までお読みいただきありがとうございました。
■写真家:高橋良典
(公社)日本写真家協会会員・日本風景写真家協会会員・奈良県美術人協会会員・ソニープロイメージングサポート会員・αアカデミー講師
【終了】寸評のご応募について
今回の「開放絞り付近で撮影してみよう 編」の内容をテーマに、これはうまくいった、逆にうまくいかなかったと感じる写真がありましたら、ぜひその時の状況と合わせて編集部に投稿してみませんか。ご投稿いただいた写真の中からいくつかの写真に対して高橋良典さんが寸評を行い、次回の記事で掲載する事を予定しています。皆さまの風景写真の学びの機会にご活用いただければと思います。
・お一人さま1点までのご投稿でお願いします。
・応募締め切りは2023年10月31日(火)迄となります。
・過去に撮影した写真でも応募できます。
・応募ページにある規約をご確認の上、ご応募をお願いします。
応募ページはこちら
https://pro.form-mailer.jp/fms/67615ff5296851
・スムーズに応募出来るように選択、記入項目を見直し、少ない入力で応募が可能になりました。
過去の応募作品への寸評会記事はこちらの「関連記事より」ご覧いただけます。