鉄道の車両や線路などが目の前にあっても、
そこだけを写し込むのではない。
周りの環境や人の営みなど、生活の匂いも表現。

 鉄道写真家 鈴木正敏

こどもの頃に誰でも一度は、列車の運転席の真後ろで、ワクワクしながら流れる景色を楽しんだことがあるのではないでしょうか。1970年代に到来したSLブーム。以来さまざまな車両はもちろん、鉄道を取り巻いているあらゆるものを、その独特の目線と切り口で表現しているひとりの写真家がいます。鉄道愛好家はもとより、一般の人々の心にも響く、その味わい深く洗練された一枚一枚の写真。ひとくくりに鉄道写真といっても、非常に幅広い分野があることを実感します。鉄道を被写体にして、30年以上にわたり撮影を続けている鈴木正敏氏をご紹介します。
【驟雨】激しい雨が通り過ぎた後、窓越しの風景。
■カメラ:ニコンFM2 レンズ:35mm F2.5 絞り:f5.6 シャッタースピード:1/30
フィルム:KR SLフィルター使用 撮影地:東海道本線 東京


【敬礼】交代の乗務員が通過する急行列車に敬礼する瞬間。仕事の帰りに見つけ、次の快晴の日に撮りに行った。
■カメラ:ニコンFA レンズ:80-200mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:KR SLフィルター使用 撮影地:相模鉄道 星川

【車窓】すいた車内、窓枠に頬杖をついて、ぼんやり外を眺め。自分の姿を撮っているような気分。
■カメラ:ニコンF100 レンズ:80-200mm F2.8 絞り:f8 シャッタースピード:1/125 フィルム:TREBI100C SLフィルター使用 撮影地:紀州鉄道 学問〜御坊

小学生の時に長野県の小海線にSLを撮りに行ったのが
私の鉄道写真の始まりです。


 小学校高学年の時期にSLブームに出合い、自然と鉄道写真の世界へと入っていかれた鈴木正敏さん。
 「こどもはみんな小さい時には、列車などに興味があったと思います。私が小学校高学年の時期というのは、ちょうどSLブームの時でした」
 と語る鈴木さん。その当時は、日本各地の路線からSLがどんどん廃止されていた頃で、SLが走っている路線には、数多くのカメラマンが集まり、特に有名な撮影スポットには三脚の放列ができたそうです。
 「私はまだ小学5年生だったので、父に頼んで自宅のある鎌倉から比較的近い、長野県の小海線にSLの写真を撮りに連れて行ってもらいました」。
 そして、このSLの写真を撮りに行ったことが、鈴木さんの鉄道写真の始まりでした。しかし中学・高校と休みには限りがあった鈴木さんは、地元の神奈川県内を中心に鉄道写真を撮っていたそうです。
 「夏休みなど、長い休みの時は地方まで出かけていきました。最初の頃はSLなどの車両を撮影することが目的で列車で出かけていましたが、やがて単なる移動でしかなかったものが面白くなり、自分が乗った列車や『旅』そのものにも興味を持ちました。さらに被写体も、駅や車内、さらには線路脇に咲いている小さな花など、鉄道に関するいろいろなものを撮るようになりました」。

最初に撮った時から10年間は、モノクロ写真だけでした。

 最初に撮影したSLから、鈴木さんの作品はずっとモノクロ写真でした。しかも、フィルム現像からプリントまでをご自身でおこなっていました。
 「大学を卒業して社会人になるまで、現像・プリントを自分でやっていましたが、さすがに社会人ともなると、学生時代のように好きに時間が使えるわけではないので、撮影もモノクロからカラーポジに変わっていきました」。
 そして、カラー写真にふさわしい鉄道の被写体を探し求めた結果、鈴木さんは”夜景“を撮ることを思いつきます。
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