秋は山の上からやって来る。夏の終わりから雪が降る冬まで、
長い間シャッターチャンスがある。
 
――被写体としての日本の秋の魅力はどのようなことだと思われますか?


  秋の魅力のひとつに澄み切った空気感があります。春はもやがかかったような状況が多いのですが、秋の空はすっきりと晴れ渡っています。また、雨の後のしっとりとした感じもきれいなものです。
 秋は山の上からやって来ます。そして夏の終わりから雪が降る冬まで、シャッターチャンスがいっぱいあります。春の桜の時期はすごく短いもの。それに対し秋の紅葉は比較的長く楽しむことができる被写体と言えるでしょう。
 ですから、光の取り入れ方とかをうまく計算しながら撮っていくことで、面白い作品ができ上がります。

――春の桜と秋の紅葉を撮る上での違いはどのようなものですか?

 紅葉は、樹によってさまざまに色が違います。そして紅葉は自然の中に生育しているものが多い。それに対し桜の樹は自然の中ではなく、人工的なスペース中に多くあって、誰か人の手で植えられ、人の手が加わった自然というような気がします。
 ところが、紅葉は人が近づけない山肌にあったりするので、自然のままの美しい姿をとらえる面白さがあります。


【巡礼】遍路道で見つけた秋の色彩。下を向き、思いつめて歩き続けた道中、こんな風景に出会うと心がなごむ。逆光に輝く紅色は教会のステンドグラスを思わせる。露出を紅葉に合わせ、影になった大師像をまん中に配し、画面をひきしめた。
■カメラ:ペンタックス645NII レンズ:100-300mm 絞り:f22 シャッタースピード:1/2秒 フィルム:プロビア100F 撮影地:愛媛県越智郡玉川町東福寺(四国八十八ヶ所57番)

日本の四季は繊細。その繊細さをいかに表現できるかが
写真の評価ポイントになると思います。

――三好先生がお気に入りの秋の撮影地はおありですか?


【まっ赤な朝】逆光に輝く紅葉の美しさ。水に映り込んだこのシーンを撮るために、何度チャレンジしたことか。そして思ったシーンを手に入れた。ハレ切りでうまく光をカットしないと、フードだけではぼやけた写真になってしまう。
■カメラ:リンホフマスターテヒニカ レンズ:90mm  絞り:f22 シャッタースピード:1秒 フィルム:ベルビア PLフィルター使用 撮影地:栃木県日光市中禅寺湖千手ヶ浜


 近場なら栃木県の日光によく行きます。平地に比べてかなり早く紅葉がやって来ます。また北海道も早く紅葉が始まります。だけど僕が大好きな沖縄には紅葉という現象がありません。また、屋久島には紅葉する樹自体が少ないのです。それ以外では京都とか、秋田・青森県境の白神山地が好きなところです。樹自体が紅葉するのもとてもきれいだけど、落ち葉なども秋のテーマとしては面白いと思います。散った紅葉というのは美しいものですが、散ったすぐ後じゃないとだめなので、タイミングが肝心です。
 紅葉で難しいと思うのは、赤い色のとらえ方だと思います。桜の淡い白や薄ピンクも難しいのですが、紅葉の赤は鮮やかなためにすぐ飽和してしまいます。だから赤い色の調子をきれいに出すには、光線の使い方やフィルターのかけ方、さらにプリントの仕方など、いろいろと工夫をこらすことが必要だと思います。デジタルだとホワイトバランスを変えてみるといいでしょう。

――秋の撮影についてアマチュア写真家へのアドバイスをいただけますか?

 先ほども申し上げましたが、秋は春に比べ撮影できる期間が長く、被写体もたくさんあります。春や夏と異なり少しもの悲しげな情緒的な雰囲気。それを題材に俳句を詠むような気持ちで撮影することをお勧めします。日本の四季は繊細です。特に秋は時期が長いので、その繊細な変化をいかに表現できるかが写真の評価につながると思います。
 また、秋は光もきれいなので、その光の美しさ、シャープさ、そういうところも表現できるといいと思います。

――日本人は昔から自然を愛でてきて、そこから感じ取ったことを俳句などに表現してきましたが、その感性は現代の写真にも活かせることですか?

 やはり我々日本人は、そのような才能に長けていると思います。日本の景色をどれだけ理解しているか、どれだけ美しいと思っているか、そういう気持ちが写真に写し出されているといいですね。テクニックだけではなく、撮影者が感じた素直な気持ちがうまく伝わるように。そのためには、自分自身がその風景、そのシーンに感動する必要があると思います。

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