桜の方から『ここを撮って!』とメッセージが出ています。
あとはその場所に行って三脚を立てるだけ。
 
――春の被写体として、特に先生が魅力を感じるものといえば何でしょうか?


 もちろん桜だけが春の被写体ではないので、ツツジやタンポポや菜の花なども含め、春の魅力を放っているものは何でも撮ります。しかし、目の前に桜の樹があると、その魅力に他のものが負けてしまうんです。ですからどうしても桜を優先的に撮ってしまいますね。桜ほど春の被写体として力強い花はありません。他の被写体が二の次になってしまうことは否めません。

――桜の種類や大きさで魅力に違いはありますか?

 桜それぞれに魅力はありますが、それは樹の大きさなどによるものではありません。どの花もみんな一生懸命咲いています。一生懸命咲いていること自体を愛でられる気持ちが持てれば、それぞれの桜の魅力が伝わってきて面白いと思います。
 しかし、なんといっても桜の魅力は、パッと一面に咲いて、目の前が花の渦や雲になる。そして、次の日には散ってしまうはかなさです。一日だけ輝いて、そして一日であの夢のような世界がどこかに行ってしまう。非常に日本人的な美意識かも知れません。それ故に日本人は桜に魅力を感じてきたのだと思います。

――具体的にはどのように撮影されるのでしょうか?

 「どこから見たら美しいか」は桜に出合った瞬間に桜の方から教えてくれるので、その場所に三脚を立てて、6×7や6×4.5の中判カメラで3枚、35mmで3枚、デジタルで2枚撮って終わりです。あっちもこっちも撮って桜の美を見つけて回る撮影方法は、私の場合は20年ほど前にやめました。

――フィルムカメラで3枚撮るときは段階露出をされるのですか?

 フィルムで撮影する時は露出を変えずに同データで3カット撮ります。決定的瞬間をとらえるような時以外は同じイメージのものを3枚つくります。それは万が一フィルムにキズがついていたりしても大丈夫なようにするためです。ちょっと気がのってきた時には3カット以上撮ることもありますが、ほとんどの場合は3カット撮って終わりにします。


【渓流に咲く】山桜が一本、新緑の谷間に輝いている。この桜は遅咲きの桜で、今までにも何度も撮っている。この時は、天候が悪く沈みがちであったが、深緑の中で「私は桜ですよ……」と自己主張をして輝いている様に見えた。そのような初々しい、山桜の花を深緑を配して捉えた作品である。
■キヤノンEOS-1V レンズ:EF300mm F2.8L IS シャッタースピード:1/125秒 AE フィルム:RVP PLフィルター 三脚使用 撮影地:山形県小国町

「この被写体はこう撮る」と決めて撮ることが必要。
もしうまく写っていなかったら、それは自分が負けたと思うこと。

――データを変えながら撮影した方が安心のようにも思えますが?

【艶姿】やさしく枝垂れている桜に出会った。300mmレンズで、その枝垂れている具合をクロ−ズアップしてみると、更にやさしく写ってくれた。望遠レンズのパ−スペクティブと、被写界深度が浅いという特色を生かしてクロ−ズアップしてみる。つまり、独特のボケ味を生かして夢のあるイメ−ジを構築していくことが大切である。
■キヤノンEOS-1N レンズ:EF300mm F2.8L IS +1.4 倍テレコンバーター使用 シャッタースピード:1/125秒 AE フィルム:RVP PLフィルター 三脚使用 撮影地:山梨県勝呂町


 アマチュアの方は段階露出で撮影している場合を多く見かけますが、私はそのような方には「段階露出をすることは、撮影に対して自分の姿勢が甘くなる」と注意をします。自分が撮影したい被写体を決めたら、自分のイメージを固め、「この被写体はこう撮る」と決めて撮ることが必要。もしうまく写っていなかったら自分が負けたと思うこと。「段階露出などをして、その中でどれかが当たるだろうなどと安易な気持ちではダメですよ」と脅します(笑)。
 特にデジタルカメラの場合はフィルムに比べ撮影枚数に余裕があり、1回のシャッターで段階露出の撮影データを得ることが容易にできます。だから撮影した直後にモニターを見て安心してしまう。そこに映し出されている画像には、実は正確な色もトーンも出ていません。それなのに『撮れた』と思い込んでしまいます。

――便利さと安易さを混同してはいけないということですね。

 ところがフィルムの場合は撮影が済んだら現像に出さなければなりません。現像が上がってくるまでは、狙った通りに写っているか不安な気持ちになります。極端な言い方をすれば、暗黒の世界に送り込まれたようなものです。露出に間違いはなかったか?色はどうか?いろいろと想像させられます。失敗していたらどうしようと心配になります。
 実はそのような要素が写真表現にはとても重要なのです。このことはデジタルカメラでは体験できないことです。
 しかし、デジタルにはフィルムにはない面白さもあるので、それをうまく使いこなせればとても有効な表現手段になるはずです。

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