【仲良く並んで】小川にかかる小さな橋の下のクヌギの木の枝…。その枝につくられた巣から飛び出してきたエナガの巣立ち雛。暗い橋影のモノトーンの背景が、あどけない雛たちを浮かび上がらせる。小さな息づかいを感じさせてくれている。
■カメラ:ニコンF4S レンズ:ニッコールED400mm 3.5 絞り:開放 シャッタースピード:1/250 フィルム:RDPII 三脚使用 撮影地:山梨県北杜市大泉 エナガ/柄長 |
【春風に誘われて】春一色に染まった桃園に数羽の鳥影…。花咲く枝の中からほんのわずかな空間を見つけピントを合わせると、北の国へ旅立つ前の一羽のツグミ。華やかな桃の花に囲まれ、静かにたたずんでいた。
■カメラ:キヤノンEOS-1VS レンズ:キヤノンEF600mm 4.0 絞り:開放 シャッタースピード:1/400 フィルム:RDPII 三脚使用 撮影地:山梨県新府桃園 ツグミ/鶫 |
【見つめられて】暗い葉陰で羽を休める一羽のアオバズク…。露出をプラス補正気味にして、柔らかな羽と初夏らしい新緑をとり入れる。見つめる黄金色の瞳にピントを合わせると、ファインダーごしに鋭い視線が目の奥底に突きささる。
■カメラ:キヤノンEOS-1VS レンズ:キヤノンEF600mm 4.0 ×1.4(テレコン) 絞り:開放
シャッタースピード:1/125 フィルム:RDPII 三脚使用 撮影地:茨城県守谷市 アオバズク/緑葉木菟 |
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都会の川べりで偶然見かけたカワセミ。
その美しさに魂を抜かれ写真の道へ。
山梨県身延で生まれ育った若尾さん。そこは数多くの花や鳥などが見られる自然豊かなところ。しかし、あまりにも自然が身近に存在していたので、その頃は周りにいる鳥に対して特に興味があったわけではないそうです。
「就職をして東京で生活をしていました。しかし、生まれ育ったところに比べると自然が少なかったので、緑が豊かで水がきれいなところに憧れていました。だから東京で20年間くらいサラリーマンをやったら、何か別のことをしたいと思っていました」。
そんな若尾さんに運命的な出逢いが訪れます。それは夜勤明けに多摩川の河川敷で偶然見かけた、青くて小さな野鳥でした。
「世田谷区にある二子玉川は、多摩川の中流域にあたります。その河川敷には公園や運動場などが整備されていて、とてもきれいなところです。時間があると川べりを歩くことを楽しんでいました。そこにある小さな池でカワセミを偶然見たのです。目の前でコバルトブルーの羽を身にまとったカワセミが、魚を捕らえるためにホバリングしていました。やがて狙いを定め水面に飛び込んで小魚を捕らえました。カワセミという鳥は知っていましたが、5〜6mほどの目の前で見ることができ、感動のあまり魂が引き抜かれた感じになりました」。
しかし、若尾さんはカワセミをすぐに写真に撮ろうと思ったわけではありませんでした。社内にある写真クラブに入っていた後輩にカワセミの話をしたところ、ぜひ撮りたいということになり、後日一緒に行くことになったそうです。当時はカメラを持っていなかった若尾さんですが、自分でもカワセミを撮ってみたいと思い、それがきっかけで写真を撮り始めることになりました。
もっとたくさんの野鳥に遭いたくて、
八ケ岳のふもとに移住。
カワセミの写真を撮り始めてからの若尾さんは、写真集や写真雑誌などをよく見るようになり、やがて自分でもカワセミの生態を全て撮り尽くした写真集を出したいと思うようになりました。そこで、当初より思い描いていたように永年務めていた会社を退社し、プロの写真家を志したのです。
「サラリーマンをやめてプロのカメラマン を目指したのが36歳と遅かったので、カワセミだけに的を絞り、オリジナリティを出せる方向を目指しました。カワセミの生態をもっとよく知るために、週末になると八ケ岳北麓の川に通いました。退職後しばらく経った1995年からは、撮影地に近い山梨県北杜市に移り住み、トータルで7年ほどカワセミの撮影をしていました。60〜70ページの写真集をつくるのには、200〜300カットもあれば十分だと思いますが、私の場合は生態系のすべてを撮影し、さらにそこに物語性を表現したので非常に時間がかかりました」。
見る人の心に何かが響くような
写真集を目指した。
野鳥写真家になるのが夢。そして、写真集を出すことが一番の目標だったとおっしゃる若尾さん。
「どのような写真集にしようかと思ったときに、ただ単にカワセミをきれいに表現するだけではなく、写真集を見て、読んでくれた方の心に何かが響くような内容にしたいと思っていました。そのことは撮影しながらも常に考えていました。その結果、できたのが初の写真集『カワセミ物語』なんです」。
八ケ岳山麓に移住した当時は、個展を数多く開催し、会場には感想も書いてもらえるように女性用・男性用・子供用に分けたスケッチブックが用意されていました。そこに書かれた内容からは、カワセミに対するそれぞれの人たちの考え方や、想いを読み取ることができたそうです。そのような個展を年4回、3年連続で開催したことで膨大なデータが集まり、カワセミは人気がある鳥だということを確信したそうです。 |