同じ桜でも毎年その表情は異なります。複雑で変化に富んでいるから面白い。
――竹内先生は『櫻』の写真集を4冊出されていますが、
桜の魅力とはどのようなことでしょうか?


 日本人なら桜について考えざるを得ないと思うんです。春の季節を思うと桜に行き着きます。同じ桜でもいろいろあって、開花時期のピークに咲くものもあれば、季節をずらしてでたらめに咲くものもあります。それらのとても魅力あふれる桜に、写真の被写体として、向き合った時は真剣にならざるを得ません。多分、私は日本で一番桜のことに熱心になってしまった男だと思います(笑)。
 同じ桜でも毎年毎年、その表情は異なっています。日にちが違えば表情も違うのは当然ですが、その違いが実に複雑で変化に富んでいるのが魅力的です。

――見るときの心理状態でも感じ方は変わるのでしょうか?


 そうですね。桜の咲く環境と自分のその時の状況によって、受け取る印象は異なってくるのが面白いところです。


【春乱】福島県の中通り周辺は、日本有数の桜の人気エリア。特に三春町は各種多彩の桜が沢山あり、開花の時期を少しずつずらして咲いてくれるので、桜の花が見られないということがない。
■カメラ:ペンタックス645NU レンズ:150-300mm F5.6 絞り:f16 AE -1/2EV 三脚使用 PLフィルター使用 RVP 50 撮影地:福島県三春町

散った時に美しさが感じられるのは、桜の花だけです。
そのような目で桜を見つめていくと特別な花になります。
――以前、先生は桜の表情が一番いい時は1日しかないとおっしゃっていましたが?

【競演】満開の枝垂れ桜の手前に、ツバキが花を咲かせている。被写体から離れた場所で、望遠レンズを使うことによって、桜とツバキとの距離を近くすることができる。望遠レンズの特徴を活かし、お互いの美しさを引き出した作品である。
■カメラ:ペンタックス645NU レンズ:400mm F5.6 絞り:f32 シャッタースピード:1/10秒 三脚使用 PLフィルター使用 RVP 50 撮影地:福島県郡山市

 


  その通りです。その貴重な1日を撮るから真剣勝負なんです。ただし「シャッターチャンスはその日1日だけ」ではありません。桜というのは満開はもちろん絵になりますが、地面に散った花びらや水面に浮かんだ花びらなど、桜は散った後でも絵になっています。
 そのような目で桜を見つめていくと特別な花になります。ですから春の花でも梅とはひと味もふた味も違います。桜はやはり美しい。その美しさが散り際に特に印象深く映ります。だから桜の花を語っているだけで、人は酔うことができるのではないでしょうか

――日本全国の桜を撮影されていますが、お気に入りの場所や種類はありますか?

 お気に入りの場所はもちろんあります。種類ももちろんありますが、それよりもその時の出会いによって得られる印象の方が大事な気がします。桜の美しさは、出会い方や状況によってぜんぜん違ってきます。私も最近では写真に撮るばかりでなく、桜を見て楽しもうとしています。

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