思い出を作る道具たち Vol.1 芳賀日向
毎回プロの写真家の仕事場にお邪魔し、愛用の機材や、撮影に便利なアイテムをこっそりと見せてもらいます。第1回目は、祭り写真のエキスパート、芳賀日向さんが登場。都内の事務所に伺うと、約束の時間よりも前だというのに、芳賀さんは上から下まで撮影用の服に着替え、準備万端で迎えてくれました。
不測の事態に備えて、プロの道具は多くなると考えられがちだが、芳賀さんの場合は違っています。プロだからこそ、道具は必要最低限に抑え、そのぶん機動性を高めて、現場では自分の足で動き回るというわけです。道具にとらわれがちな私たちアマチュアにとっては、目からうろこが落ちる言葉です。
祭りの撮影で一番大切なのはマナーだと語る芳賀さんは、服装にも気を配っています。もちろんそれはお洒落のためではありません。
「お祭りでは、カメラを持った自分が、背景の一部として、他人の写真に写りこむことがあります。そんなときあまりにも派手な服装をしていると、主役よりも目立ってしまうことがあるんです。撮影では列の前に出ることも少なくないので、私はできるだけ地味な服装を心がけています」
服装といえば、先ほどから気になって仕方ないのが、両膝に巻かれたサポーター。週3回、合気道の道場に通って汗を流している芳賀さんのことだから、怪我でもされたのかと心配し、お尋ねすると……。
「これがあると楽なんです。下が砂利でもアスファルトでも痛くありませんから。私は体が大きいから、普通に身をかがめても後ろの人の邪魔になってしまう。でも両膝をつけて身をかがめると、地上30 センチくらいのローアングルから撮影できるんです。服が汚れるのが心配なら、オーバーパンツを履けばいいんですよ」
目の前で実演してくれた芳賀さん。180 センチの長身がみるみるうちに小さくなり、地面を這うカタツムリのようになりました。
「本やインターネットを駆使した事前の情報収集は大事ですが、祭りの撮影は一度でうまくいくことはありません。祭りの性格や進行を体験的に知り、現地の人々と言葉を交わすなどして生の情報を得なければ、決定的なシーンを押さえることは難しいからです。そのためには、同じ祭りに何度も足を運んで、失敗を繰り返すことが大切。最初の撮影は場所取りの調査を兼ね、二度目は練習、三度目にようやく本番を迎えるくらいの気持ちで、ねばり強く取り組んだほうが、傑作をものにする近道になる場合が多いようです」
愛知県北設楽郡に伝わる花祭。巨大な鬼面を付けた鬼の舞が夜通し行われる。「隣の天狗がじっと僕を見ていたのには、この写真を見るまで気づきませんでした」と芳賀先生。投げられた榊を手に持って撮影を続けたそうです。
カメラバッグの中身。
ストロボの外部バッテリーを含めても総重量は7kg に満たない。
その他
CF カード(16GB を4 枚)、単3 形アルカリ電池(ストロボ用の予備バッテリー)、クリーニングクロス、ポンチョ&シャワーキャップ、携帯ライト(夜の祭りでは欠かせない)、パーマセルテープ(光の漏れを防ぐ遮光テープだが、手で切れるので何かと便利)、日本写真家協会のプレスカードと腕章。
「3度同じ祭りに通えばうまく撮れる」という金言が飛び出した今回のインタビューは、芳賀さんの事務所で行われました。撮影時の服装だけでなく、カメラバッグを身につけた姿、膝サポーター、さらに雨が降ったときに使うポンチョまで、編集部のリクエストに応えてさまざまな格好をしてくれました。
脚立に腰かけているカットは、「撮られるのは苦手だなぁ」とぼやきながらの撮影。苦笑いしていた様子と、それまで写真に対しての熱い思いを語っていた芳賀さんとのギャップに、その場が和みました。
写真家が撮影している姿は実はなかなか撮る機会がありません。同じ祭りの撮影で出会った仲間から撮影中の姿をもらうことが何度かあったそうです。上の写真は、その中の1枚。
取材が終了した後は、芳賀さんの事務所の近くにある中華料理屋に皆で食事へ。その中華店は、「実は私がメニューを開発して、新メニューのチラシも作ったんだよ」とびっくり発言が飛び出しました。芳賀さんが撮影も手掛けた渾身のチラシは、お店のみなさんにも好評で、メニュー全品の写真を撮ってほしいといわれているそう。中華料理写真家になる日もそう遠くないのかもしれませんね。
芳賀さんの取材は、立ったり座ったり、いろいろなものを身につけたり、機材の説明をしたり…と盛りだくさんの内容でした。
最前列で撮影するために…の説明をするときに、急に床にはいつくばり姿勢をとったところ。あとで誌面用に改めてポーズをとってもらいました。
1956年、長野県軽井沢生まれ。成蹊大学法学部、米国西イリノイ州立大学文化人類学科卒業。国内外の祭・民族・文化を中心に撮影し、取材訪問国は47カ国に及ぶ。
(社)日本写真家協会・日本旅行作家協会会員。趣味の合気道は現在四段。山伏の免許を持つ(山伏名は「芳賀陽晃」)。
芳賀ライブラリーのホームページ
http://hagafoto.jp/
思い出を作る道具たち Vol.1 芳賀日向