ネイチャースナップのすすめ|キヤノン RF200-800mm F6.3-9 IS USMで春の花を撮る

小林義明
ネイチャースナップのすすめ|キヤノン RF200-800mm F6.3-9 IS USMで春の花を撮る

はじめに

冬のあいだタンチョウや野生動物などを撮影するのに大活躍したキヤノン「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」。しかし、春になるとだんだん風景や花などに主な被写体が移っていくのは前回お話ししたとおりです。しかし、そのままRF200-800mm F6.3-9 IS USMを眠らせておくのは惜しいです。

そこで今回は、RF200-800mm F6.3-9 IS USMで春の花を撮影してみました。実際に使ってみて感じたことを正直にお伝えします。このレンズを使っている方だけでなく、超望遠ズームをお使いの方の参考にもなると思いますのでお楽しみください。


超望遠レンズで花を撮るメリット

最近はインスタ映え狙いのような大規模な花畑が増えてきました。植物園でも手前に柵があって花に近づけないことが増えていて、マクロレンズでは撮りにくい場所も多いです。

そんなところでは、超望遠レンズがあると奥の方に咲いている花をしっかり引き寄せて撮影できます。被写界深度も浅いので大きなボケも作りやすく、画角が狭くなるにつれて遠くのものを引き寄せる圧縮効果も強くなりますから、一般的な100mmクラスのマクロレンズよりも背景を整理しやすくなります。簡単にいうと、すっきりした絵を作りやすいメリットがあるのです。

そんな実状に合わせてか、望遠系ズームレンズも最短撮影距離が短いものやハーフマクロが撮れるものなど、望遠マクロ的な使い方ができるレンズが増えてきました。ただ、実際の現場では200mmくらいだとまだ物足りないことも多く、もっと望遠が欲しいと思うこともあります。最近は200mmクラスのマクロレンズが発売されていませんが、300mmや400mmといったマクロが得意なレンズが出てきてほしいところです。

そんななかで、超望遠ズームで最長焦点距離を持つRF200-800mm F6.3-9 IS USMなら、さらに新しい絵作りも可能となります。

大きなチューリップの花畑だが、まだ満開ではなかったので、ポツンと咲いている花を選んで前後に大きなボケを入れ、スッキリと切り取っている。まわりにはたくさん人がいたので、人を入れないようにするにも超望遠の狭い画角は有利だ。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (800mm)
■撮影環境:F9 1/800秒 ISO800 +0.7EV WB太陽光 
小川の脇で咲いていたムラサキケマン。小川のきらめきを玉ボケとして背景に入れて撮影。適度に離れたところから撮影できるのは、自然へのダメージも少なく撮るときの姿勢も楽でいい。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (242mm)
■撮影環境:F6.3 1/400秒 ISO320 +0.3EV WB太陽光 APS-Cクロップ
スイレンの池にサクラの花びらが散っていて印象的だった。池は一段低くなっていてちょっと距離があったのだが、望遠で引き寄せることでかんたんにイメージ通りにフレーミングできた。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (400mm)
■撮影環境:F10 1/500秒 ISO500 +1EV WB太陽光

撮れる大きさは

最大撮影倍率は200mm時に0.25倍、800mmで0.2倍と、どの焦点距離でも大きく変化しません。このくらいの撮影倍率だと、チューリップくらいの大きさの花なら画面いっぱいに近い大きさで撮影できます。他の花だと、バラとかコスモスといったものなら十分な大きさで撮影できると思います。

今回はEOS R5と組み合わせて撮影していて、もう少し大きく撮りたいと感じたときにはAPS-Cクロップを利用しています。このレンズで花をアップ気味に撮影するときにはAPS-Cモデルの方が相性が良いと思いました。

ただ、いつも花一輪を画面いっぱいに撮れば良いというものではなく、まわりの雰囲気などを適度に取り込んで画面構成することの方が多いので、よほど小さな花を撮影するのでなければ、気にならないと思います。

左が200mm、右が800mmの最短撮影距離で撮影したもの。大きさはわずかだが800mmの方が小さくなるものの、極端な違いはないといえる。どのくらいものが画面いっぱいに写せるか、感覚的に把握しておくようにしよう。
モモの花を200mmの最短撮影距離で撮影。花を一輪だけ撮ろうとするとちょっと小さく感じるかもしれないが、数輪を画面に入れたり周りの様子を取り込んだりすれば、まとまった構図にすることができる。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (200mm)
■撮影環境:F8 1/800秒 ISO200 +1EV WB太陽光
花壇に植えられていたカマシア。手前の花を前ボケにして800mmの最短撮影距離で撮影した。手ブレ補正はしっかり効くが、超望遠の焦点距離で近距離撮影ではブレやすいので、ある程度速いシャッター速度で撮影しよう。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (800mm)
■撮影環境:F9 1/1000秒 ISO1600 +0.7EV WB太陽光
アセビにやって来たテングチョウを撮影。チョウを驚かさないように800mmの最短撮影距離で撮っている。チョウの姿が小さかったのでAPS-Cにクロップしているが、もう少し大きく撮りたい感じもする。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (800mm)
■撮影環境:F9 1/1000秒 ISO800 +1EV WB太陽光 APS-Cクロップ

最短撮影距離を把握しよう

鳥やいきものなどを撮影しているときは、最短撮影距離付近で撮影できるチャンスの方が少ないのであまり気になりませんが、花の撮影では近づいて撮影することの方が多いので、スムーズに撮影するには最短撮影距離を把握しておくことも大切です。最短撮影距離よりも近づくと、ピントが合わなくなってしまいます。

RF200-800mm F6.3-9 IS USMは最短撮影距離が焦点距離によって変化します。カタログスペックでは、200mm時の最短撮影距離が0.8m、800mmでは3.3mとなり、かなり大きく変化します。当然つねに両端の焦点距離で撮影しているわけではなく中間の焦点距離でも撮影しますから、0.8mから3.3mの間で微妙に変化します。

厳密なものではありませんが、焦点距離が50mm長くなるごとに最短撮影距離が遠くなっていき、半歩ずつ後に下がるとピントが合う感じです。200mmから800mmまでの最短撮影距離を50mmずつに分けると12ステップとなって、約22cmずつ最短撮影距離が遠くなる計算です。目安となる表をつけておきますので、参考にしてください。

この最短撮影距離は正確なものではなく、大まかな目安として見てほしい。500mmを越えると最短撮影距離が2mを越えるので、ちょっと離れたところのものを撮る感じになってくる印象だ。近づきすぎるとピントが合わないので、注意しよう。

実際に近距離で撮影しているときには、200mmでピントを合わせてから被写体を意図する大きさになるようズーミングして、ピントが合わなくなれば少し後ろに下がるという感じでした。撮影する場所の広さにもよっては下がれなくて思うようにいかないこともありました。このときはAPS-Cにクロップしてから焦点距離を短くして対応していて、けっこうな頻度で利用しました。

奥に見えるナノハナにピントを合わせている。このような位置の被写体にピントを合わせるときには当然最短撮影距離を意識することはないが、正確にピントを合わせるようにしよう。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (354mm)
■撮影環境:F7.1 1/800秒 ISO200 +0.3EV WB太陽光
左が200mm、右が800mmの最短撮影距離でフキノトウを撮影したもの。背が低い花だと、近づくと見下ろす感じになりやすく、離れると横から見る感じなっていく。撮影距離だけでなくアングルが変化することもあるので、このことも意識して焦点距離を選ぶ必要がでてくるだろう。
800mmの最短撮影距離でピントを合わせたあと、窮屈だったので707mmにズーミング。離れている花なら望遠側でピント合わせしてからフレーミングという順序でも問題なく撮影できる。このあたりは感覚的に慣れていけるといい。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (707mm)
■撮影環境:F9 1/1600秒 ISO3200 WB太陽光
ニリンソウが咲き始めたところにサクラの花びらが散っていた。ニリンソウだけを撮るよりも季節の移り変わりが感じられるカットになった。ニリンソウの形を分かりやすくするためには見下ろす感じの方がいいので、200mmにしているが、小さくなるためAPS-Cクロップしている。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (200mm)
■撮影環境:F9 1/400秒 ISO200 WB太陽光 APS-Cクロップ

超望遠クローズアップの注意点

遠くの花を引き寄せたり大きなボケを得やすい超望遠ズームレンズですが、注意点もあります。

まずは被写界深度が極端に浅いことです。遠景の撮影ではそれほど気にならないと思いますが、最短撮影距離付近だと、手持ち撮影ではピントが合ったあとに体がちょっと動いてしまうだけで簡単にピンボケになってしまいます。

AFのモードをAI SERVO(AF-C)にしておくという方法もありますが、正確にAFフレームで被写体を捉えておく必要があります。画角が狭い超望遠域で手持ち撮影するときはONE SHOT(AF-S)の方が安定してピント合わせできると思いました。

また、たくさんの花が画面に入っているシーンでも難しさを感じました。800mm側では少し距離が違うとすぐにぼけるため、いくつか花が並んでいるところなどは、すぐ隣の花が微妙にぼけることがあり、あまりきれいに見えないことがありました。絞り込んでも回折現象が出て似たような感じになってしまうので、画面の中で一番目立つところにしっかりピントを合わせるだけでなく、いくつの花がカメラ(センサー面)と平行になってきちんとピントが合うようにカメラポジションを調整しながら撮ることも大切です。同時にそのようなピントの合わせ方ができる花を選ぶことも必要ですね。

モモ畑の地面に咲いているナズナの花を春らしい背景で撮影している。たくさんのナズナが並んでいて、小さいサイズで写真を見るとだいたいピントが合っているように見えるのだが・・・
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (742mm)
■撮影環境:F11 1/800秒 ISO1000 +0.7EV WB太陽光
ピクセル等倍レベルで見ると、ピントを合わせた花の近くでは微妙にぼけているところもあり、少し大きく写真を伸ばしたときに気になることがあるかもしれない。被写界深度をコントロールしてもうすこしすっきり見せたい感じがする。
手前にあったピンクを前ボケとしてユキワリソウを撮影。中央の二輪にしっかりとピントが合うようにカメラポジションを調節しながらフレーミングを決めた。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (672mm)
■撮影環境:F9 1/1000秒 ISO1600 +0.3EV WB太陽光 APS-Cクロップ
被写界深度が浅い超望遠域でも、カメラ(センサー面)と二つの被写体が平行になれば、しっかりとピントが合う。ピクセル等倍で見ても、二輪のシベにピントが合っているのが分かるだろう。

被写界深度が浅いというと背景は簡単に大きくぼかせると思うかもしれませんが、ピントを合わせた被写体と背景はある程度離れていないと思ったようにはぼけてくれません。大きなボケを得るためには、被写体と背景の離れているところを選ぶことを覚えておきましょう。それが分かると、超望遠レンズの方が背景をすっきり見せやすいのが分かると思います。

水辺に咲くミズバショウ。背景のきらめきが大きくぼけてきれいな玉ボケになるかと思ったのだが、背景が近くて思い通りの絵にはならなかった。いくら超望遠でも背景が近いと思うようにぼけてくれないのだ。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (539mm)
■撮影環境:F8 1/640秒 ISO1250 +1.3EV WB太陽光
そこで、多重露出をしてピントをぼかした画像を重ねることで大きな玉ボケや春らしいフワッとした雰囲気を演出してみた。カメラが持つ機能を利用することでイメージを再現するような工夫もときには必要だ。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (539mm)
■撮影環境:F8 1/640秒 ISO1250 +1.3EV WB太陽光
多重露出で利用したピントを外したカット。1枚目のピントが合ったカットを撮影したあと、AFロックしたままMFでピントを外してどこにもピントが合わないようにしている。多重露出は「平均」を利用している。

遠景の撮影ではあまり距離があると空気の揺らぎによってピントのシャープさが失われることもあります。日中の気温が高いときや地面すれすれのアングルからの撮影では、このような現象が起きやすいと覚えておきましょう。

すぐ手前にあるナノハナを前ボケとして、数十メートル先のサクラにピントを合わせている。超望遠だと遠くの景色を引き寄せるのも簡単なのだが、ちょっと解像感が低くなってしまっている。
■撮影機材:CANON EOS R5 + RF200-800mm F6.3-9 IS USM (672mm)
■撮影環境:F9 1/800秒 ISO800 +1EV WB太陽光
ピクセル等倍で見ると、空気が揺らいでいるのが分かる。風があればここまで解像感が落ちることはなかったと思うが、暖かく風がないときは気をつける必要がある。

まとめ

流行りの大きな花畑や人気の混んでいるところでは、超望遠ズームレンズを利用すると画面整理をしやすくなり、思っている以上に快適に花の撮影を楽しめます。さすがに広角レンズのような拡がりの感じられる絵は難しくなりますが、花=マクロレンズではなく、超望遠レンズも活用してほしいです。

また、超望遠ズームのユーザーは主に鳥などを撮影するために利用している人も多いでしょう。今回のような花が咲いている場所でも小鳥の姿を見ることがあって、見つけたときにレンズ交換をすることなくそのまま撮影できるというメリットもありますので、花の撮影だから超望遠はいらないと考えず、積極的に活用してみてください。

超望遠ズームのメリットが分かると、ズーム域の広い「RF200-800mm F6.3-9 IS USM」は花を撮るときにも手放せないレンズとなりますよ。

 

 

■自然写真家:小林義明
1969年東京生まれ。自然の優しさを捉えた作品を得意とする。現在は北海道に住み、ゆっくりとしずかに自然を見つめながら「いのちの景色」をテーマに撮影。カメラメーカーの写真教室講師などのほか、自主的な勉強会なども開催し自分の視点で撮影できるアマチュアカメラマンの育成も行っている。

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