チューリップの彩り|上手に撮る方法をプロが紹介 ~吉住志穂~
はじめに
どんな花も好きですし、綺麗に撮りたいと思っています。しかし、写真として撮りやすい花、撮りにくい花というのはどうしてもあります。そんな数ある花の中で、チューリップは撮りやすい花のひとつです。花の大きさが大きすぎず、小さすぎず、丈も高すぎず、低すぎず。彩り豊かで品種も多様。茎が真っ直ぐで、人の手で等間隔に植えられていることが多いので、ごちゃごちゃしすぎず、前後のボケが作りやすい・・・などと撮りやすいポイントがいっぱい挙げられます。そんなチューリップを工夫してきれいに撮影してみましょう。
スタンダードに背景をぼかす
まずはスタンダードに背景をぼかして撮ってみましょう。背景をぼかすには絞りを開け、望遠系のレンズを使い、花に近づき、主役と背景が離れているという4つの要素が必要になります。しかし、ただボケていればいいといわけではありません。背景を含めて一枚の作品ですから、ボケのふんわり感や彩りを常に意識しましょう。
ここではピンクと黄色の淡い色で統一し、暖色系の同系色で揃えました。明るく、やわらかい雰囲気でまとめることができました。明るい雰囲気は色選びと露出とともに、光も影響します。逆光で撮影しているので花びらの透けた感じが出て明るく感じます。
強く目を引く色合い
前の作品と対比して見てもらいたいのですが、背景がボケている点は同じですが、色の組み合わせが違いますね。前の作品は暖色系の同系色で、淡い色で統一されていましたが、こちらは赤と青という反対色の関係で、強く目を引く鮮やかな色合いでまとめられています。
同じ様な撮り方をしていても色の合わせ方でだいぶ印象が変わってきます。淡いなら淡く、鮮やかなら鮮やかでまとめることが大切で、背景の一部分だけが鮮やかだったり、濃かったりするのではなく、背景全体に統一感があるといいですね。背景は鮮やかですが、主役は白い花を選んでいるのであまり目立つ色ではありません。どちらかというと背景で見せる作品と言えるでしょう。
前ぼけをつくる(1)
背景ボケにプラスして、前ボケを入れました。前ボケを作るには絞りを開け、望遠系のレンズを選ぶという点は背景ボケと同じで、さらに前ボケにする花に近づき、主役と前ボケの花の距離が離れているという要素が加わります。主役の花と前ボケの花には距離があるので大きくぼけているのです。
前ボケだけではなく、背景も入ってくるので、主役、背景、前ボケとなる花3点がそれぞれ離れている必要があります。前ボケが入ることで茎を隠したり、前後をぼけで包んで、ふんわりとした雰囲気をより増すことができます。背景ボケだけよりも難易度は上がりますが、ぜひ挑戦してみてください。
前ぼけをつくる(2)
前の作品と同じように前ボケを入れていますが、こちらの方がより難しくなります。なぜかというと、主役に近づくという要素が減っているからです。前の作品は一輪がアップで写るほどクローズアップしているぶん、背景ボケも前ボケも大きくぼかすことができます。しかし、群生を主役にしているので、主役からはやや離れています。
そこで、それを補うように、前ボケの花にはうんと近づいて、主役と前ボケとの距離がより離れている場所を選んでいます。レンズはどちらも150mmで絞りはF2.8を選択していますが、主役との距離、主役と前ボケの距離を工夫すれば、自在にボケ具合をコントロールできます。
品種ごとに植えられた色の違う部分を切りとる
チューリップはたくさんの品種があって、大規模なチューリップ畑では違った品種をグループごとに植え分けていたりします。その色の違う一部分を切り取ってみましょう。広く撮るといっても広角で撮ると、人や人工物も入る可能性があるので、ここでは望遠レンズを使いつつ、遠くの花々を狙っています。
画角が狭いので余計なものは入りにくいですが、遠くを撮っているので広い範囲を写すことができます。しかも望遠はボケが生じやすいので、ひとつのグループにピントを合わせると前後がほんのりとぼけます。クローズアップの時の様な大きなボケにはなりませんが、主役をこの色にしたかったというのは伝わると思います。
クローズアップして撮る
チューリップは花の中では中ぐらいの大きさなので、このような一部分を切り取るような撮り方ができます。シンプルな造形がチューリップの魅力でもあるので、花全体や群生を撮るだけではなく、このような造形に迫るクローズアップもおもしろいですよ。私が使っている望遠ズームは結構寄れるので望遠で撮っていますが、マクロレンズが1本あると容易にクローズアップできます。
ピントは花びらの付け根あたりの黄色い部分に合わせています。左側の輪郭がボケていて不思議がられたのですが、ここには別の花があって、前ボケができています。わずかですが背景の部分もありますが、ここも赤一色で統一しています。
群生の中で一輪だけにピントを合わせる
群生の中から一輪だけにピントが合う様な場所を探すのに苦労しました。ピントは点ではなく面で合うので、主役と同じ距離にある左右の花にもピントはきています。しかし、前ボケで隠すことによって見えなくしているだけなのです。そして、主役まで前ボケに隠れてはいけないので、前ボケがV型になっているところを探しましょう。
ちょうど主役の下にはV型の隙間がありますよね。そうすれば前ボケの間に主役が顔を出すように写せます。背景には小さな池があるのですが、逆光の水面は風が吹くと波頭が白く反射し、それがボケると、このような丸いボケになります。きらめきを感じるお気に入りの一枚です。
ボケをコントロールして桜を背景に撮る
背景に写っているのは桜です。チューリップの開花時期は桜より少し後なのですが、早咲きの品種だと開花期が重なるので、両者を組み合わせることができました。背景はぼかしたいですが、桜があるのを感じさせる必要があるので、ここでもボケのコントロールをしています。
桜全体を入れたいのでレンズの画角がこの作品は80mmを選択しています。他の作品がすべて150mmで撮影しているのに対し、望遠の度合いが減っています。絞りは開放のF2.8ですし、チューリップにさほど寄っていません。となると、残りの要素は主役と背景との距離ですね。距離が離れているのでぼかすことができました。少し広めの画角で背景を感じさせるボケの作り方もマスターしましょう。
まとめ
撮影データを見ると、8点とも同じ望遠ズームで撮影し、絞りは開放のF2.8を選択しています。しかし、撮影距離には違いがあります。それでも背景ボケ、前ボケがふんわりするように、被写体との距離や被写体同士の距離の選択が大事になってきます。ズームレンズは便利ですが、クローズアップ写真においては、ズームで被写体の大きさを決めるのではなく、ボケ具合をコントロールするものだと覚えておきましょう。自分の足で寄ったり引いたりすることでボケ具合を調整してください。
もう春本番ですね。色とりどりのチューリップを美しいボケを使って撮影してみてください。
■写真家:吉住志穂
1979年東京生まれ。日本写真芸術専門学校卒業。写真家の竹内敏信氏に師事し、2005年に独立。「花のこころ」をテーマに、クローズアップ作品を中心に撮影している。2021秋に写真展「夢」、2022春に写真展「Rainbow」を開催し、女性ならではの視点で捉えた作品が高い評価を得る。また、写真誌やウェブサイトでの執筆、撮影講座の講師を多数務める。
・日本写真家協会(JPS)会員
・日本自然科学写真協会(SSP)会員