これに代わるものはない!稀代のスナップシューター|リコー GR DIGITAL
はじめに
2005年10月21日に発売されたリコーの「GR DIGITAL」は、発売から18年経つ今も根強いファンを持つ、高級コンパクトデジタルカメラです。筆者も発売当初から愛用しており、「RICOH GR III」を所持しながらも、ときおり無性に懐かしくなって、散歩のお供にする愛用カメラです。今回は、本機を持って春の街を歩いてみました。作品はすべてJPEGで撮って、調整などせずに掲載しています。
GRシリーズ初のデジタル機
本機の祖は、1996年に発売されたフィルムカメラの「GR1」で、4群7枚で構成された28mm画角、F2.8のGRレンズは、画像周辺部まで高い画質を誇り、多くの写真家に愛されました。
その後、1998年にコスパのいい「GR10」と、より多機能になった「GR1s」を、2001年に世界で初めてコンパクトカメラに21mm単焦点レンズを搭載した「GR21」、2001年に「GR1」の最終進化系「GR1v」を発売し、銀塩GRシリーズは幕を閉じます。
そして、2005年にデジタルで蘇ったのが、この「GR DIGITAL」です。その後、現在に至るまでブラッシュアップを重ねながら、デジタルGRシリーズは販売されています。
スナップシューターの名に相応しい抜け感のある描写
GRシリーズといえばスナップシューター。広角レンズながら画像の隅々まで鮮明に表現する解像感、ポケットに入るほどの小ささ、電源オンからの立ち上がりの早さ、すべてを満たしているからこその愛称と言えます。
本機には、35mm判換算28mmの広角レンズが搭載されています。レンズ設計は特殊低分散レンズ1枚、ガラスモールド非球面レンズ2枚を含む、5群6枚で構成。絞り羽根枚数7枚、開放F値2.4の高性能GRレンズが、25mmの薄いボディの中に収まっています。
写りは繊細かつシャープ、そして高いコントラストが、その場のムードを丁寧に写し取ってくれます。今回は、ほとんどのカットを画像設定「普通」で撮影しています。このシーンは赤と青の色バランスが抜群に良く、ナチュラルながら抜け感のあるスナップに仕上げてくれました。
日中シンクロ遊びが楽しい!
筆者が本機でよく遊ぶのが、花の日中シンクロです。この写真は逆光の配置で、フラッシュを強制発光モードにしてマクロをオンに、主役の被写体を中央付近に配置して、ぐっと寄って撮影しました。
フラッシュ無しで撮影すると、ピントを合わせた桜の花は真っ暗になってしまいますし、手前の桜の花に露出を合わせると、後ろの桜の花は白飛びしてしまいます。そこで、日中シンクロの出番なのですが、本機の内蔵フラッシュは撮影条件にもよりますが約0.2m~3mまで届くもので、強い逆光時の撮影でもかなり効果があります。
人物に使用すると記者会見のような写真になってしまいますが、逆光の状態の花をフラッシュを使用して撮影すると、明るさを保ったHDRのような写真になったり、ちょっと色っぽさが出たりするので、本機を持っているときに、背の高い花を見つけると高確率で撮影しています。
枝が低いところにある桜の木も、日中シンクロが楽しい被写体です。人間の目は自動的に明暗差を補正してくれますが、その肉眼に近い見え方の写真になります。
本機を持っているときは露出アンダー目の写真が多くなるのですが、この日はとても暖かく、桜の木にも緑の葉が目立ち始めていて、春から初夏を感じられる気候だったので、明るく爽やかな写真が撮りたくなりました。
ADJ.ボタンはとっても便利で快適!
主なメニュー操作はメニュー画面に行かなくても、カメラ背面の物理ボタンでスマートにアクセスできます。フラッシュは十字キーを押すごとにオート、赤目発光、強制発光、スローシンクロ、発光禁止と切り替わります。筆者は、通常は発光禁止にしておいて、日中シンクロをしたいときに強制発光に切り替えることで、ふいにフラッシュが焚かれることを回避しています。
マクロも十字キーで簡単にオン、オフの切替が可能。そして、とっても便利なのがADJ.ボタンで、押さずに回せば、マニュアル露出撮影時にはシャッター速度を変えられるのですが、ぐっと押し込むと、設定した4つのメニュー操作ができます。
筆者は変える頻度の多いISO感度、ホワイトバランス、フォーカス、画像設定の4つのメニューをここに当てはめています。このADJ.ボタンは、筆者の小さい指と最高に相性が良く、とても快適に操作ができます。
シャッターを押すことに集中したくなるカメラ
撮影最短距離は約30cm、マクロ使用時は約1.5cmです。通常のスナップ撮影なら、30cmも寄れれば十分ですので、前述の花日中シンクロ以外では、マクロを使用することは少ないです。
本機はどちらかというと、あれこれカメラの設定を変えるよりも、シャッターを押すことに専念するほうが楽しいカメラだと思います。
本機は、モノクロやセピアの描写も美しいです。開店前のお店の、ショーウインドーの向こう側の一枚。コンパクトなカメラだと、撮りたい被写体に片手でぐっと近づけるのが便利!
ファインダーや液晶画面を見ながら、じっくりと構図を考える撮影もいいのですが、手のひらサイズの本機は、ノーファインダーで撮影するのも楽しいです。フォーカスを「スポットAF」にして、任意の位置に固定、そのあたりに被写体が来る瞬間にシャッターボタンをゆっくりと押すと、気軽にノーファインダー撮影が楽しめます。
背面液晶が見にくい?それなら、銀塩カメラだと思いましょう
本機には約21万画素、2.5型のTFT液晶がついていますが、天気の良い外では正直、見やすいとは言いにくい画面です。当時はそんなことを感じなかったのですが、近年、見やすい液晶画面に慣れてしまうとびっくりするほど見えないなと思ってしまいます。
ですが、撮影時にはそんなことはあまり気になりません。なぜなら、銀塩カメラの気分で使用しているから。
シャッターボタンを押して、書き込みが始まって撮れたことを確認したら、じっくりと再生することはあまりしません。どういうふうに撮れているか確認できるのは、現像されてからのフィルムと同じ気持ちで、家に帰ってから。大きなモニターで見るまでは、今日の成果がはっきりとわからないドキドキ感を楽しみます。
仕事のカメラではそういう訳には行きませんが、本機を持ち出すのは思いっきりプライベートのときだけなので、そんな遊びができるのです。
一生使い続けたいカメラ
高性能のカメラに慣れていると、本機を使うとアレ?と感じることが沢山あると思います。でも、それを凌駕する抜け感のある美しい描写性能と、見たまま、感じたままのシャッターチャンスを逃さないレスポンス、意外な被写体に出会わせてくれる刺激的でノスタルジックなボディは、きっと一生使い続けられるカメラなのだと使うたびに実感します。
■写真家:水咲奈々
東京都出身。大学卒業後、舞台俳優として活動するがモデルとしてカメラの前に立つうちに撮る側に興味が湧き、作品を持ち込んだカメラ雑誌の出版社に入社し編集と写真を学ぶ。現在はフリーの写真家として雑誌やWEB、イベントや写真教室など多方面で活動中。興味を持った被写体に積極的にアプローチするので撮影ジャンルは赤ちゃんから戦闘機までと幅広い。日本写真家協会(JPS)会員。