カメラのキタムラ
Vol.45 2003 SUMMER
フォトワールド 十人十色 第6回  
【ホタルの夢】

小さな生命の輝きを見つめて

 春の小川のメダカたち、夏の水辺のホタルたち…。
 そんな自然の営みの原風景に、私たちの先人は、どれだけ心の安らぎを得てきたことでしょう。 悠久の時の流れの中で、四季折々の季節の輝きと共に生きる生活が、そこにあった気がします。
 私たちの生活から、急激に遠くなりつつある自然。現代の慌しい日常は、自然の潤いも安らぎも、どこかに追いやってしまったかのようです。
 しかし、闇に舞うホタルの幻想的な光に、小さな生き物たちの”命の輝き“を感じないではいられ ません。

【夕日の影に】
「身近な自然のよさを、
みんなに知ってもらいたい」。
描きつづけたホタルへの想い。

 退院後も療養生活を送りながら、作品づくりに力を注がれた加藤先生。しかし、体調のこともあって遠出しての撮影活動ができなかったため、自宅周辺が撮影ポイントとなりました。
 「そこはまだ手つかずの自然が数多く残っていました。四季折々の草花、季節の変わり目にやってくる小鳥たち。今までは何気なく見過ごしていたものに魅力を感じました」。
 そんな時に、浮かんできたのが初夏の日暮れに、近くの用水路でほのかな光を放っていたホタルの存在でした。
 「入院中から思い描きつづけていたのがホタルでした。どうしたらうまく撮れるのだろうか?どのように撮ろうか?」実際に写真にしてみると、なかなか自分のイメージ通りにはならず、フィルムの種類も変えながら試行錯誤を繰り返していきました。
 「とにかく、辺りが暗くなってからの撮影なので、ピントを合わせるだけでも苦労します。また、ホタルの光だけでなく体全体やまわりの色・形などもある程度わかるように写さなくてはいけないので、慣れるまでは大変でした」。
 やがて先生は、ホタルの魅力のとりことなり、一シーズンだけで写真集ができ上がるほど、ホタルの写真を撮り続けたのです。


エッセイと組み合わせることで、写真の魅力をよりわかりやすく伝えることができる。
 加藤先生はホタルの写真集のほかにも、『花』『小鳥』『樹』など自然の中から切り取った様々なモチーフを写真集として出されています。そのいずれもが、詩を添えたフォト・エッセイ集です。
 こういった表現のきっかけとなったのは、写真展を開催しているときに、作品を前にして「どのように解釈したらいいのかわからない」と、悩んでいる方がみえたのがきっかけだったそうです。
 「本当は、写真にはエッセイはもちろん、タイトルもつけずにそれぞれの人が感じるままに写真を見てくださればいいと思っていました。写真以外の要素があると、見る人の想像力を制限してしまうのではないかと考えていたからです。ところが、写真とエッセイを組み合わせることで、それぞれの力が融合されて、今までにない表現力を発揮することができたのです」。
 今では、加藤先生といえば『自然を題材にした写真とエッセイの組み合わせ』が定評となっています。
 「自分としては、できれば写真だけの作品集にしたいんです。写真を撮って、さらにエッセイもつくるのは大変なんです(笑)」。
 そうおっしゃりながらも、見る人の心を癒し、気分を和らげることのできるフォト・エッセイ集に、これからも精力的に取り組んでいかれることでしょう。「写真を撮りつづけることは、自分の心のふるさとを創ることであり、自分の生き方を見つけることでもあるのです」。
 自然を愛し、人の心を思う気持ちにあふれている加藤先生の、今後の活躍にご期待ください。

※加藤芳明氏の意向により、撮影データは記載いたしませんのでご了承ください。
※本文中のエッセイは、加藤芳明氏の作品です。


PROFILE
かとうよしあき
1940年、名古屋市生まれ。東洋大学大学院哲学科を経て教師となるも、病を得て退職。現在、病気療養のかたわら、教育・医療相談にあたりつつ、創作活動を続けている。著書にはフォト・エッセイ集『四季の詩』シリーズ「赤い実と小鳥」、「風のシルエット」、「ホタルの夢」など多数(光村BeeBooks)。4月にシリーズ11作目「コスモス日記U」(東京・遊人工房)を出版。

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