カメラのキタムラ
Vol.48 2004 SPRING
フォトワールド 十人十色 第6回  
昆虫たちと花が奏でる自然界の「色」のハーモニー
写真家  日比野 克
普段は見過ごしてしまいがちな道端の被写体。自分の足元にこんなに素晴らしい色の世界が広がっているとは、カメラのファインダーを覗かない限りとても信じられないことでしょう。写真を趣味とする読者の皆さまも、一度はこのマクロの世界に足を踏み入れたいと思ったことがあるかもしれません。構えたレンズの先に豊かに広がる小さな世界を表現する日比野克先生にお話を伺いました。
【ビロードツリアブ】気に入った花を選び、アングルを決め虫の飛来を待つ。必ず花芯の蜜を吸うので、ピントは花芯に合わせる。
■カメラ:キヤノンEOS1N-DP レンズ:EF180mmF3.5Lマクロ 絞り:f3.5
シャッタースピード:1/1000秒 +1/3EV補正 フィルム:フジクロームベルビア(RVP) 撮影地:山梨県白州町4月
【フデリンドウ】邪魔な草は、形が残る程度にボカして草むらの雰囲気をだす。花びらの下は影になるので、レフを当てる。
■カメラ:キヤノンEOS1N-DP レンズ:EF100mmF2.8マクロ 絞り:f2.8 シャッタースピード:1/640秒 +1/3EV補正 フィルム:フジクロームベルビア(RVP) レフ板使用 撮影地:長野県野辺山高原5月


【ウメ】枝先の花を選び、後ろの花はボカして背景を埋める。半日陰の背景を選べば花が浮き出してくる。
■カメラ:キヤノンEOS1N-DP レンズ:タムロンSPAF90mmF2.8マクロ 絞り:f2.8 シャッタースピード:1/125秒 −1/3EV補正 フィルム:フジクロームベルビア(RVP) 撮影地:神奈川県平塚市 3月
学生の頃から暖め続けた昆虫への想い
 日本写真家協会(JPS)や日本自然科学写真協会の会員であり、著書も多数発行されている日比野先生が、本格的に写真家として活動を開始したのは、意外にも50歳になってからとか。
 学生時代に趣味だった写真を、仕事を持つようになってからも続けてはいましたが、本格的に写真家となる以前は、特にこれというテーマを決めずに撮っていました。ただシャッターのタイミングを体で覚えていたいという思いから、記念写真ではなく遊んでいる子どもを撮るなど、被写体への注意は欠かさなかったと言われます。
 そして昆虫や花を撮りだしたのは48歳の頃からでした。
 初めは野鳥を撮ろうと600mmのレンズを購入されたそうですが、「このレンズは重くてとてもやってられない」と思い、もともと高校生の頃に夢中になった昆虫採集を思い出し、昆虫写真に転向されたのだとか。
ボケ味を活かした美しい写真のための自分なりの工夫
 画面全体に広がる美しい色を効果的に使い、対象以外を大胆にボカした日比野先生の写真には実はルーツがありました。
 当時まだ珍しかったマクロレンズなどの独自のボケ味を活かして、ネイチャーフォトというジャンルを切り開いた故・木原和人さんの写真集を手にし、大変感動されたそうです。
 「その写真集を見ながら、あの人の写真はどうやって撮っているのかと思い、2年ぐらい試行錯誤を繰り返しました。」
 どういう機材を使っているのか、どんな工夫をしているのか。いろいろ試していくうちに見えてきたのは、「一番重要なのは絞りだ」ということでした。
 「ちょっと露出をオーバーにして、透明感のある発色にしたり、逆にアンダーにしてメリハリをつける。今では一眼レフであれば露出補正という便利な機構で簡単に実現できますが、当時は、例えばf8なら”8ちょっとプラス“などの補正に絞りリングを手で押さえるなどのテクニックです。」
 そして、ボケ味を研究していた時期の作品が日本写真家協会の主催するJPS展で銅賞を受賞します。
 JPS展といえばアマチュアも応募できるものの、その受賞者のほとんどがプロというレベルが高いコンテストです。そのことは受賞して初めて知ったとか。
 しかし、その工夫を凝らした蝶の写真の受賞が自信になり、今日のご活躍の基礎を形づくっているのです。

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