カメラを手にしていない時の、気持ちの持ち方が大切。
――先生はアマチュアカメラマン向けの講師もされていますが、参加されている方に対してどのような感想をお持ちですか?また、どのようなことをポイントに指導されているのでしょうか?


 アマチュアカメラマンの方々を日本各地で見かけます。撮った写真を見ると「こんな素晴らしい写真が撮れたぞ!どうだ!」とでも言いたげな印象を受けます。
 写真はきれいなのですが、何を伝えたいのかが、はっきりしないものが目につきます。パッと目立ったものを撮ってくるだけなら、過去にもたくさんの方が既に行っていますし、もう出尽くした感があります。
 私は『輝望フォトグラファーズ』という50人程の写真教室を持っています。現在、「水」をテーマに作品づくりをさせていますが、撮影時の意識を高めるために、”水物語〜心のオアシスを求めて〜“という言葉をイメージして写真を撮るように指導しているところです。
 このように、何かひとつ軸になる言葉を決め、それに基づいた写真作家としての写真の突き詰め方を、当教室では話しています。先ほどから何度も述べましたが、「きれいなもの」「美しいもの」「華やかなもの」を作品にした経験が、みなさんもおありだと思います。それで一喜一憂するのではなく、見る人に何を伝えるかを考えて作画を続けることが大事なのだと常々思います。


【天池のほとり】
■カメラ:マミヤRB6×7 レンズ:KL350mm F5.6 APO/L 絞り:f22 シャッタースピード:1/2秒 フィルム:RVP100 撮影地:秋山郷(1月)

―撮影ツアーに先生が同行された際、生徒さんたちには具体的に、どのような指導をされるのですか?

【ブナ樹氷】
■カメラ:マミヤ645AFD レンズ:ズームAF ULD 105〜210mm F4.5 絞り:f22 シャッタースピード:1/8秒 フィルム:RVP100 撮影地:八甲田山(2月)
 私も一応カメラを持って行きますが、基本的には撮影はしません。なるべくみなさんのフレーミングを見ることにしています。フレーミングを見て、その人が何を表現したいかということを聞きながらの指導を行っています。やはりみなさんにいい写真を撮って欲しいと考えた結果、そのようなスタイルになりました。
 こうしたことの積み重ねが、ネイチャーフォトの価値を高めていくことにつながると信じています。
 また、教室の生徒には、「写真を撮る」「カメラを持つ」ということだけでなく、「カメラを持っていない時にも、各自の意識を高めて、どういう写真を撮りたいかに思いを巡らせる」ことが大事だと、いつも言っています。

――現在はデジタルカメラの普及もあり、以前に比べ写真を誰でも気軽に撮れる環境になってきていますが?

 誰でも時間さえ割けば、いい写真を撮ることはできます。ただ、時間の割きがいのある活動をすることがとても大事です。そのためには常に自分の気持ちを、いろいろなものを発見できるような状態に置いておかないと、いいものと出合っても見過ごしてしまいます。
 そのためには、謙虚な気持ちでいること。1度だけ行って、いい写真が撮れなかったと嘆いているよりも、次はああしよう、その次はこうしようと考え、自分が気に入った被写体を深く掘り下げていく。その1回1回が勉強なので、どんな悪い条件でも糧にする、粘り強い姿勢で取り組むことが大事です。それができるかできないかで、アマチュアの方が写真を深く楽しめるかどうか、大きく差が出ると思います。
 このことは最初に申し上げた”写真の文化度“を上げることにもつながります。撮影をしていれば、いいことばかりではないので、悪条件も含めたトータルで、写真を楽しむ気持ちが必要だと思います。そのことに写真を撮る人が気づいていかないと、写真の価値は上がっていかないのではないかと考えます。

デジタル写真はもっと自由に発想できる。多彩な表現で作品の幅が広がる。

―ネイチャーフォトにも、デジタルカメラの普及とともに、若い方々が参加される割合が増えているようにも見受けられますが?


 銀塩のプリントにはフィルムに写った情報が正直に出ます。しかし、デジタルの場合はひとつの画像から彩度調節・コントラスト調節やゴミの消去からモノクロ表現まで、いろいろなアレンジをすることが可能です。
 ですからひとつの画像から、2通り3通りの良さが引き出せることを知ってもらいたいですね。もちろんコストはかかりますが、多彩な表現ができることを認識していただきたい。写真は英語で言うと”ピクチャー“=絵画なんだという考え方をアマチュアの方が持つことで、いろいろな広がりが生まれてくると思います。もっと自由に発想することからはじめると、デジタルプリントは、さらに深い表現ができると思います。ただ、ネイチャーフォトの分野に関しては、プリント表現をうまく行わないと、いい作品にはならないと思います。日本のネイチャーフォトカメラマンは、アマチュアの方でも目が肥えていますから、高い次元でデジタル表現を行う必要があります。キタムラさんでもこのようなデジタルを活かしたサービスを、お客様へ積極的に働きかけていくといいと思います。

――先生ご自身もデジタルカメラは、お使いになっているのですか?

 中判サイズのデジタルカメラがマミヤ・オーピーさんからもうすぐ発売されます。2千2百万画素で、前回のマミヤカメラクラブ撮影会で、デモ機を借りましたが、すぐにやみつきになってしまいました。4×5フィルムに匹敵する情報量です。国産のデジカメでは最高機種になるでしょう。デジタルとフィルム、今後は二本立てで活用したいと思います。デジタルにはデジタルの良さがあり、今後はソフトも含め、どんどん変わっていくと思います。
 しかしフィルムがなくなることはないでしょう。フィルムの良さというのは、もっともっと奥が深いものだと思います。その良さを伝えていくためにも、我々が使命感を持って、鑑賞の価値に堪えるものを発表していかなければならないと感じています。

――本日はお忙しいところを、ありがとうございました。


【アオモリトドマツの夕景】
■カメラ:ハッセルブラッド503CW レンズ:CF500mm F8 絞り:f16 シャッタースピード:1/8秒 フィルム:RVP100 撮影地:八甲田山麓(2月)
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