実は写真の知識や興味は全くなかったのです。ですから神様のいたずらとしか思えません。何で写真家になってしまったのか自分でも不思議なくらいなんです。18歳の時に秋田から上京したのですが、都会の生活に慣れていなかったので、休日になると電車やバスに乗って、知らないところで降りてみたりしていました。
そんな時、新鮮な魚介類が食べたくて偶然訪れたのが神奈川県の真鶴でした。真鶴に何度か通っているうち、ダイバーたちに出会いました。消火器のようなものを背負い、首からはカメラを提げている彼らの姿に驚いた私は、思わず質問攻めにしてしまいました。すると水中写真が売れることがわかり、そのような世界があって仕事として成り立っていることを知りました。その時、ひょっとしたら自分がやりたいことはこれではないかとひらめいたのです。ちょうど最初に勤めた会社を辞めて一年が経ち、自分にとって一生の仕事は何かということを、常に考えていた時でした。
自分が探し求めていたものはこれだと直感して、翌日にはニコノスと簡単な素潜りができる道具を買いました。貯めてあったお金があっという間になくなりました。当然、水中用フラッシュや空気ボンベは買えませんから、素潜りで潜っていました。それからは真鶴に通い続けました。
しかし、それまでカメラにはほとんど触ったことがありませんでした。同じ一から始めるのであれば、まだ誰もやっていない水中写真の世界で勝負してみようと思い、失敗を繰り返しながら勉強して、徐々に自分のものにしていきました。
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【オオイソバナとクロホシイシモチ】腔腸動物のオオイソバナが、白いポリプを全開にして、微少なプランクトンを待ち受けている。クロホシイチモチは木陰で休むかのようにじっとしている。
■カメラ:ニコンF3 レンズ:ニッコール55mmマクロ シャッタースピード:1/60秒 絞り:f11 RFP 撮影地:沖縄 |
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