スクープ写真で目覚めた報道写真の世界。
それがきっかけで独立へ。
――水中写真家と同時に報道写真家としての活動もされていますが、
そのことについてお聞かせください。


 報道写真に目覚めたのは、水中撮影プロダクションに入社して7年目のことでした。東京の奥多摩湖で起きた“一家六人行方不明事件”の捜索を、朝日新聞社から依頼されたのです。それは夫婦と幼い子供4人を乗せて行方不明になった車が、どうやら奥多摩湖に沈んでいるらしいということで、その車を水中で探し出して写真撮影する仕事でした。当時、この事件はかなり話題になっていましたので、現場は報道各社でごった返していました。そんな中で水中撮影のプロとしては、他社にスクープされることは許されませんでした。
 しかし、2回潜って捜索してみたものの、見つけることはできませんでした。ここで諦める訳にはいかないと、最後のチャンスと思い3回目にチャレンジしたところ、偶然にも足が何かに当たったのです。真っ暗な中での手探りでしたが、車のようなものがあることがわかりました。ナンバープレートを見つけて確認したら、行方不明になっている車のものだったのです。その写真はスクープとして翌日の朝刊に載りました。会社名と一緒に私の名前も出、このことが後々フリーになった時に役に立ちました。それ以降も、報道写真でスクープと呼ばれたものを撮ることにも何度か成功しました。


【サラダコーラル】小魚たちの格好の隠れ家となっているサラダコーラル。サンゴの仲間にしては、とても珍しい色調といえる。
■カメラ:ニコノスRS レンズ:フィッシュアイニッコール13mm シャッタースピード:1/60秒 絞り:f8 RVP100 撮影地:エジプト・紅海

 
 

【ハナビラクマノミとカクレエビの仲間】まん丸になってしまったイソギンチャクにとまどっているのか、カクレエビが顔をのぞかせた。透き通った体は可憐そのものだ。
■カメラ:ニコンF100 レンズ:シグマ20-40mm シャッタースピード:1/60秒 絞り:f11 RVP100 撮影地:パプアニューギニア

 

海の中はまだ知られていない未知の世界。
そこで仕事をしていることが誇りです。
――40年間、海に潜り続けられていますが、その魅力とはどのようなことなのでしょうか?

【エダサンゴ礁】潮流のおだやかな海域に、広範囲に広がるエダサンゴ。小魚や小動物たちのゆりかごである。
■カメラ:ニコノスRS レンズ:フィッシュアイニッコール13mm シャッタースピード:1/125秒 絞り:f5.6 RVP100 撮影地:沖縄


 現在、我々人間は何もかもを牛耳ってしまったと思いがちですが、とんでもない間違いです。海はまだ全体の2%しか解明されていません。ですから、まだまだ知られていない未知の世界なんです。そのようなところで仕事をしていることは楽しくもあり、自慢できることでもあります。40年間、海での仕事をして世界各地の海に潜りましたが、まだまだ知らないことだらけです。最も深いところは水深1万メートル以上あり、そこに我々は行くことができませんが、生き物たちはそんなところでも平気で住んでいるのです。そのことを思うと海の奥深さを感じます。

大自然の力を見せ付けられ、全てが嫌になり、
写真家を辞めようとしたことも。
――数々のハプニングに遭遇されているそうですが、奥尻島では北海道南西沖地震に遭われています。どのような状況だったのでしょうか?


 奥尻島ではちょうど10日間の撮影を終えた時でした。そのまま雲仙・普賢岳の撮影に行かなければならなかったので、奥尻島から長崎に全ての機材を送るつもりでした。送り出す手配をしていた夜に北海道南西沖地震が起きたのです。
 私は壊滅的な被害を受けた青苗地区に宿泊していました。100軒ほどの集落でしたが、津波の力は凄まじく、あらゆるものを一瞬にして破壊してしまいました。私もニコノスを除いた機材すべてを失いました。でも、一番ショックだったのは、大勢の地元の方が亡くなったことでした。何故、自分が助かって昨日まで元気に挨拶をかわしていた住民の方が亡くなってしまったのか。生と死について非常に考えさせられました。
 それまで海からはいろいろな恩恵を受けてきた私でしたが、この時はさすがに海に対して“それはないだろう”という恨みにも似た気持ちになりました。機材も流されてしまったので、もう写真家を辞めようと思いました。それから数ヶ月間は、『何で自分が生きているのか?』と、しばらく放心状態でした。やがて、気持ちが少し落ち着いてきた時に、“助かった”のではなく、“助けられた”のではないかと思うようになりました。『海は優しいだけじゃない。きれいなだけじゃない。時には猛威をふるうこともあるんだ。お前たち人間だって自然界の一部なんだ。それを今回は思い知らせてあげたんだ。お前にもう一度命を与えるから、その命が続く限りドキュメントの世界で、海そのものを記録に残して皆に伝えなさい』と、言われたように思えました。そうすると、助かったことに理由があると確信できました。それから再び、レンズ1本、水中眼鏡1個を買って写真を撮り始め、現在に至ります


【アヤコショウダイ】全員潮流に向かい、ぎゅうぎゅうに寄り添い、ほとんど静止した状態のアヤコショウダイたち。こうして外敵から身を守っている。
■カメラ:オリンパスE-300 レンズ:ズイコーデジタル22mm シャッタースピード:1/80秒 絞り:f7.1 撮影地:パプアニューギニア


 

 

 

 当サイトに掲載されている写真・テキスト等を無断で複製・転載することを禁じます。