種清豊のフォトコラムコラム・ギャラリー
2013.08.23【Vol.130】
戦前から1960年代にかけて数多くのカメラを世の中に送り出してきたドイツのカメラメーカーZeiss Ikon。35mmフィルム使用の最高級機であるContarexやContaxを筆頭にSuper Ikontaシリーズ Ikoflexシリーズなどフィルムフォーマットや形式の異なるカメラを同時にラインナップ。搭載するレンズは最高級と謳われ、そして価格もまた国産品に比べると手の届かない高嶺の花でもありました。ただそんなZeiss Ikonもすべての製品が超高級というわけではありません。高級機から機能を省いた低価格モデル、レンズ交換ができないモデルなども製品化されていました。とにかく戦前からたくさんのカメラがあり、今回ご紹介のTenax I,IIもZeiss Ikonが数多く作ったカメラの一つです。
Tenax I II 両者とも35mmフィルム使用のカメラで画面サイズは24x24、36枚撮りのフィルムでおよそ48枚撮影が可能でした。特徴的なのはフィルムの巻き上げ方法で、レンズ横に取り付けられたレバー(形状から招き猫とよばれる)を押し下げることで巻上げを行います。Tenaxが作られた1938年当時ではレバー巻き上げは珍しく、ボディー上部のノブで巻き上げることが一般的でした。少しでも巻上げを迅速かつテンポよく行う方法として考えられた結果かもしれません。戦後に登場するIkonetteというカメラも招き猫タイプの巻き上げ方法を採用していることから、機能的には問題なかったのでしょう。
ところでTenaxはI型とII型があります。発売されたのが1938年ですので約75年前のカメラです。現在II型と呼ばれている機種が実は先に発売され、I型は翌年1939年の発売です。I型から順番に発売していれば不思議な感じもしませんが、なぜ後から発売されたのにI型なのかと考えてしまいます。おそらくこれは順番を表す数字ではなく、あくまでも機能が高級のものを数字を上にするということなのでしょう。当時の高級機ContaxもIII型が露出計搭載、II型は非搭載と数字が多いほうが高級機でした。TenaxもII型がレンズ交換可能、距離計連動式、I型はレンズ固定の目測式でした。
第二次大戦の影響もあり民生用のカメラの製造は縮小されTenaxも1941~42年ごろには製造が中止されてしまいました。しかしTenax I型は戦後東ドイツで再び生産されます。かつての名称を使用することができなくなりTaxonaと名前の変更を余儀なくされましたが1953年ごろから1959年まで生産されました。現在ではそのコンパクトでかわいらしい形状から人気のあるるクラシックカメラの一つになっています。