富士フイルム XF18mmF1.4 R LM WR|開発担当者インタビューから新レンズを紐解く
はじめに
富士フイルムから新たな交換レンズ「XF18mmF1.4 R LM WR」が発表されました。Xマウントを採用しているAPS-Cフォーマットのミラーレス一眼カメラ、Xシリーズ向けの大口径広角単焦点レンズであり、徹底的に追求された解像性能が大きな特徴です。2020年10月15日に行われたライブイベント「X Summit OMIYA 2020」で開発がアナウンスされていた製品ですが、そこから約半年の期間を経て早くも製品化。発売日は2021年5月27日の予定です。
今回は先行して製品に触れる機会を特別に設けていただきましたので、開発担当者への取材内容も交えつつ製品をご紹介していきます。
最高クラスの解像力
XF18mmF1.4 R LM WRは製品名の通り、焦点距離18mm(35mm判換算:27mm相当)という広い画角と、開放F値1.4という明るさを持つ大口径単焦点レンズ。非球面レンズ3枚とEDレンズ1枚を含む9群15枚のレンズ構成を採用し、写りに悪影響となる収差を徹底的に除去することで優れた解像性能を実現しています。その解像力は同社「XFレンズ」の中でも最高クラスというほど。被写体の細部まで立体的に映し出すシャープな描写力はもちろん、星景写真などを美しく撮影できる高い点像再現性もこのレンズの特徴です。
優れた解像力に加え、開放F値1.4がもたらす美しいボケ味もXF18mmF1.4 R LM WRの魅力です。最短撮影距離20cm、レンズ先端から最短約11cmという近接撮影が可能であり、広い画角に映り込む背景をぼかして被写体が浮かび上がるようなクローズアップ写真が撮影できることでしょう。実際にカメラを構えてみても、拳一個分よりもさらに寄ることができ、遠近感を活かした印象的な画が撮影できそうです。被写体との距離が近いテーブルフォトでも活躍してくれますね。
開放F値1.4という大口径にこだわりの光学設計を詰め込んだレンズながら、質量370g・長さ75.6mmと携帯しやすいコンパクトなサイズにも注目です。X-T4やX-Pro3に装着してみても大きいとは感じることなく、ボディ重量とのバランスも非常に良い印象でした。フィルターサイズはØ62mm、同じF1.4のレンズである「XF16mmF1.4 R WR」はØ67mmですので、それよりも僅かに細身になっていることが分かります。
モデル名の「R」は絞りリングを表す文字。今回、絞りリングにはGFXシリーズ用のGFレンズで採用されている「Aポジションロック」が搭載されています。クリック感のある絞りリングを回してAポジションに入れるとロックされ、ボタンを押さないとリングが回らないようになります。XFレンズでは現在XF10-24mmF4 R OIS WRとXF27mmF2.8 R WRのみに採用されている機構です。
また、「LM」はリニアモーター搭載を意味します。フォーカス駆動にリニアモーターを使用したインナーフォーカス方式を採用することで、高速で静粛性に優れたAF性能を実現しています。実際にピントを合わせた際の駆動音も耳を澄まさないと聞こえないレベルで、動画撮影時もほぼ気にならないと思います。
そして、「WR」は過酷な環境下でも撮影できる防塵防滴機能を表します。X-T4やX-Pro3など防塵防滴機能を備えたカメラと組み合わせれば雨天でも安心して使用することができ、あらゆるシーンに持ち出せるタフネスさも備えています。
開発担当者インタビュー
今回は富士フイルム(株)イメージングソリューション事業部・商品企画グループ 統括マネージャーの上野氏にXF18mmF1.4 R LM WRについて伺いました。
― まずXF18mmF1.4 R LM WRの開発経緯やコンセプトをお聞かせください
もともと同じ焦点距離の「XF18mmF2 R」というレンズがありましたが、それとは全く異なる設計目標でスタートしています。XF18mmF2 Rを発売したのがもう10年近く前になりますから、そこから比べると信号処理やセンサーの性能などは大きく進化しており、現代にマッチしたレンズを作る必要がありました。さらには将来を見据えた時に、カメラが高画素化してもしっかり解像するレンズが求められるということで、解像性能を重視した光学設計にしています。
解像力を高めるに当たっては、色収差やコマ収差などレンズの収差を徹底的に取り除くということが一番の設計目標でした。非球面レンズを3枚使ってよりシャープネスを上げる。加えて、EDレンズによって色収差を取りにいく。徹底した収差除去を目的としてリッチな光学設計によって性能を追求したのです。それに伴うサイズや重量の増加はある程度許容しています。そうは言っても400gを下回っていますから、十分に軽いと言えるでしょう。これこそがAPS-Cフォーマットの特徴ですし、X-T4やX-S10と組み合わせても重量バランス的になんら問題のないサイズに仕上げています。
また、今回特に意識したのが星景写真です。星ってキレイに点で映ってほしいじゃないですか。ですが、一般的にサジタルコマ収差が残っていると、絞り解放の時に画面周辺を中心に光が流れてしまうような、光が尾を引いているような写りになって星景写真を撮る人からは嫌われてしまうんです。ここをしっかり点像で映るように収差補正設計をしています。他にも、被写体の輪郭に偽色が出るパープルフリンジもなるべく除去するようにしています。
― 大口径レンズに期待するボケ味はいかがでしょう
ボケももちろん重視しています。広角レンズだとパンフォーカスすることが多いと思っているかもしれませんが、このレンズは被写体に寄れますから、その分背景との距離が生まれるのでそこを美しくぼかせるよう考えて設計しています。非球面レンズを多く使うと、その弊害として玉ボケの中に年輪のようなラインが入る玉ねぎボケになってしまう。しかし、非球面の磨きをしっかり工夫することで年輪ボケもほぼ目立たないところまで仕上げています。寄れてかつボケ味も美しい、しかも絞り解放からしっかりとシャープというのがこのレンズの醍醐味です。
― 同じ焦点距離のXF18mmF2 Rとはどういった違いがありますか
サイズ自体が大きく違いますから、当然光学性能も変わってきます。F2の場合はやはり小さく作るということを最優先にしているので、例えば絞り解放での周辺の解像度は最初からある程度譲っていいという思想で作っています。その代わりパンケーキスタイルで軽く小さく撮ろうというコンセプトです。それに対して、今回のF1.4は解放から最高のシャープネスを提供するというコンセプト。焦点距離は同じですがハッキリ言って別のレンズと思っていただいた方がいいでしょうね。
― 購入時の比較対象となるであろうXF16mmF1.4 R WRと比べたときの違いはいかがですか
16mmF1.4ももちろん今でも一級の性能を持っています。ただ、今回は今後の進化を見据えた設計という部分が大きく違いますね。ボディの進化に対応できるよう、18mmF1.4は絞り解放での解像力が16mmF1.4よりも1~2ランク上の性能を実現しています。ただ焦点距離が2mm違えば表現できる画が変わってきますから、その点は好みに合わせて使い分ける感じでいいと思います。18mmで16mmっぽい画が撮れるのかといえばそうではないですからね。
― F1.4採用のXFレンズはいくつかありますが、それらとの違いはどこにありますか
焦点距離が変われば当然求めるものが違ってきますよね。例えば一番人気の「XF35mmF1.4 R」。あれば周辺までビンビンにシャープってわけではないんです。各レンズでMTF曲線を公開しているのでそれを見れば分かるかと思います。数値だけ見れば画質が悪いと思われるかもしれませんが、我々はそれがすべてじゃないと思っています。35mmF1.4独特の空気感やまろやかな写り、柔らかなボケがあるから人気がある。レンズの各キャラクターを分けていくのが大事かなと思っています。
その中で18mmF1.4はとにかく解像力、一番シャープな画をしっかり結ばせるという特長があります。というのも、18mmは実はXシリーズのズームレンズ7本の中に内包されている焦点距離なんですよね。多分フジユーザーならどれかは持っているであろう18-55mm、16-55mm、16-80mm、10-24mmこれ全部に18mmが入っている。なのにあえて単焦点で18mmを提供するからには、ズームの中でセットできるものと同じではダメですよね。F値が2段明るいってだけでも芸がありません。やっぱりボケの美しさや解像力、色収差の少なさがズームとは一味違いますよってところを提供して初めて価値が生まれると思うので、XF18mmF1.4 R LM WRはそこを重視しています。
― XFレンズは広角側が14・16・18mmと2mm刻みで用意されていますがどう選べばいいでしょう
実は広角側の2mmの違いは非常に大きく、たった2mmの差で全然違う画になると思います。作り手からしたら、広角レンズを1mm広げるだけでそこに求められる光学性能の難しさが格段に上がるんです。100mmを101mmにするのとはわけが違う。数値的にはたった2mmですが、画角の広がり方や背景のボケ感が大きく変わってきます。
そこに加え最短撮影距離が違ったり、サイズ・重量の違いでフットワークが変わったり、その辺が積み重なって撮れる画が変わってきます。例えば人物撮影でしたら、あまり広角すぎると歪むので使うにしても16mmまでがいいと思います。一方で、「XF14mmF2.8 R」はとにかく歪曲収差を光学補正だけでゼロに持って行ったレンズなので、街のスナップを撮った時に気持ちがいいほどビルがすっと立ってくれるんです。そういった写りを求めるなら14mmを持っていきますよね。
対して「XF16mmF1.4 R WR」はすごく寄れて、18mmF1.4ほどシャープネスを上げてないせいで若干柔らかい印象の画が撮れるんです。被写体に寄った広角マクロのような写真を撮るなら16mmを選ぶでしょう。このように、自身の撮りたいシーンによって使い分けていただければと思います。
まとめ
富士フイルムが次の世代を見据えて開発したという意欲作のXF18mmF1.4 R LM WR。徹底的にこだわったという解像性能によって、今までにはない画作りが期待できるのではないでしょうか。今この時を鮮明に切り取りたいという欲求に応えてくれる高性能レンズに仕上がっています。
特集ページ
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■更新
・2021年5月27日:製品発売に伴い、予約受付中の内容を差し替えました。