ミドルクラスのハイエンド機・星景写真の視点でニコン Z6IIIをレビュー

はじめに
Nikon Z6IIIは2024年夏に発売された、ニコンのミドルクラスに位置する機種。前機種Z6IIの後継の名を冠してはいますが、中身はかなり動画撮影寄りに機能をアップデートしたようなカメラとなりました。前機種よりも価格が上がったため、多機能な性能に魅力を感じつつも手を出せなかったユーザーは多いのではないでしょうか。今回は動画性能よりも写真性能、しかも星空撮影というピンポイントでの観点からZ6IIIをご紹介しようと思います。
正直な話、フレキシブルカラーピクチャーコントロールや、Nikon Imaging Cloudなどの画期的な機能が盛り込まれていてZ6IIIが高性能なのは間違いないのですが、Z6IIIが日本では非常に高価になってしまっただけに、付加価値よりも「他機種と比べて基本性能はどう違うの?」という疑問が多いように感じます。
特に高感度性能です。星空の撮影はすでにメジャーな被写体になっていると感じていますし、各社カメラの性能が拮抗する中、暗所での性能にフォーカスが当たるのは当然のことと言えるでしょう。今回は、私が星空撮影の観点でZ6IIIを使用した感想やデータをここで惜しみなく提供したいと思います。もしかしたら、ShaShaはじまって以来のガチレビューになるかもしれません・・・!?

星景写真を撮影するひとはこれを嫌って画像処理時に緑を抜くことが多いのだが、表現できる色が少ない星景写真の分野においては貴重な発色だと考えて、私はあえて残すように処理をしている。
■撮影機材:Nikon Z6III + NIKKOR Z 14-24mm f/2.8 S
■撮影環境:ISO8000 f2.8 SS13sec Photoshop CC
他機種との高感度性能比較
すごくマニアックな比較からスタートしようと思います。Z6III、Z8、Zf、Z6IIで高感度性能やダイナミックレンジがどう変わるのかを知りたくて比較してみました。部分積層がどうだとか動画性能がどうだとかはここでは対象外とします。最初に言っておきますが、このテストは各カメラの個性・傾向を知るためのもので、結果が悪くても「良い星景写真が撮れない」という意味ではないことをお伝えしておきます。
現在発売されているデジタル一眼カメラは、どれも星景写真を撮影するための基本水準を大幅にクリアしているものばかりなので、撮影者の腕次第なのは間違いありません。そんなこと言ってもやっぱりノイズは気になるわけで(笑) 、ここで検証してみようと思います。

検証時の撮影風景です。4台のカメラを同架して、なるべく同じ構図に調整し、同じ設定で可能な限り同じタイミングで撮影を行いました。
ここで検証したいのは高感度ノイズとダイナミックレンジです。ISO感度を高く設定するとノイズが増えますが、それがどの程度抑えられているのかを見ます。また、感度を上げるに従って失われるものがダイナミックレンジです。特にシャドーのシャープさが失われていきます。
高感度時にノイズが少なければいいよというわけではなく、高感度で撮影したときにディテールがちゃんと残っているのかがポイントです。ですので「高感度ノイズが少ないけどシャープじゃない」ということがないよう、高感度性能だけに着目するのは良くないことだと認識してください。しかしながら、両方とも良い結果になることは難しく「いい感じのノイズの少なさとダイナミックレンジ」というようなバランス感覚をメーカー側が提供してくれているのかどうか?に注目していただければと思います。
▼ISO6400

▼ISO12800

まずはISO感度6400、12800を比較してみましょう。一応Z8も撮りましたが、画素数が全く違うのでここでは参考程度でお願いします。これらの画像はRAWデータをPhotoshopに取り込んでレイアウトしたものをjpeg出力していますが、とりあえずの参考にはなるはず。
まずはハイライト・星空の部分を見てみると、Z6II>Z6III>Zfの順にノイズが少なくなっていくのがわかります。また、地上風景から空にはみ出た枝の部分を見てみると、同じくZ6II>Z6III>Zfの順でダイナミックレンジも低下しているのがわかります。Z8は高感度ノイズはあまり目立ちませんが、画素数が有利なのでしょうか、枝が非常にシャープですね。しかしながら負けじと枝がシャープに写っているのはZ6IIですね。
発色ついては細かい差ですが、Z6II・Zfが赤寄り。Z6III・Z8がグリーン寄りです。この辺りは画像処理をすすめていくうちに彩度アップなどをしたときに感じてくる差でしょう。私はどちらかと言えばグリーン寄りを好むのですが、赤寄りがダメだというわけではありません。
また、Zfのダイナミックレンジが良くないように見えますが、星景写真だと風景部分は暗いので多少ダイナミックレンジが低下してもノイズが少ないほうが良いという考えもあります。これはスタック処理などを用いずに一枚撮りを好むユーザーに喜ばれる仕様でしょう。
▼ISO6400

▼ISO12800

今度は風景部分を増やした構図にして、画像処理で真っ暗に写っている部分を明るく持ち上げた処理を施して比較します。これは画像処理耐性を検証するものです。
画像を見てみると、先ほどの傾向と大きく変わることはありませんが、ISO12800になるとどれも使い物にならない感じですが、Z8は画素数が多い分、グリーン被りも増えてより不利に見えますね。私自身、一枚撮りで表現する場合はISO6400~8000を使用することが多く、感度とダイナミックレンジのバランスがちょうど良くとれるのがそのあたりなのかなと感じています。ISO12800を使用して風景部分の多い星景写真を撮る際は、スタック処理をするなどの対策をしたほうがよいということだと思います。
検証結果
忘れてはいけません。今回はZ6IIIのレビューです!(笑) 検証結果から、Z6IIIは「ZfとZ6IIの間をとった高感度性能」という評価になると思います。じゃあダイナミックレンジが優れているZ6IIでいいじゃん!とか、高感度性能重視でZfでいいじゃん!という考えになるんですがそこがなかなか悩ましいところ。
写り以外の要素でZ6IIIのメリットをお伝えします。
スターライトビュー
「星景写真におすすめのカメラはなんですが?」と聞かれたら、私は「液晶ブーストが備わっているカメラ」と答えます。ニコンでそれに相当する機能がスターライトビューです。
星景写真は真っ暗な場所で撮影をすることが多いのですが、撮影前はカメラには何も映らないので、一度撮影をしてみないと正しく構図がセットされているか、水平はしっかりとれているか、余計なものは映っていないかを確認することはできません。そのため、一度撮影をして撮影画像を確認してから構図の微調整を行います。ひとつの構図を固めるのに何度も試写を繰り返し、5分10分かけて構図を決めるというのは茶飯事です。
ところが、スターライトビューがあると風景部分がブーストされ明るく表示されるので、試写しなくても構図合わせが決まります。10分かけていたものが一瞬で終わる、この作業短縮の威力は凄まじく、単純に撮れる写真が増えるというメリットが生まれます。これはZfには搭載されていますが、Z6IIにはありません。
レリーズが使える

これも星景撮影では非常に重要です。例えば星景タイムラプスを撮影する場合、カメラ内インターバル撮影機能を使うと露出10秒までは撮影間隔1秒、それ以上の露出は撮影間隔2秒のインターバルが必ず生まれます。例えば星景タイムラプスを撮影する際、露出13秒で撮影したいなら撮影設定を15秒にしなければなりません。1枚撮影するのに2秒の無駄な時間が生まれるのです。
ということはそのインターバルがなければ、7枚撮影すると1枚追加で撮影できる計算になり、150枚撮影したら20枚追加で撮影できることになります。1枚でも多く撮影したいタイムラプス撮影において、これはかなり大きいです。流星群の撮影であれば、インターバル2秒の間に流星が流れる可能性は大いにあります。
レリーズが使えれば「連写モードでレリーズロック」をすることで、最短のインターバルタイムで撮影することが可能になり、そういったロスを軽減することができるでしょう。また、タイムラプス撮影でスライダーやローテーターとの同期もできるようになります。これはZ6IIにはあって、Zfにはない機能です。
その他、良いと思ったところ
ファインダーが明るい!目を大事にしたい私は昼間にサングラスを極力使用するようにしています。Z6IIIのファインダーは明るく、サングラス越しでも使用できるので目の健康にはとてもありがたいです。
作例
ここまで理屈っぽいことばかりを説明してしまいましたが、最終的に大事なのは良い写真が撮れるかどうかです。Z6IIIで撮影した作例をご覧ください。

■撮影環境:ISO8000 f2.8 SS13sec Photoshop CC
■撮影地:岩手県久慈

■撮影環境:ISO8000 f2.8 SS10sec x 10枚 Sequator Photoshop CC
■撮影地:岩手県久慈

■撮影環境:ISO10000 f2.8 SS13sec(stackx22) Sequator Photoshop CC
■撮影地:奄美大島

■撮影環境:10秒 f/2.8 ISO 8000 16mm Sequator(stack 10 images) Photoshop CC
■撮影地:奄美大島

■撮影環境:14.5mm ISO10000 f2.8 SS8sec Photoshop CC
■撮影地:カナダ、イエローナイフ
まとめ
今回は触れませんでしたが、動画性能も拡張されており、このクラスで6K60Pのカメラ内RAW収録ができるというモンスターマシンでもあります。写真も動画も一台で済ませたいというニーズが高まっている中ではどハマりする機種なのは間違いないでしょう。
かなり濃厚なレビューになってしまった気がします。果たしてここまで細かいことが求められているかわかりませんが、Z6IIIが気になるけど値段が気になるという方の背中を押す記事になれば幸いです。
■写真家:成澤広幸
1980年5月31日生まれ。北海道留萌市出身。星空写真家・タイムラプスクリエイター。全国各地で星空撮影セミナーを多数開催。カメラ雑誌・webマガジンなどで執筆を担当。写真スタジオ、天体望遠鏡メーカーでの勤務の後、2020年4月に独立。動画撮影・編集技術を磨くべくYouTuberとしても活動している。
・著書「成澤広幸の星空撮影塾」「成澤広幸の星空撮影地105選」「プロが教えるタイムラプス撮影の教科書」「成澤広幸の星空撮影塾 決定版」「星空写真撮影ハンドブック」
・月刊「天文ガイド」にて「星空撮影QUCIKガイド」を連載中
・公益社団法人 日本写真家協会(JPS)正会員