ボケ味×描写 まるでズームできる単焦点レンズ ソニー FE 28-70mm F2 GM
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はじめに
ソニー FE 28-70mm F2 GMの発表を見た時に、ソニーからまたとんでもないレンズが登場したなと驚いたのを覚えている。すでにFE 24-70mm F2.8 GM IIを愛用していることもあり、この描写でもう一段明るければさらに便利なんだけど……と思っていたのでまさに自分が望んでいた様なレンズが登場したことになる。 ワイド端が24mmではなく28mmスタートで4mmだけ画角が狭くなっているが、仮にこのレンズが24mmスタートで設計されていたらサイズも重量も価格も今どころではなかっただろう。
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まず手に取って驚いたのはその軽さ。約918gと数字だけ見るとそれなりの重量には感じるが、実際に手に取ってみると想像以上に軽く感じる。「え?軽?!」と思わず声が出るほどだ。
よくよく考えてみるとこれだけのスペック&中身がぎっしり詰まったレンズで1Lの水より軽いのは凄いことだ。
鏡胴の太さと長さはスペックなりのサイズ感にはなっているが、小型なαシリーズのボディと組み合わせてもそこまでバランスが崩れていないのはその軽さが寄与しているのだろう。
今回は愛機のα1との組み合わせでいつものフィールドに持ち出して撮影を行った。
FE 28-70mm F2 GMとFE 24-70mm F2.8 GM II
私が普段使用しているFE 24-70mm F2.8 GM IIとサイズとの比較と、実際に24mmスタートと28mmスタートの違いなど簡単に比較してみた。
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まずは外観比較。やはり比較してみるとかなりサイズ感には差がある。そもそもFE 24-70mm F2.8 GM IIが他社と比較しても軽量コンパクトな設計なので、より顕著な差を感じてしまうかもしれない。FE 28-70mm F2 GMとFE 24-70mm F2.8 GM IIの両方をテレ端の70mmまで伸ばすとそこまで全長は変わらなくなる。レンズ全長よりも鏡胴の太さの方に差を大きく感じる結果だ。
フィルター径は86mm。この前玉を見ると鏡胴が太いのも納得だ。F2.0とF2.8には大きな壁があるのだろうと思わされる。フィルター径は大きくても82mmまでのことが多いのでフィルターワークメインの人は注意が必要だ。私は角形フィルターである程度揃えているので82mm以上フィルター径のレンズでも対応できる様にしている。
実際に撮影で気になるポイントはワイド端の4mmの差だろう。私も28mmだと少し狭く感じるかもしれないなと思いながら、私がよく撮影しているフィールドに出かけた。普段よく撮影している場所の方が新しい機材の差を実感しやすい。
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■撮影環境:f/8.0 1/40秒 ISO400 焦点距離 28mm
いつも撮影している地元の森へと撮影に向かった。普段であれば24mmで撮影することも多いが28mmスタートのレンズなのでいつもよりもう一歩寄った画角で景色を観察して撮影した。
24mmと28mmとでは約一回りほど画角が違う。24mmスタートの標準ズームが一般的になってきたので28mmだと狭いのでは?と感じる人もいるかもしれないが、28mmでも十分に広角らしい画角を楽しむことができる。
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■撮影環境:f/8.0 1/30秒 ISO400 焦点距離 70mm
同じ立ち位置からテレ端の70mmまでズームして撮影。F8.0まで絞っているので中央から周辺まで均一な描写。α1の5000万画素との相性も最高に良い。
画角の違いと合わせてFE 28-70mm F2 GMとFE 24-70mm F2.8 GM IIの解像感や被写界深度の差も紹介する。特に被写界深度の差がでるテレ端の70mm側の開放で撮り比べているので参考にしていただければと思う。一絞り程度ならそこまで劇的な差はないのでは?と思う方もいるかもしれないが、この一絞りが大きな差を生む。被写界深度もそうだが撮影時の露出にも大きな差が生じる。
FE 28-70mm F2 GMとFE 24-70mm F2.8 GM IIのテレ端70mmの開放で被写界深度の比較。一絞りの差でかなり背景のディテールに差が出ているのがわかる。F2.8でも十分ボケているがF2.0のボケ量を見た後だと物足りない人も出てくるかもしれない。
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開放の解像感比較。どちらもMFで厳密にピントを合わせての撮影。驚いたことにFE 28-70mm F2 GMの方が開放からしっかり解像している。FE 24-70mm F2.8 GM IIも十分過ぎるほど解像しているのでFE 28-70mm F2 GMが写りすぎな気もする。F2.0は被写界深度が極端に浅くなるのでピント合わせが重要になるのと、どこまでピントを合わせたいのかを考えて適切なF値を設定することが重要だ。
最短に近い距離で撮影。被写体との距離が近いので被写界深度は必然的に浅くなる。このシーンでもF2.0とF2.8とでは背景のディテールにかなり差を感じる。
これからのスタンダード?F2.0の標準ズームレンズ
FE 28-70mm F2 GMは開放F2.0なので使わなくては勿体無い……と思ってしまうが、撮影イメージに合わせて適切なF値を選択することが一番重要だ。私の考え方としては「いざとなればF2.0が使える標準ズーム」を使っていると思う様にしている。
F2.8よりもさらに一段明るく撮影できるということはISO1600のところをISO800で撮影でき、シャッタースピード1/30秒のところを1/60秒で撮影できる安心感を得ることができる。特に被写体ぶれを抑えたい時の一絞りの差はかなり大きい。
同じシーンでシャッタースピードを変えて水流の表現に変化を加えた。一つはF値開放で露出を稼ぎ水の飛沫を止めた。もう一枚はF値を絞り込んでスローシャッターにして水流を抽象化して水の流れを表現。スローシャッターは開放F値が暗いレンズでも簡単に撮影できるが、シャッタースピードを早くするにはF値の明るいレンズで撮影するかISOを上げる必要がある。
F値の自由度が高いと表現の自由度も必然的に高まる。
大口径レンズは被写界深度の浅さに注目されがちだが露出を稼ぐという意味でもメリットがかなり高いので、そういった目線でレンズラインナップを考えてみるのもいいだろう。私の様に普段は風景をパンフォーカスで撮影する事がメインの写真家でもF2.0まで開けられることで被写体ブレを抑えるためや水飛沫を表現したいシーン、そして大口径の醍醐味の背景を抽象化して被写体をより強調したいシーンでは積極的に使用したい。
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■撮影環境:f/11.0 1/40秒 ISO400 焦点距離 28mm
F11まで絞ってのパンフォーカス撮影。大口径レンズは開けてよし、絞ってよしなので表現力がかなり高い。風景写真でも大活躍してくれるレンズなのは間違いない。
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■撮影環境:f/2.0 1/500秒 ISO200 焦点距離 70mm
テレ端70mm、開放F2.0で撮影。開放から驚くほどシャープな写りに驚かされる。F2.0の被写界深度の浅さに単焦点レンズで撮影している様な錯覚に陥る。
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■撮影環境:f/2.0 1/250秒 ISO100 焦点距離 37mm
F2.0まで開けられると光量が少ないシーンでも露出を稼ぎやすい。多少暗くてもF2.0まで開けるとISO100でも十分撮影でき、ボディ内手ぶれ補正搭載のカメラであればさらに安心だ。
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■撮影環境:f/2.0 1/500秒 ISO200 焦点距離 70mm
開放で撮影する事で柔らかい前ボケを作り、奥に見える紅葉した葉を主役にして引き立てた。
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■撮影環境:f/2.0 1/250秒 ISO100 焦点距離 28mm
ボケを作るのが難しい広角でもF2.0まで開けると十分なボケを楽しむことができる。テレ端の様な大きなボケを作るのは難しいがこれが「標準ズームレンズ」であることを忘れてはいけない。F2.8では味わえないこの前後のボケは積極的に開放F値で撮りたくなってしまう魅力がある。
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■撮影環境:f/2.0 1/250秒 ISO100 焦点距離 28mm
奥の紅葉にピントを合わせて撮影。手前の木々がほのかにボケることで広角でも十分な奥行きが演出できた。
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■撮影環境:f/2.0 1/1000秒 ISO200 焦点距離 70mm
ズームレンズでの撮影だが単焦点で撮影している様な錯覚に陥る。単純に被写界深度の浅さだけではなく抜けの良さや解像感などズームレンズの描写を超越している。
ミラーレスが主流になってレンズ設計の自由度も高まり、今までにない標準ズームが数多く登場している。FE 28-70mm F2 GMも例外ではなくミラーレスの恩恵から生まれた一本だろう。スペックを見た限りではF2.0が使えるといっても実際には一絞り絞ったF2.8が実用的な画質なのでは?と思っている部分もあったが、実際にはF2.0から解像感はピークに達していて開放F2.0であるという意味があるレンズに仕上がっている。愛用しているα1は5000万画素だが5000万画素でも余裕を感じる描写なので、6100万画素のα7R Vでも余裕の写りだろうと使わなくても容易に想像がつく。
エントリー機もどんどん高画素化していてレンズに求められる性能も上がっているため、フラグシップ機でも余裕のあるレンズ設計でないとレンズを資産として考えられない時代になっているのかもしれない。現状でも写真を楽しむにはオーバースペックに感じているほど高性能なカメラとレンズがラインナップされているが進化はまだまだ止まらなそうだ。
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■撮影環境:f/2.0 1/1000秒 ISO400 焦点距離 28mm
ワイド端での撮影なので被写界深度は深い方だが、それでもしっかりピントを合わせていないとパッと見ピンボケに感じてしまう可能性がある。F2.0の標準ズームレンズを常用するにはカメラに求められるAFの精度も必然的に高まる。
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■撮影環境:f/8.0 1/25秒 ISO100 焦点距離 28mm
F8.0まで絞ってパンフォーカス撮影。F8.0まで絞るとF2.0のレンズを使う恩恵はなさそうに感じるが、開放からしっかり写る設計なのでF8.0まで絞ると凄まじい解像感。後から等倍で見返すのが楽しくなるほどよく写っている。大きく引き伸ばしてプリントしたくなってくる。
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■撮影環境:f/11 1/60秒 ISO800 焦点距離 28mm
水面に映った紅葉の写り込みを撮影。開放で撮っても絞って撮ってもいい意味で変わらないのはこのレンズの強みだ。EVFでもその写りの良さが伝わってくるので撮影が楽しくなる。
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■撮影環境:f/8.0 1/30秒 ISO100 焦点距離 28mm
24mmに慣れていると28mmは狭く感じるかもしれないが、28mmなりの画角で撮影対象を決めて構図を決めることでいつもとは違った仕上がりになるはずだ。私自身も24mmをメインで使うことが多いので28mmで撮影することでいつもと少し雰囲気の違う撮影体験ができている。
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■撮影環境:f/2.0 1/800秒 ISO200 焦点距離 70mm
撮影倍率が0.23倍なので落ち葉や植物の葉ほどのサイズ感の被写体であればアップで撮影可能だ。寄る事でさらに被写界深度も浅くなるので主題を引き立てやすい。
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■撮影環境:f/2.0 1/800秒 ISO200 焦点距離 70mm
F2.0はピントが浅いがピントは面でくるので平面の被写体であれば被写体はくっきり、背景は大きくぼかしての撮影が可能だ。被写体の向きなども考えてF値やピントの位置を考えて撮影すると表現の幅も広がる。
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■撮影環境:f/11 1/30秒 ISO800 焦点距離 34mm
周辺まで流れる事なくしっかりと描写してくれるので画面全体を被写体で埋め尽くしたくなる。
日常使い
FE 28-70mm F2 GMを日常のスナップでも使ってみた。多少大ぶりな機材にはなるが、複数の単焦点を持ち歩いているような感覚なのでFE 28-70mm F2 GMが1本あれば結果的に荷物も減らせてしまうメリットがある。特にレンズ交換せずにF2.0のレンズ群を使えると思えばかなりのメリットを感じる。代表的な焦点距離で言えば28mm/F2.0、35mm/F2.0、40mm/F2.0、50mm/F2.0、65mm/F2.0、70mm/F2.0あたりのF2.0の単焦点を持ち歩いているのと変わらないのは単純に強い。
α1と組み合わせて町歩きをしながら気になったものをスナップ感覚で撮影。普段であればパンフォーカスで撮影をする様なシーンも積極的に絞り開放で撮影してみた。単純に写りの良さは撮影のモチベーションが上がるのでシャッターを切る枚数も必然的に増える。
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■撮影環境:f/2.0 1/800秒 ISO100 焦点距離 28mm
日常の何気ない景色もいい雰囲気に仕上げてくれる。それがレンズの力であることは間違いない。写真を撮る上でカメラももちろん大切だが私はレンズの方がより重要だと考えている。
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■撮影環境:f/2.0 1/6400秒 ISO100 焦点距離 70mm
町を歩いて目に止まったものをストレートに写す。FE 28-70mm F2 GMは何気ない瞬間をより良いものに昇華させてくれる魅力がある。
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■撮影環境:f/2.0 1/1250秒 ISO100 焦点距離 70mm
普段はここまで被写界深度の浅い写真を撮ることは少ない。F2.0まで開けられるならと思い積極的に開放で撮影をしてみた結果、いつもの自分とは違う視点で景色を切り取っている。
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■撮影環境:f/2.0 1/40秒 ISO800 焦点距離 70mm
飲食店で撮影したデザートの写真。F2.0で撮る必要もなかったがせっかくならと開放で撮影。写りの良さと空気感に「これってズームレンズなんだよね……?」と思いながら撮影していた。
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■撮影環境:f/2.0 1/800秒 ISO200 焦点距離 70mm
出先で開催していた芋旅というイベントで撮影したコラボフードを撮影。クセのない素直な写りなので色々なものを撮りたくなってくる。まさにジャンルを選ばないレンズだ。
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■撮影環境:f/4.0 1/80秒 ISO3200 焦点距離 70mm
私の地元岡山県のご当地ラーメンの「とんかつラーメン」。ワーキングディスタンスが短いのでテーブルの上の料理の撮影も楽々。
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■撮影環境:f/2.0 1/50秒 ISO400 焦点距離 70mm
ピントが合っている部分は恐ろしくシャープでボケは非常に滑らか。お互いに両立できているのがこのレンズの最大の魅力だ。
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■撮影環境:f/2.0 1/1000秒 ISO200 焦点距離 70mm
紅茶の抽出を待つ時間にいい光だなと思いシャッターを切った一枚。現物を感じられそうなリアルな写り。
まとめ
FE 28-70mm F2 GMはラインナップされているレンズの中でも最上級の写りと性能を有している。手軽に買えるレンズというわけではないが間違いなく「資産」としての価値があるレンズであり、カメラの描写性能を最大限に引き出してくれる。私自身、α1発売当初からのユーザーでありメインで使用している標準ズームがFE 24-70mm F2.8 GM IIなので、FE 28-70mm F2 GMは非常に悩ましい選択肢になっている。特に24mmとF2.0のトレードオフは非常に悩ましく、これは撮影者のスタイルに大きく依存する。今回FE 28-70mm F2 GMで撮影した写真を見返してみるとワイド端よりもテレ端で撮影したものが多く、その辺りも判断材料になってくる。FE 28-70mm F2 GMの28mmスタートで悩んでいる人も一度自分がよく使用している焦点距離を振り返ってみるのもいいだろう。
少し前までは夢でしかなかった様なスペックのレンズが次々と登場している。FE 28-70mm F2 GMはその夢の様なレンズのひとつであり、今後このレンズをきっかけにさらに驚愕なスペックのレンズもどんどんラインナップされていくのだろう。そう感じさせてくれる一本だ。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。