風景写真をビフォー・アフターで学ぶ|その4:紅葉編
はじめに
「風景写真をビフォー・アフターで学ぶ」シリーズの第4弾。誰もが大好きな被写体、華やかな紅葉編をお届けします。このシリーズでは完成された写真だけでなく未完成の写真もご覧いただくことで、どのような工夫や思考回路を経て作品に仕上げていくのかをご紹介したいと思います。
日本の紅葉
南北に長い日本では紅葉する時期が地域によってさまざまで、桜前線のように錦秋を追いかけて日本全国旅することができます。9月下旬頃には北海道や東北、信州の山岳地帯が色づき始め、標高の低い平地や九州では12月頃まで楽しむことができます。
紅葉が綺麗に色づく条件は「日光がよく当たること」、「適度な湿度があること」、「秋に寒暖差が大きいこと」の3つがあると言われています。それゆえに、日の当たる川沿いや湖畔において紅葉の名所が多いようです。私の主なフィールドである長野周辺でも紅葉が進んでおり、今年は比較的色合いもよく、色とりどりの紅葉が入り混じる山々の姿は圧巻です。
年に一度の心躍る紅葉。一期一会の美しい風景をぜひ作品に仕上げたいものです。これからお伝えするテクニックが撮影のヒントとなれば嬉しく思います。
紅葉撮影6つのアイディア
紅葉の撮影現場では「あまりに綺麗で、どこをどう切り取ったらわからない」と言う声がよく聞こえてきます。雄大で色とりどりの紅葉を目にしたとき、目の前の全ての要素を構図に入れたくなることでしょう。そのような時は全体を一枚撮って、感動を心に留めておきましょう。その次に風景の見どころを分解して撮影していきます。
例えば、真っ赤なモミジがあるなら、それを主役に見立てて構図してみましょう。黄葉が美しい木立があるなら、黄色だけで画面をシックにまとめてみましょう。美しい紅葉の時期は、アイディアやレンズワーク次第で無数の切り取り方があります。
今日は紅葉撮影に活用できる6つのテクニックを、工夫前のビフォーと工夫後のアフターの写真を用いてご紹介したいと思います。
ビフォー・アフター
前ボケで華やかな彩りを添える
シラカバの白い幹が美しく、黄色い葉を主役にして撮影しました。しかし、シラカバの幹の存在感が強く、肝心な葉の彩りが目立ちません。また、葉の密度感が少ないため、少し寂し気な印象を受けてしまいます。そこで、もっと秋の華やかな彩りをプラスしたいと考えました。
手前にあった別のシラカバの葉を前ボケにして、撮影してみました。レンズからピントを合わせている木までが約5m、前ボケにしている木まで約50cmほどの距離感です。
絞り値は開放F値のF2.8で撮影。前ボケにする葉がレンズに近いほど、ボケ味が大きくなります。前ボケが大きすぎて葉の丸い形が見えなくなってしまう場合は、絞り値をF4やF5.6などに少し絞ることで、前ボケの形が徐々に現れてきます。逆に前ボケの形が固く強い印象で見え過ぎてしまうなら、前ボケにする葉にレンズをさらに近づけることで、よりふんわりとした前ボケを描くことができます。
ここでは背景に見える緑色に黄色い前ボケを重ねて、なるべく暖色系の色で画面を埋め尽くすように立ち位置を工夫しています。そうすることで秋の華やかさを演出しました。また、ピントを合わせる被写体が前ボケの隙間から見えるように、立ち位置を吟味して構図を整えることが大切です。
時間帯を変えて同じ場所へ行く
上の写真は、夕日が人気のスポットで撮影しました。オレンジ色の夕日の輝きが紅葉を照らし、一層鮮烈な彩りを演出しています。逆光方向で撮影しているため、太陽が当たるところは眩しく輝いていますが、日陰になった部分は暗くシルエットになっています。
夕日を撮影した翌朝、同じ場所で撮影しました。夕日を撮影したときは逆光方向だったので、朝方は順光方向の光線状況になります。逆光では暗くシルエットになって見えなかった山肌に、美しい紅葉の彩りが見えていました。順光方向で捉えるとより繊細な紅葉の色合いに気がつきます。
夕日のスポットでも夕暮れの時間帯だけが魅力的とは限りませんので、時間帯を変えて通うことが大事です。天気や光の状況によって被写体の新たな魅力に気が付いたり、撮影しづらいと感じていた場所で自分の絵が見えてきたりすることがあります。
撮影で訪れた場所が見事な紅葉だった場合、ぜひ一度だけでなく時間帯を変えて訪れてみてください。
木々をアクセントに紅葉を狙う
美しい紅葉の山肌や森林に感動してカメラを向けたことがあるでしょう。しかし写真に撮ってみると、何だか取り留めのない印象になってしまいがちです。こちらも色とりどりの紅葉に魅了されて撮影したものですが、いまいち何を伝えたいのかわからない写真になりました。主役は紅葉した赤色や黄色の葉ですが、脇役である木の幹の配置が雑で、両サイドには中途半端に木が写っています。
ここでのポイントは「脇役である木の幹を丁寧に配置すること」です。右上から左下への対角線を意識して、三本の木の幹を配置しました。両サイドに中途半端に見える木は構図から外し、華やかな紅葉で埋めるようにしています。
このように美しい紅葉の山肌や森林を狙うときは、木の幹の配置に注意を払いましょう。また、木の幹だけでなく、針葉樹の配置も重要です。暖色系の紅葉の中に針葉樹がある場合はとても目立ちますので、あえて構図のアクセントにすることで、リズム感や奥行きを演出することができます。
また、紅葉している葉の精細な描写も魅力的なシーンですので、絞り込みすぎず、F8~11くらいでパンフォーカスすることで見応えのある作品になります。
秋の雲を味方に付ける
雲一つない晴れ渡った秋晴れが気持ちいいですが、撮影する者としては少し雲がほしいところ。快晴の日には秋らしいすじ雲が現れます。天気が崩れる数日前に見られるのは、うろこ雲やひつじ雲など。秋は雲の種類も豊富ですので、ぜひ構図の味方につけましょう。
こちらは空を観察し、左から雲が流れてくることを予測して待ってから撮影したものです。青空を構図に入れて撮影するときは、ぜひ周りを見渡して、雲の流れを把握しましょう。また、ときどき空を見上げて、形のよい雲がないかチェックすることも大切です。魅力的な雲を発見したら紅葉の名脇役になるチャンスですので、素早く構図を整えて撮影します。
上の写真は雲を待って撮影したので三脚を使用していますが、雲を見つけて撮影に挑むときは、フットワークを活かした手持ち撮影がおすすめです。標準や広角レンズを使って立ち位置を微調整しながら、瞬時に雲を捉えましょう。
PLフィルターの効果に気をつける
晴れた日の紅葉撮影では、PLフィルターが大活躍します。紅葉の美しい色を狙うため順光方向で遠くの山肌を狙うと、葉が反射して全体的に白っぽく見えてしまいます。PLフィルターを装着することで、白い反射を抑えて葉の色を引き出すことができます。特に笹などの固い葉はテカリやすいので、PLフィルターが効果的です。
上の写真はPLフィルターを装着せずに撮影したものです。紅葉のピークのタイミングでしたが、少し枯れたような印象を与えてしまっています。
PLフィルターを装着して、ぐるりと回して効果を最大にして撮影しました。葉の白い反射を最大に削除しているため紅葉の彩りは鮮やかに引き出されましたが、立体感が失われてベタっとした印象になっています。
紅葉の色を出したいあまりにPLフィルターの効果を最大にしがちですが、風景を撮影する時は不自然な印象になりますので、効果を戻して白い反射を少し残すように心掛けましょう。
先ほど撮影した状態から、PLフィルターの効果を少し弱めて撮影しました。PLフィルターの「効果なし」と「効果最大」の中間ぐらいに調整し、あえて白い反射を少し残しています。そうすることで、自然風景らしいナチュラルな印象に仕上げることができました。
もし彩りをもっと強調したい場合はPLフィルターの効果を強めるのではなく、RAW現像で後から少し彩度をプラスすることで、立体感と彩やかさが両立した作品に仕上がるでしょう。
画作りモードを活用する
画作りモードとは、各カメラメーカーが作成した色やコントラストなど独自のプロファイルのことです。プロファイルは例えると「化粧」のようなもの。「すっぴん」のRAWデータに、プロファイルで「化粧」をする、と例えるとわかりやすいでしょうか。化粧の仕方がたくさんあるように、プロファイルの種類もさまざまです。JPEGデータはそれぞれのメーカーの化粧、すなわちプロファイルを施した画像となっています。
プロファイルについて、ソニーはクリエイティブルック(クリエイティブスタイル)、富士フイルムはフィルムシミュレーション、キヤノンはピクチャースタイル、ニコンはピクチャーコントロール、OM SYSTEMSはピクチャーモードなどと呼ばれ、さまざまな種類が用意されています。風景写真を撮影するときは「風景」や「スタンダード」を選ぶことが多いでしょう。
しかし、場合によって画作りモードを変更することで、自分がイメージする色や雰囲気に近づけることができます。
上の写真は、普段よく使用しているソニーのクリエイティブルック「ST」で撮影したものです。被写体を見つけたときにどこか寂しい印象を感じていたので、その心情を表現したいと思って撮影しました。主役の赤い紅葉を取り囲む少し枯れた葉や枝ぶりに侘しさを感じていたのですが、上の写真では緑色が生き生きと表現されてコントラストも強く明るい印象に仕上がっています。
上の写真は、クリエイティブルックを「IN」に変更して撮影しました。最初から「IN」が自分のイメージにマッチすると想定して変更したのではなく、液晶モニターを見ながらさまざまなクリエイティブルックを当ててみて、最終的に「IN」がしっくりくると判断しました。「IN」に変更した後に露出をアンダーに設定しています。そうすることでしっとりと落ち着いた緑色になり、コントラストが抑えられて紅葉の彩りもシックな印象に仕上がりました。私が被写体から感じた寂しいイメージを見事に再現できました。
撮影していて、ギラギラとした印象やぼんやり眠たい印象を受けたときなどに、プロファイルを変更すると自分の頭の中のイメージに近づけることができます。また詫び寂びなどを感じるシーンでは、一般的な「風景」や「スタンダード」以外のプロファイルがしっくりくることがよくあります。
RAW現像する際は、撮影したときのプロファイルを最初に設定して現像をスタートすると、自分のイメージしているゴールに短い距離で到達することができるでしょう。
まとめ
紅葉は目には美しいけれど、作品に仕上げるのは難しいと考えている方も多いかと思います。色とりどりの美しさに圧倒されてしまいますが、主役と脇役を明確にし、構図を整えることで無限に切り取りができるのが紅葉撮影の醍醐味です。
もちろん美しい風景に酔いしれる時間も大切です。感動する気持ちを大切にしながら、カメラに向かうときは冷静な気持ちで被写体に向き合うことが、作品づくりにとって重要な姿勢です。
まだまだ長い紅葉シーズンを楽しみ尽くせるように、撮影の6つのアイディアがお役に立てることを願っています。最後までご覧いただきありがとうございました。
■写真家:萩原れいこ
沖縄県出身。学生時代にカメラ片手に海外を放浪。後に日本の風景写真に魅了されていく。隔月刊「風景写真」の若手風景写真家育成プロジェクトにより、志賀高原 石の湯ロッジでの写真修行を経て独立。志賀高原や嬬恋村、沖縄県をメインフィールドとして活動中。撮影のほか、写真誌への寄稿、セミナーや撮影会講師等も行う。個展「Heart of Nature」、「Baby’s~森の赤ちゃん~」を全国各地にて開催。著書は写真集「Heart of Nature」(風景写真出版)、「風景写真まるわかり教室」(玄光社)、「美しい風景写真のマイルール」(インプレス)、「極上の風景写真フィルターブック」(日本写真企画)など。