タムロン 50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD × 写真家 木村琢磨
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はじめに
標準ズームと望遠ズーム、どちらを組み合わせて撮影するか非常に悩ましい。特に、望遠ズームを使っている時にもう少しだけ広角で撮影できたら……と思うことも少なくない。望遠ズームと言えば70−200mmや70−300mmなど70mmスタートのものが多く、望遠ズームを使っている時に限ってもう少し広い画角で撮りたいと思うものだ。
今回タムロンから発売された望遠ズーム「50-300mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」は50mmスタートの望遠ズームであり、過去にタムロンから50−400mmの望遠ズームが発売済みだが今回は望遠側を300mmに抑えより軽量・コンパクトに仕上げたレンズとなっている。広角側が70mmと50mmの差はかなり大きく、50mmが使えることで「標準が使える望遠ズーム」であり「望遠が使える標準ズーム」とも言える一本に仕上がっている。
今回は全カット高画素機のSONY α7R Vと組み合わせて撮影をしている。仕事で遠征した際に持ち出して撮影しているが、思った以上にコンパクトな組み合わせだったのでカメラバッグの空いたスペースにピッタリ収納できた。
SONY α7R Vとの組み合わせ
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α7R Vとの組み合わせ。ややフロントヘビーになる組み合わせではあるが、50mm-300mmをカバーしているレンズとしてはコンパクト。フルサイズ対応で70−300mmの望遠ズームだと最低でも700g、重たいものだと800gを超えるものもあるが、こちらは50mmスタートにも関わらず665gと軽量なので標準ズームにもう一本という時にもちょうどいい。
私の場合は24−70mm+70−300mmのように焦点距離の繋ぎが70mmピッタリよりも24−70mm+50−300mmのように焦点距離に余裕がある方が好きだ。案外この70mmを境に焦点距離で迷う事が多かったりもするので50mmスタートのありがたみは計り知れない。
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テレ端300mmまで伸ばした状態だと流石にそれなりの長さになる。テレ端での開放F値はF6.3。タムロン独自の手ブレ補正機構VCを搭載しているので300mmでの撮影でもフレーミングは安定しており、スローシャッターでも手ブレがかなり抑えられる。
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■撮影環境:f/8.0 1/5秒 ISO6400 焦点距離50mm
仕事で東京遠征した際に宿泊したホテルから見えた夜景。窓から見えた景色を「標準画角」で撮影する事ができた。手ぶれ補正のおかげで三脚を使う事なく手持ちで撮影できた。
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■撮影環境:f/8.0 1/6秒 ISO6400 焦点距離300mm
先ほどと同じ位置からそのままテレ端300mmまでズームして撮影。300mmでシャッタースピード1/6秒でもバッチリ撮影できた。F値は開放から少し絞ってF8.0で撮影。開放で撮影するよりもさらに解像感が増している。
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■撮影環境:f/8.0 1/5秒 ISO3200 焦点距離 50mm
宿泊先のホテルの窓から東京タワーが頭を覗かせている景色を見る事ができた。50mmで撮影する事で「広角っぽい」一枚を撮影できた。
50mmが使える=標準レンズとして使う事ができるので、「あっ」と思った瞬間・景色をスナップ感覚で撮影する事ができる。70mmと50mmとでは切り取り方は全く変わってくるし、景色の見方から変わってくる。
今回組みわせたSONY α7R Vはちょうどいい組みわせだなと思っており、その理由は高画素を活かしたクロップ撮影が可能だという事。6100万画素あるのでAPS-Cモードで撮影しても約2620万画素として記録する事ができるので、α7R Vと組み合わせる事で50−300mmのレンズでもあり、35ミリ判換算で75-450mmのレンズとしても使用可能だ。クロップ撮影なのでF値はそのまま、テレコンバーターを使って撮影するよりも使い勝手が良いだろう。FnボタンにAPS-Cモードを登録しておくことで、ワンタッチで画角の調整が可能となる。
思うままに撮影する(その一)
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■撮影環境:f/11 1/125秒 ISO100 焦点距離 300mm
岡山から東京に向かう途中で撮影。運転中に「おっ?」と目をひく景色だったのでSAに車を止めて撮影。300mmまでズームして画面いっぱいに景色を詰め込んだ。
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■撮影環境:f/11 1/125秒 ISO100 焦点距離 300mm(APS-Cモード 換算450mm)
FnボタンにAPS-Cモードを登録しておく事で、ボタンひとつでファインダーを覗きながら300mm→450mmまで焦点距離を伸ばす事ができる。同じ景色でも300mmと450mmとでは印象が随分と変わる。
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■撮影環境:f/11 1/250秒 ISO100 焦点距離 300mm
街中を歩いている時に飛行機を見つけたので急いでレンズを向けた。望遠の単焦点は使い慣れていないと被写体を捉える事が難しいが、50mmスタートのズームレンズだと50mmで被写体を探してそのまま300mmまでズームして撮影という事が可能だ。
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■撮影環境:f/11 1/250秒 ISO100 焦点距離 300mm(APS-Cモード 換算450mm)
APS-Cモードにして450mmで撮影。焦点距離を変える事で撮影時のイメージも大きく変わる。AFも俊敏で正確なので初めての望遠レンズにちょうどいいかもしれない。
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■撮影環境:f/11 1/250秒 ISO100 焦点距離 50mm
気になったらレンズを向ける、その景色がピッタリ画角に収まる、その気持ちよさを体験する事ができるレンズだ。改めて50mmは景色を切り取るのにちょうどいい画角だと実感。
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■撮影環境:f/11 1/250秒 ISO100 焦点距離 300mm
同じ立ち位置で300mmまでズームして撮影。ズーミングで標準画角から望遠に切り替える時のシームレスな画角の変化が楽しい。初めて望遠レンズを使った時に望遠鏡のようにいろいろな景色を眺めていた頃を思い出した。
東京にいると普段はあまり撮影しないスナップ撮影をしたくなる。色々な造形のビルやランドマーク、街中で力強く生きている植物。いろいろなものに目が行く。ネイチャーを撮影するときは24mm~50mmを使う事が多いが、東京で撮影していると24mmはちょっと広いな……50mmくらいがちょうど収まりがいいなと思う事が多かった。50mmは不思議な焦点距離で、他の焦点距離と比べて「割り切って撮影できる」焦点距離だと思っている。50mmで入りきらなったら仕方がないな、広すぎても50mmだから仕方がないなと思える。
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■撮影環境:f/11 1/640秒 ISO100 焦点距離 91mm
空を反射したビルを撮影。ズームレンズのいいところは立ち位置そのままでちょうどいい画角を探る事ができるところだ。近づきすぎるとパースがついてしまうので、ある程度離れた位置でちょうどいい収まりの画角をズーミングして調整。
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■撮影環境:f/11 1/250秒 ISO100 焦点距離 300mm
望遠で街の一部分を切り取る。ズームレンズはついワイド端とテレ端を使いがちなのだが、このレンズだとより極端な画角を楽しめるのでワイド端で撮影したらついでにテレ端でと同じ被写体で2つのアプローチを楽しむのもいいかもしれない。
ズームレンズあるあるだと思うが、ワイド端とテレ端の焦点距離を使いがちという人はいないだろうか?私自身そのタイプなのだが、せっかくズームできるならいろいろなアプローチを楽しみたいと思ってしまう。あと、私がズームレンズに魅力を感じるのは画角の微調整ができる事であり、単焦点の場合はこちらがレンズに合わせることで新たな発見もあるが、ズームレンズの場合は頭の中にあるイメージをより正確に再現したい場合に便利なのだ。特に私のように絞りを絞って撮影する場合はズームレンズのF値の暗さも気にならず、特にフルサイズでの撮影はF6.3でも十分明るいと感じる。
私の基本のF値は8.0~11であり、これは広告写真スタジオに勤めていた時に先輩の「ボケに頼るな、パンフォーカスで撮影して画面全体に集中しなさい」という教えでフィルム撮影していた時の癖が抜けていないのと、その結果パンフォーカスが好きになってしまったからである。元々絵画が好きなこともあり緻密な構成、描写が好きなのでパンフォーカス好きになるのは必然だったのかもしれない。
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■撮影環境:f/11 1/320秒 ISO100 焦点距離 112mm
東京に来ると撮りたくなるのが「東京タワー」。私はスカイツリーよりも東京タワー派。青い空に赤いタワーが映える。ズーミングの自由度が高いので自分の理想の焦点距離で撮影する事ができた。
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■撮影環境:f/11 1/320秒 ISO100 焦点距離 300mm
望遠の凝縮感が気持ちいい。長い直線を見かけると「ここを超望遠で撮影したらどうなるかな……」と考えることもある。望遠で切り取ることで東京タワーの大きさが強調された。
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■撮影環境:f/6.3 1/500秒 ISO1600 焦点距離 300mm
店の入り口に生けられていたモミジ。テレ端F値開放で撮影する事でボケを生かして奥行き感を出した。風で激しく揺られていたがレンズのAFが俊敏であることに加え、α7R VのAF追従性能のおかげでジャスピンで撮影できた。
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■撮影環境:f/6.3 1/500秒 ISO400 焦点距離 50mm
黄色の葉っぱが目を引いたので撮影。広めに撮影して全体のアクセントとして。
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■撮影環境:f/6.3 1/500秒 ISO400 焦点距離 300mm
300mmまでズームすることで全体の中のアクセントから主役へとポジションが変化。
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■撮影環境:f/11 1/8000秒 ISO100 焦点距離 300mm
太陽を反射した窓を見つけたので300mmまでズームして撮影。光源周辺が極端な白飛びをしないようにアンダーめに撮影して、暗部補正をすることで肉眼で見た時のような仕上がりに。
思うままに撮影する(その二)
街中で使用した後はいつもの自分のフィールドであるネイチャーシーンに持ち出してみた。普段であれば16mmか24mmスタートのズームレンズを装着して撮影する事が多いが、今回は50mmスタートという事で普段とは違う視点で景色を見る事ができた。28mmスタートのテレ端300mmのレンズもあるが、ワイド端50mmスタートであることで同じテレ端300mmのズームレンズでも全く視点が変わってくる。
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■撮影環境:f/8.0 1/250秒 ISO1250 焦点距離 88mm
高倍率ズームだがよく写るレンズ。α7R Vは6100万画素の高画素機だが十分満足のいく描写だ。近年のズームレンズは「ズームレンズだから」という言い訳がもうできないくらい全体的に性能が上がっている。
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■撮影環境:f/6.3 1/125秒 ISO1600 焦点距離 295mm
テレ側はハーフマクロとまではいかないが最大撮影倍率1:3.1と十分な近接性能を持っている。遠景から近景まで描写が均一なのでさまざまな被写体に対応できる。
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■撮影環境:f/6.3 1/125秒 ISO1600 焦点距離 295mm(APS-Cモード換算442mm)
APS-Cモードでさらに倍率をあげてほぼハーフマクロで撮影。葉脈までしっかり描写しておりボケ味も綺麗だ。
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■撮影環境:f/11 1/30秒 ISO3200 焦点距離 50mm
普段であればもう一歩寄って撮影するシーンだったが50mmで撮影する事でいつもの自分の好きな距離感とは違った一枚と出会えた。
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■撮影環境:f/11 1/30秒 ISO3200 焦点距離 50mm
中央から周辺までしっかりとした描写。F11まで絞ってパンフォーカスで撮影。木の表面のディテール、絡みついた蔦の描写が気持ち良い。
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■撮影環境:f/11 1/20秒 ISO3200 焦点距離 50mm
足場の悪い状況だったが手ブレ補正がしっかり効いてくれたおかげでブレる事なく撮影ができた。足場が悪いシーンではファインダーで撮影するよりも背面モニターを両眼で見ながら撮影する方がブレにくい。
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■撮影環境:f/11 1/30秒 ISO3200 焦点距離 50mm
アングルを少し上に向けて主役を変えて撮影。
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■撮影環境:f/6.3 1/30秒 ISO3200 焦点距離 300mm
さらに300mmにズームしてピンポイント撮影。程よいボケ感がいい立体感を生み出している。同じ立ち位置でカメラのアングルと焦点距離の違いでさまざまなバリエーションを撮影する事ができる。
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私の好きなF11での撮影。300mmとなると流石にパンフォーカスにはならないが絞る事でレンズの描写性能を引き出す事ができる。
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■撮影環境:f/11 1/40秒 ISO800 焦点距離 50mm
この日はあまり天気が良くなかったが、カメラを構えていたらいい感じに光が射してきた。焦点距離の自由度の高さのおかげで咄嗟に50mmに切り替えて撮影する事ができた。
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■撮影環境:f/6.3 1/200秒 ISO400 焦点距離 300mm
陽の光を受けて透過している葉を300mmで撮影。F6.3でも望遠+フルサイズの組み合わせでよくボケる。ボケ味が綺麗なレンズなので被写体が綺麗に浮かび上がる。
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■撮影環境:f/6.3 1/125秒 ISO800 焦点距離 300mm
葉の隙間の光はボケると玉ボケになる。ピントを合わせた被写体と背景(今回の場合は葉の隙間の光)の距離が大きくなる程ボケやすくなり、ピントが合わないくらいレンズに近い場合も玉ボケになりやすい。
思うままに撮影する(その三)
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■撮影環境:f/11 1/320秒 ISO400 焦点距離 59mm
東京からの帰り道、静岡県に立ち寄って富士山を撮影。ここは私の好きな撮影スポットの一つで富士山が見えている時はついつい立ち寄りたくなる場所だ。この日は天候があまり良くなかったが富士山の姿がはっきり見えていたので寄り道。
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■撮影環境:f/11 1/640秒 ISO400 焦点距離 300mm
300mmで富士山の頂をアップで撮影。水墨画のような一枚に。
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■撮影環境:f/11 1/640秒 ISO400 焦点距離 300mm(APS-Cモード 換算450mm)
APS-Cモードでさらにアップで。より富士山の稜線が引き立つ一枚になりアート感が増した。撮影をする時に心がけているのは「自分の部屋に飾りたい一枚」であること。
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■撮影環境:f/6.3 1/4000秒 ISO3200 焦点距離 69mm
新幹線は望遠レンズをつけていると撮りたくなる被写体の一つ。AF追従モードで撮影したが見事に新幹線の顔を捉えてくれた。
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■撮影環境:f/8.0 1/8000秒 ISO3200 焦点距離 50mm
夕日を受けてアウトラインが輝く。50mmが使えたのでギリギリ右上の夕日が画面内に収まった。
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■撮影環境:f/8.0 1/5000秒 ISO3200 焦点距離 300mm
迫ってくる新幹線を正面側から300mmで圧縮して撮影。凝縮された景色の中を走る新幹線がかっこいい。
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■撮影環境:f/11 1/640秒 ISO400 焦点距離 300mm(カメラ内トリミング 換算450mm)
α7R Vにはカメラ内でのトリミング機能を備えているので焦点距離を撮影後に伸ばすことや、一度しかないシャッターチャンスでも少し広めに撮影しておいて、後でトリミングで完成させる手法も可能だ。高画素機であるため大胆にトリミングしても画素数に余裕があるので一度の撮影でいろいろなバリエーションを作る事ができる。
まとめ
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少しの間このレンズをお借りしていろいろなシーンを撮影してみたが、まずはその軽さに驚いた。フルサイズのシステムは大きく重たくなりがちだがこのレンズはとにかく軽く、それでいて描写も満足のいくクオリティであるため撮影が楽しくなる一本だ。
50mmが持つ臨場感も味わえる望遠ズームなのでトラベルレンズとしてもいいかもしれない。最初は「50-400mm F/4.5-6.3 Di III VC VXD」がすでにあるのに「?」と思ったが、100mmの差でここまでサイズと重量に差が出るのかと。フルサイズ用のレンズではあるがAPS-Cカメラに装着することで75-450mmの望遠ズームにもなり、今回のように高画素のα7R Vを組み合わせることでレンズの利便性もさらに向上する。
望遠ズームの入門的な一本としてもおすすめできるので、レンズキットでカメラを購入した人の次の一本として是非オススメしたいと思う。初めて望遠レンズを買ってファインダーを覗いた時のワクワク感を思い出させてくれる一本だ。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。