カメラのキタムラ
Vol.47 2004 WINTER
フォトワールド 十人十色 第6回  
雪や氷とは思えない不思議で楽しい被写体たち
写真家  西村 豊
冬の厳しい景色のなかに、ふと思いも寄らない形があらわれてくるときがあります。ともすると見逃しがちな不思議な被写体は、あるときは動物たち、またあるときは人の顔に見えたり。見る人によってさまざまな物語が始まりそうなこれらの美しい写真は、冬の撮影は雪原だけではないことを気づかせてくれます。今回は、身近な風景の中から新しい発見をし、撮影を続けられている西村豊先生にご登場いただきます。
【ハクチョウ】風当たりの強い丘の上に着いたとき、最初に目についたのがこの雪だった。まるでハクチョウがおじぎをしているように見えた。
■カメラ:オリンパスOM2N レンズ:ズイコーオートマクロ50mm F3.5 絞り:f5.6 +1露出補正 シャッタースピード:1/125秒 フィルム:コダクローム50 撮影地:長野県霧ケ峰高原 写真集「冬のおくりもの」(光村推古書院)より
【キツツキ】3月下旬の夕方、古い物置の屋根から積もった雪が解けてしずくがポタポタと落ちていた。そのところどころにツララができ、その中の1つはキツツキに見えるではないか。
■カメラ:オリンパスOM2N レンズ:ズイコーオートマクロ50mm F3.5 絞り:f8 AE ストロボ使用 フィルム:コダクローム50 撮影地:長野県諏訪市 写真集「冬のおくりもの」(光村推古書院)より
山小屋生活のさなかに出会った
キツネが人生を変えた。

 もともと写真家の夢を持っていたわけではないという西村先生。
 山が好きで、信州の山小屋を転々としていた時期に、偶然キツネと出会い、写真に撮りたいと思ったことがそもそもの始まりでした。
 はじめは趣味で気楽に撮っているうちに、だんだんとキツネの写真をきちんと撮りたいという思いが高じて、3ヶ月かかってやっと撮った1枚の本土ギツネの写真。その頃山小屋に時々来ていた写真家集団NPS(ネイチャー・フォト・スタジオ)の吉野信さんにそれを見せたところ「よく撮ったなあ。本土ギツネの撮影は非常に難しい。おまえプロになれよ」。と言われ、その一言が今日に続いているとおっしゃいます。
 しかし、近づくことも難しい自然のままの姿の本土ギツネを一切餌付けもせずに追いかけて、やっと2冊の本が出た頃には、すでに25年の歳月がたっていました。
無意識に探している、
不思議で楽しい偶然の出会い。

 そんな西村先生が、ある年の春、キツネを追いかけて何気なくふと足元を見ると、まるでウサギのような形の氷を発見しました。「あれ?」と思ってよく見ると、うまい具合に目のような筋も入っている。カメラを構えて、2〜3枚ほど撮ったそのとき、氷はもろくも崩れてしまったそうです。
 「あと5分遅かったら、この写真は撮れなかったんだと思いました」。
 これは偶然中の偶然だと思っていたのに、それからというもの、次から次へと雪や氷が何かの形に見えてくる。キツツキに見える氷は、共同浴場の隣にあった物置で発見されました。早速すぐ近所の自宅にカメラを取りに帰ったものの、よく考えてみれば、お風呂の近くでの撮影で、しかも夕方。「これは誤解されたらあとでなにを言われるか分からない」と、改めて奥さんを連れだして撮影したという苦労(?)話も。
 それでもこのような変わった氷や雪の写真が、1冊の写真集にまではならないだろうと思っていたそうですが、ある時整理してみると、かなりの数に膨れ上がっていました。
 「出版社に話をしたら、『他へ持っていかないでね。これはウチで出したい』と、即決でした」。
 このときは編集長が写真を抱きかかえて離さなかったそうです。

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