風景写真を撮るようになったのには、必然性があったのです。
また、風景写真を撮ることは私の感性に合っていました。

――その頃は先生にとっても、”環境“が撮影テーマだったのですか? 


【ソバの花】美味しい味覚であるソバは、春と秋とに花を付ける。これは、秋になって咲いたソバ畑の風景。一面に広がっていく光景を広角で撮影。北海道帯広市で。
■カメラ:ミノルタα-9 レンズ:17-35mm F3.5G シャッタースピード:1/60 AE+1/3補正 フィルム:RVP PLフィルター・三脚使用 撮影地:北海道帯広市

 その頃は”環境と人間“をテーマに写真を撮っていました。「人間はいかなるところに住むのが理想なのか?」。そのことを、写真を通して告発しなければいけない、という使命感がありました。
 さらに、もうひとつは”風土と人間“です。「人間はいかなるところに生まれ、暮らしてきたのか?」。これも写真を通して表現していきたかったのです。”環境と人間“は社会性を持たせたテーマで、社会を”横に時間軸“で見て、時代のドキュメンタリーとして表現していくことです。
 ”風土と人間“においては、奥三河地方に古くから伝わる『*花祭』という、収穫のお祭りを、”縦の時間軸“で見たものでした。ですから、この祭りの撮影には10年以上かけました。この撮影の間に愛知県庁を退職して、本格的に写真家として活動を開始しました。

花祭:その起源は、鎌倉・室町時代のころに修験者が伝えたと言われており、
  七百年にも及ぶ長い歴史がある。国の重要無形民俗文化財にも指定されている。


――現在のように、風景写真を撮られるようになった、きっかけはどのようなことからなのでしょうか?


【霧垂れ込める】夕方、箱根山の上から、下界に垂れ込めている霧を俯瞰した。ゴルフ施設が半分、霧に覆われていて、街は霧の中。こんな秋の風景もあっていい。
■カメラ:キヤノンEOS-1N レンズ:EF70-200mm F2.8L シャッタースピード:1/10 AEフィルム:RVP PLフィルター・三脚使用 撮影地:神奈川県箱根町

 ”環境と人間“をテーマに、破壊されていく自然を撮影していましたが、破壊されたところばかりを撮影していたら、段々と虚しくなってきたのです。そこでいろいろ考えるうちに、「破壊される前の美しい自然を撮ることで、環境について考えてもらえる効果があるのでは」と思うようになり、そのことが風景写真を始める大きなきっかけになりました。 実はドキュメンタリー写真を撮っていた時から、「自分には風景写真が向いているのでは」と思ってもいました。風景写真の分野で、自分なりの世界を確立することで、今までの先輩方とは、違うカタチで勝負ができるのではと思いました。

――先生のおっしゃっている、「自分なりの風景写真の世界」とは?

 その頃の風景写真の世界は、大型カメラで撮影することが一般的でした。そこで、私は同じように大型カメラを使って撮るのではなく、35mmカメラで撮ることにしたのです。 そして1985年にすべて35mmで撮影した写真集「天地聲聞」を出版しました。この写真集は10年後の1995年に復刻新版として出版されました。

――35mmカメラを選ばれた理由は?

 多様な交換レンズが使えて、機動力があり、動きのある風景が撮れるからです。


【残り紅葉】時期が遅くなっていって、12月の末頃まで残っている紅葉もある。そんな葉の存在感を、秋の光で捉えてみる。
■カメラ:キヤノンEOS-1 レンズ:EF70-200mm F2.8L シャッタースピード:1/60 AE-2/3補正 フィルム:RVP PLフィルター・三脚使用 撮影地:静岡県本川根町寸又峡
――動きのある風景とは?

 
「風景は静止している」と思われてがちですが、大きな時間の中で考えると、風景は常に動いています。当時から、大きなサイクルで日本や地球を考えて、写真を撮ることが、とても大事だと思っていました。このような動きのある風景を的確にとらえるのには35mmカメラが適していました。また当時すでに、35mmカメラの機材や乳剤など、技術も一段と向上していたこともありました。
 
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