春に咲く桜に対して日本人は、我がことの想いを託して花を見続けてきました。先日出版しました『一本櫻百本』という写真集は、まさに一本の木に自分の気持ちを託して、その木を眺めては、亡くなった人を思い遣ったり、はるか彼方の記憶を思い出させたりすることをテーマにしています。桜という一本の木に対して、こんなに深い思いを寄せる民族は日本人だけです。
特に、一本桜は人の気持ちが集中しやすいと思いました。シンボルとして花の姿があり、その花の姿に対して自分の気持ちを集中させていく。そういう要素を桜の花は持っています。自分の現在と過去と未来を語るにふさわしい素材です。もちろん年齢にもよります。若い頃は「花がきれいだな」という程度ですが、やがて年齢も60〜70代になってくると、芭蕉の俳句にあるように『さまざまな ことを思い出す 桜かな』になるのです。ひとつの花に対して、ひとつの民族がこれほど感情移入する、そんな例は他にはありません。そのような点でも特殊な花だと思います。
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【桜の咲く丘】未だ植えて間もないが、山腹全体を桜にしようとしている試み。
針葉樹と、ヤナギとの調和も美しい。
■カメラ:ペンタックス645N2 レンズ:SMC ペンタックス645 300mm F4 絞り:f16 AE
+1/3補正 フィルム:RVP PLフィルター 三脚使用 撮影地:秋田県中仙町 |
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