風景写真も子ども時代の体験が原点です。“心の風景”をテーマに撮り続ける。
――「世界の子ども」と「武蔵野」は一見すると、全く関連性のないテーマにも思えますが?


 実は風景写真のテーマ「武蔵野」も、子ども時代の体験が原点にあります。
 その頃、私の家の菩提寺は現在の足立区竹ノ塚にあり、お墓参りの帰りには、お寺の周りの田んぼや小川で魚や蛙などを採って遊びました。その体験が頭の中に残っていたのです。しかし、急速に発展を続ける東京では、田園風景は次々に失われていきました。
 そんなある日、偶然訪れた練馬にある“三宝寺池”で武蔵野の面影を発見しました。それは、まさに子どもの頃に抱いていたふるさとの心象風景でした。それが私の最初の写真集「武蔵野」になったのです。また当時、風景の写真集と言えば京都を撮影したものがほとんどでした。東京で生まれ育った私としては、東京にも京都に負けない風景があるはずだと思っていました。そこで、写真集「武蔵野」では人間が感じられる風景を意識して撮りました。ただ単に美しいだけの風景ではなく、人間の生活が感じられるような風景の写真集にしたかったのです。そして、年内には「その後の武蔵野」(仮題)を出す予定です。さらに人間をテーマにした写真集も出したいのですが、忙しすぎてなかなか手が回りません。


【祭りの子どもたち】岩走神社の祭礼は、御輿と獅子と太鼓の行列が練り歩く。男児は御輿に群がり興奮気味だった。人混みの中の撮影には24ミリは便利だ。
■カメラ:ミノルタα-7 レンズ:AFズーム24-105mm F3.5-4.5D  絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RDP 撮影地:東京都あきる野市

フォトコンテストの入賞だけを目的に撮った写真では、人に感動を伝えられない。
――田沼先生にはカメラのキタムラ「四季のフォトコンテスト・夏」の審査をお願いしています。また、他のフォトコンテストでも審査をされていますが、応募される方にアドバイスをいただけますか?

 数々のコンテスト入賞作品を並べて自慢する方がいますが、そのような写真では個展はできないでしょう。それは、テーマや作風が一枚一枚異なるからです。応募するコンテストのテーマに合わせて撮影されたものは、作者が本来撮りたい写真ではないのです。
 入賞だけを目標に写真を撮っている方には儚さを感じます。そのような写真では見る人に感動が伝わりません。感動できるのは自分だけです。そうではなくて、自分が惚れ込んでいるものを撮ることがとても大事です。それは被写体が人物でも風景でも同じこと。もっと大きな気持ちで写真を撮って、その結果、満足のいく写真が撮れたらコンテストにチャレンジする。そのくらいの気持ちでよいのではないでしょうか。
【竹に手形】南沢の竹林公園には約2,000本の孟宗竹が生い茂る。周囲は住宅地になってしまったが、この地域だけは自然の姿を残している。子どもがいたずらしたのか手形が竹に残されているのが面白い。
■カメラ:キヤノンEOS-7 レンズ:EF35-350mm F3.5-5.6L USM  絞り:f5.6 シャッタースピード:1/30 フィルム:RDP 三脚使用 撮影地:東京都東久留米市


 当サイトに掲載されている写真・テキスト等を無断で複製・転載することを禁じます。