「自分の写真を撮らないといけない!」それが師匠の木村伊兵衛氏からの忠告。
――子どもの写真を撮り始めたきっかけについてお聞かせください。


 木村伊兵衛氏の助手をしたり、アルバイトを一生懸命やって、憧れのライカを買うことができました。うれしくてライカを首からさげて、まず撮影に出かけた先は、自分が生まれ育った浅草でした。気心の知れた土地では、どこに行けばどんな人がいて、どんな写真が撮れるのかということを、身をもって知っているものです。それで自然と足が向かいました。そして気づけば、自分自身の子ども時代の心象風景を追い求めながら、子どもの写真を撮っていたのです。それが、子どもの写真を撮り始めたきっかけです。


【川あそび】秋川にかかる秋留橋の下で水遊びをするグループがいた。夏になるとこの付近で家族連れの人たちが水遊びを楽しむ。海とは違い派手さはないが結構楽しめるようだ。橋の上から見下ろす光景も面白いアングルだ。
■カメラ:キヤノンEOS-5 レンズ:EF28-105mm F3.5-4.5 II USM  絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RDP 撮影地:東京都秋川市



――やがて、海外の子どもの写真を撮られるようになりましたが、そのきっかけは?

【渚で遊ぶ】稲毛海岸は夏の海水浴シーズンになると沢山の人で賑わう。渚では子どもたちが波とたわむれる姿もよい被写体だ。波をかぶった子どもたちの自然な表情は素敵である。ただし近年は肖像が問題になる時代なので、保護者の許可を得てから撮影するとよい。
■カメラ:キヤノンEOS-5 レンズ:EF70-200mmL USM  絞り:f9 シャッタースピード:1/250 フィルム:RDP 撮影地:千葉県稲毛市
 1965年にアメリカのタイム・ライフ社の契約写真家になりました。なぜアメリカの雑誌社と契約したかと言えば、木村伊兵衛氏の忠告があったからです。
 その頃は国内で雑誌の仕事をたくさんしていて、本当に寝る暇がないほど忙しく働いていました。そんなある日、木村氏が「いつまでもそんなことをしていたら、メディアにつぶされる」「使い捨ての目に遭ってからでは遅い」「今のうちから自分の写真を撮るようにしないといけない」と、忠告をしてくれました。
 しかし、忙しかった分は、かなりの収入にもなっていました。一度上がった生活レベルを簡単に落とすことは難しく、頭ではわかっていましたが、どのように切り替えていくべきなのかを悩みました。
 ちょうどその時にタイム・ライフ社から仕事の話が来たのです。タイム・ライフ社としては、おそらく私をベトナムへ行かせたかったのでしょう。そのころは丁度ベトナム戦争の真っ最中でしたから。しかし私は東京大空襲を体験して生き延びた身ですから、今さら危険な戦地へは行きたくなくて、インドシナ半島へ行かないことを条件に契約しました。
 それまでの1年間の仕事量からすると、タイム・ライフ社の仕事は、3分の1程度の時間を割けばこなせそうでした。残りの時間を使って自分の写真を撮ることができる。そのように思えたので契約をしました。
 そして、自分の写真のテーマとして考えたのが「世界の子どもたち」と「武蔵野」でした。そのテーマは今日まで終わることなく続いています。

――“世界の子どもたち”の撮影で、特に印象に残っていることは、どのようなことですか?


 世界各地を訪れていますが、それぞれに思い出があります。
 楽しく遊んでいる子どもたちよりも、戦争や自然災害による飢餓に苦しんでいる子どもたちが、より強く印象に残っています。私も僅かではありますが戦争を体験していますから、戦争で人々が苦しんでいる状態を切実に感じます。
 そして戦争はどうしても立場の弱い者に被害が集中します。たとえば自分たちの街が紛争地になってしまった時、若い男性は逃げることができますが、女性や老人、そして子どもたちは逃げることができないのです。
 子どもは生まれてくる親を選ぶことができないように、生まれる国や場所も選べません。やはりそのような境遇にある子どもたちは、われわれ大人が保護していかなければいけないと思うのです。



【咲き競うユリの花】JR西立川駅に近い国営昭和記念公園は「緑の回復と人間性の向上」をテーマに建設されており、四季折々の花も美しい。池の畔に咲いていたユリの花の群生は見事な美しさを競っていた。周囲の風景とは異質な印象を受けたので花だけフレームした。
■カメラ:キヤノンEOS-7 レンズ:EF35-350mm F3.5-5.6L USM  絞り:f8 シャッタースピード:1/60 フィルム:RDP 撮影地:東京都立川市・昭島市

 

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