RICOH THETA Z1&SC2 × 木村琢磨|全てを写し撮る全天球写真の世界
はじめに
全天球。もしかしたら聞き馴染みのない言葉かもしれません。一言で言えば全方位の360度パノラマのことです。写真といえばカメラを向けた方向にある景色や被写体を写すものですが、この全天球はカメラを中心に360度写る写真のことです。つまり「球体」の写真のことです。
なんだか難しそう…そう思った人も多いかもしれませんが、今回は誰でも簡単に全天球を楽しめるRICOH THETAを使っての全天球写真の世界をご紹介します。
全てを写し撮る「カメラ」
まずRICOH THETAというカメラについてご紹介します。通常カメラといえばボディ1台につきレンズが1つですが、RICOH THETAはボディの前後にレンズが一つずつの計2つ搭載されています。魚眼レンズが前後についていると思ってください。
通常パノラマ撮影といえば何枚も撮影してつなぎ合わせて一枚の写真に仕上げるわけですが、RICOH THETAの場合レンズを前後に搭載することで、ワンショットで上下前後左右を一度で撮影することができます。まさに空間を丸ごと写し撮るわけです。
Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA
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私がRICOH THETAと出会ったのは2013年、初代RICOH THETAである。発売当初はカメラというよりもガジェットとしての紹介が多く、写真撮影というよりは記録を目的とした使い方が多く紹介されていた。私自身RICOH THETAを初めて見た時に、ロケハンの記録用にピッタリだなと思い購入した経緯がある。撮影後に360度空間を見渡すことができるのはまさに革新的だった。
それからより高画質化されたRICOH THETA Sや、より本格的な動画機能やストリーミングなどに対応したRICOH THETA Vが発売され、少しずつ進化を遂げていった。しかし、写真家としてRICOH THETAの画質には100%の満足感は得られていなかったというのが正直なところだった。
2019年、まるで突然変異的なRICOH THETAであるRICOH THETA Z1が発売された。何が突然変異的なのかと言うとセンサーが1インチとなり、それまでのRICOH THETAのセンサーサイズからは考えられないほど大型化されたのだ。しかもRICOH THETAは前後にレンズが搭載されているので、1インチセンサーと大型センサーに耐えうる高性能レンズを2つ搭載した超贅沢仕様というわけである。画素数としては2000万画素×2となるため解像感も十分だ。
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RICOH THETAの全天球写真の面白いところは、撮影後に画角や構図を自由に調整できることだ。360度写し撮っているので撮影後に自分の好きな部分を好きな比率で切り取ることができる。特に全天球写真でも人気が高いのがリトルプラネットという仕上げ方で、まるで小さな惑星のような形状に仕上げることができる。
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全天球カメラという響きから使い道を選ぶカメラと思われがちだが、ポケットにも入るコンパクトな左右360度写る超広角レンズカメラとしても使える。
撮影も簡単なら編集も簡単なのがRICOH THETAの特徴だ。RICOH THETAは単体のスタンドアロン撮影もできるが、スマートフォンとWi-Fiで接続して使うことでリアルタイムにプレビューを見ながらの撮影も可能となる。厳密な位置調整が必要なシーンや、自分が写り込むのが嫌な場合はスマートフォンを使った撮影がいいだろう。
撮影後の編集もスマートフォンのアプリ「RICOH THETA+」を使って編集が可能だ。Wi-Fi接続をしていれば撮影後にすぐに全天球写真のデータがスマートフォンに送られてくるので撮影後すぐに編集作業に取り掛かれる。
RICOH THETA Z1はRAW撮影も可能で、汎用性の高いDNGファイルとして記録することもできる。より高画質に細かい部分までこだわりたい人は、Adobe Lightroomを使ってRAW現像することでRICOH THETA Z1の性能を最大限に引き出すことができる。
ただし、DNGファイルの場合前後の写真データが繋がっていない状態での記録となるため、書き出し時にステッチング(写真データを繋ぐ)必要がある。写真データをステッチングするRICOH THETA StitcherというアプリがRICOHより公開されているため、RAW現像を考えている場合はあらかじめダウンロードしておこう。
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ハイライト補正とシャドウ補正を適用することでZ1が持つ輝度情報を引き出すことが可能だ。
Lightroomで読み込んだ場合前後2つのレンズデータが1つの画像として読み込まれるためこのままの状態だとRICOH THETA+では編集できない。
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写真表現としての「全天球写真」
見ていただいた様にRICOH THETAはちょっと特殊なカメラだ。特殊なカメラということは、こちらも普通の撮り方ではRICOH THETAの面白さを引き出せないのではないか?使えば使うほどそう思う様になってくる。
手持ちで自分を写し込む撮り方やWi-Fi接続をして姿を隠して撮影したり、通常のカメラではパノラマが撮影できない狭い空間や動き物のパノラマ撮影、長い一脚にRICOH THETAを取り付けて空撮の様な撮影をしたり…など、色々な可能性を秘めたカメラである。
私がRICOH THETAを使う際に特によく使うテクニックとして
・地上にベタ置き
・ロング一脚との組み合わせ
・クリップ雲台と組み合わせてフェンスなどに固定
・プラグイン機能を使った特殊撮影
と基本的にはWi-Fi接続を前提とした撮影方法が多い。
特にどこからどうやって撮ったのか?ちょっと不思議な仕上がりの撮影が好きなので、RICOH THETAを仕掛ける場所にはこだわって撮影している。
ここでは写真表現としての「全天球写真」を紹介したいと思う。
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■撮影環境:1/500秒 F5.6 ISO80+Bi Rod 10C-11500
■夏の富士山と茶畑を、ロング一脚を使ってハイアングルから撮影。すべてが写る全天球写真とはいえ通常の写真撮影同様にアングルは重要となる。
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■撮影環境:1/1250秒 F5.6 ISO160
■飛行機を間近で撮影できることで有名な伊丹空港で撮影。Wi-Fi接続での撮影はレリーズタイムラグが変則的なので動体撮影では何度かチャレンジする必要がある。
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■撮影環境:1/800秒 F2.0 ISO64+Bi Rod 10C-11500
■リトルプラネット効果を生かして新幹線が走るミニチュアの様な世界観を再現。夕焼けのタイミングで撮影を行なったため青空と夕焼けをぐるっと巻き込む様な演出ができた。
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■撮影環境:1/1000秒 F2.0 ISO64+Bi Rod 10C-11500
■一脚の先端にRICOH THETA SC2を取り付けてひまわり畑の足元から撮影。普通のカメラでは撮影が不可能なシーンも全天球カメラのRICOH THETAなら簡単に撮影できる。
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■撮影環境:0.8秒 F5.6 ISO80
■東京駅丸の内北口ドーム天井を撮影。一枚の全天球写真からそれぞれ見せ方を変えた4種類を生成し一枚に組み合わせた。「一枚の写真」で作った「組写真」となる。
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■撮影環境:1/1000秒 F5.6 ISO80
■灯台をシンメトリー構図で超ワイドパノラマに変換して撮影。真っ青な景色の中に真っ赤な灯台が印象的な一枚に。
ガジェットからカメラへと進化したRICOH THETA Z1
前述した通り、RICOH THETA Z1はこれまでのRICOH THETAシリーズとは少し毛色の違うモデルで、より「写真としての全天球」が必要なユーザーへ向けたフラグシップモデルとなっている。1インチセンサーによる高解像度と広いダイナミックレンジ、そしてセンサーサイズを生かした高感度撮影など写真撮影の表現の幅を広げるという意味でも重要な一台であり、写真家のイマジネーションを刺激してくれる。
全天球写真は風景写真でも効果的で、RICOH THETA Z1を導入してからは積極的に風景写真やディティールを生かした撮影にも全天球を活用している。
私の中ではRICOH THETAはアートとして写真を表現する機材だと思っていて、目の前の景色を自分の想像力で変換できるツールとして活躍してくれている。
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■撮影環境:1/800秒 F5.6 ISO80+Bi Rod 10C-11500
■河津桜の中にRICOH THETA Z1を仕込んで撮影。2000万画素1インチセンサーと専用設計の高性能レンズの相乗効果による素晴らしい解像感で細かい桜のディティールを写し撮ってくれた。全てを写す全天球とはいえレンズ中央と周辺では解像感に差は出てしまうので特にメインになる部分はレンズ中央に配置するのかベストだ。
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■撮影環境:1/400秒 F5.6 ISO80+Bi Rod 10C-11500
■梅の花で花札をイメージして撮影。全天球カメラの撮影は試行錯誤の連続だ。ここから撮影するとどう写るのだろう…?初代から使っていて思ったことは人間目線を捨てることでより面白い表現が可能となること。虫の目線や鳥の目線、距離感や形がデフォルメされる全天球写真は写真に大切な要素である「偶然性」を楽しむにも丁度いい。
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■撮影環境:10秒 F 2.1 ISO200
■ヒメボタルをインターバル撮影。センサーサイズが1インチになったおかげで長秒露光時のノイズも減りノイズリダクションをかけてもディティールの消失が目立たなくなったのは嬉しい。
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■撮影環境:60秒 F 2.1 ISO1600
■センサーの大型化によりISO1600まで感度を上げてもしっかり解像するおかげで天の川も簡単に撮影できる様に。超広角なので赤道儀なしの長秒露光でもほとんど星はブレない。
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■撮影環境:1/25秒 F 3.5 ISO80+Bi Rod 10C-11500
■一脚を使ってハイアングルで滝を撮影した。撮影後に形状を変化させ滝を真俯瞰から撮影した様に見せている。木々や葉の解像感も素晴らしく積極的に風景を撮りたくなる。
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■撮影環境:1/25秒 F 3.5 ISO80+Bi Rod 10C-11500
■先ほどの滝の写真をリトルプラネット化したもの。曇り空の日に撮影したことで白バックに浮かぶハート型の星の様に仕上がった。滝を境に赤と緑の色が配色されているのもポイント。
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■撮影環境:1/125秒 F 5.6 ISO80
■神戸ポートタワーを撮影。手すりにRICOH THETA Z1を固定してWi-Fiでリモート撮影した。アングル的にもポジション的にも通常のカメラでは絶対に撮影不可能な一枚に。サルバドール・ダリのシュルレアリスムな世界観を目指した。
さいごに
RICOH THETAが写し出す全天球写真は間違いなく新しい写真表現を体験させてくれる。今までの写真撮影とは概念が全く違うため最初は戸惑うかもしれないが、使えば使うほど全天球写真の奥深い表現の世界にハマっていくはずだ。
個人的には最初は記録としての全天球写真からスタートするのが気軽でいいと思う。写真撮影のお供にRICOH THETAを連れて、撮影した空間を丸ごと持って帰って後で見返す。そんな楽しみを新たに加えてみるのはどうだろう?
私も旅行に行く際はRICOH THETA Z1もしくはSC2をカメラバッグに忍ばせていて、この景色丸ごと持って帰りたいと思ったシーンはRICOH THETAで空間丸ごと持って帰っては後で見返して楽しんでいる。
Post from RICOH THETA. – Spherical Image – RICOH THETA
誰でも気軽に高画質な全天球を楽しめるRICOH THETAは、私の最高のパートナーとして今後も私の体験を丸ごと写し撮ってくれるだろう。全天球カメラも日々進化を遂げていて、RICOH THETAシリーズも今後ますますパワーUPすることは間違いなく、私自身RICOH THETAファンの一人として「次の進化」を楽しみにしている。
■写真家:木村琢磨
1984年生まれ。岡山県在住のフリーランスフォト&ビデオグラファー。広告写真スタジオに12年勤務したのち独立。主に風景・料理・建築・ポートレートなどの広告写真の撮影や日本各地を車で巡って撮影。ライフワーク・作家活動として地元岡山県の風景を撮影し続けている。12mのロング一脚(Bi Rod)やドローンを使った空撮も手がけ、カメラメーカー主催のイベントやセミナーで講師を務める。