各界の著名人を撮影。そこでは学校の勉強では得ることができない、貴重な知識が身に付いた。
――サンニュース・フォトスでの業務内容はどのようなことだったのですか?


 最初に配属された先は、フィルムの現像や焼付けをするニュース部門の暗室でした。私はフィチャー部門の仕事をしたかったので、異動願いを出していました。
 やがて異動になり、その部の顧問をしていたのが木村伊兵衛氏だったのです。それからは、会社の仕事をしながら木村氏の助手も務めました。
 さらに、赤字続きの会社で社員への給料もちゃんと支払われませんから、アルバイトもしていました。社員全員がアルバイトをして、生活費を捻出していた不思議な会社でした(笑)。
 実はこの時、私はアルバイト先の芸術新潮の嘱託になったのです。自分が勤務する会社がありながら、他社の嘱託になるなんて普通では考えられません。会社員としての仕事、木村伊兵衛氏の助手、さらに芸術新潮の仕事。まさに三足のわらじを履いた状態です。
 しかし、そのおかげでいろいろな経験ができました。特に芸術新潮では、口絵の撮影や絵の複写、さらには舞台稽古撮影から映画のコマ撮りまでしました。
 当時は今のように映画の配給元から宣伝用の写真が配られないので、試写会に行ってスクリーンに映し出された映像を直接撮影するのです。
 また、「芸術院会員の肖像」という連載があり、各界の著名な方を毎月撮影しました。普通ではお会いできない素晴らしい方々ばかりでした。幸運だったのは、私がみなさんにとって孫くらいの年齢だったので、気軽に撮らせていただけたのです。学校の勉強などでは得ることができない貴重なお話ばかりで、掛替えのない知識が身に付きました。この時の体験が、現在の仕事の基本になっていると思います。


【ラケットと少年】公園でバトミントンで遊んでいた少年が、勝負に負けた途端、ラケットで顔をかくし照れ笑いをして見せた。その瞬間にすかさずシャッターを切った。
■カメラ:キヤノンEOS-5 レンズ:EF28-105mm  絞り:f8 シャッタースピード:1/250 フィルム:RDP 撮影地:東京都中野区



――人物撮影で気を遣われていることは何ですか?

【天を仰ぐハス花】古代蓮の里の公園は、蓮田の中にコンクリートの散歩道があり、比較的花に近づいて撮影することができる。カメラアングルを下げ、花を見上げる格好で撮影を試みる。薄曇りで柔らかな調子に仕上がった。太陽を画面に入れ込んで撮影をしても面白いと思う。
■カメラ:キヤノンEOS-5 レンズ:EF28-70mm F2.8L USM  絞り:f11 シャッタースピード:1/60 フィルム:RDP 撮影地:埼玉県行田市
 被写体になる人の真の姿、その人間性をいかに写真に撮るか。そのことに神経を遣いました。ですから、その多くは被写体となってくださったみなさんとはいろいろと会話を交わしながら撮らせていただきました。
 また、子どもの写真を撮る時は、自分が“電柱”になるんです。子どもたちは写真を撮られることがわかってしまうと、カメラを意識してしまいますが、“電柱”だったら気にしません。私は子どもたちが、偶然や予期せぬことに対して見せる表情を撮りたいので、そのためには私というカメラを持った人間を意識させたらダメなんです。
 世界中で共通していることですが、子どもたちはカメラを向けられるとすぐにVサインをしますよね。そんなポーズよりも、子どもはもともと遊ぶために生きているので、何をやって遊ぼうかと好奇心に燃えている時の目の輝きがいいんです。その一瞬をとらえます。
 大人も子どももカメラを意識していない時が、一番いい表情なんです。そのいい雰囲気、時代性を切り取って写真にする。それが私の仕事です。
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