種清豊のフォトコラムコラム・ギャラリー
2014.03.07【Vol.157】
姿を見ただけで、なにやら独特な雰囲気を感じられる個性的なカメラは数多く存在します。今回ご紹介のトヨカ35=通称トヨカ横二眼もそんな不思議な雰囲気を持った一台です。当時愛知県豊橋にあった(戦時中の疎開先)東郷堂から1955年頃発売されたカメラで、収集家の間ではとても有名なカメラです。
全幅約16センチと35mm判採用のカメラとしては、かなり横長なボディー正面にレンズが2つ見えるのが特徴です。向かって左側のレンズがシャッター付きの撮影用、右側がビューレンズ(被写体確認用)です。35mm判フィルム使用の二眼レフ自体たくさんの種類があるわけではないのですが、縦にレンズを並べた二眼レフと異なり、トヨカ35は24mmx36mmの画面サイズを撮影する横並びにレンズを配置したカメラは珍しい部類でしょう。ステレオカメラであれば最低2つのレンズを横並びに配置していますが、撮影画面は24mmx36mmでないことがほとんどです。一体どれ位の台数が生産されたのかはわかりません。「TOYOCA35」と書かれているネームプレートの字体が異なるもの、輸出用として名前が変更されたもの、シャッターが異なるものなどバリエーションがいろいろ見受けられます。「TOYOCA35」の名前のままでも輸出されていたようです。また、1957年にはアウラステレオというトヨカ35のボディーを流用したであろう、ステレオカメラが理化学精機というところから発売されています。
発売された1955年当時のカメラ雑誌の広告欄にトヨカ35を見ることができます。「焦点調節二眼式連動」とあります。実際に使用してみると、本体の重量に対して専用の革ケースのバランスが悪い、巻き戻しノブの位置がタイトすぎて、撮影後の巻き戻しに時間がかかるなど、あまり使い勝手のいいカメラとはいえません。ただし撮影レンズのアウラ(Owla)アナスチグマット45mmF3.5はとてもピントがよくシャープな写りをしてくれるのには救われます。独創性はあるのですが、おそらく製作の簡略化のために横二眼にしたものと思われます。二眼であるメリットは残念ながらあまり感じられないカメラです。同じ東郷堂は戦前の1937年~1940年にメイスピー、メイカイという横二眼カメラを製造していたので、そのときの製品を35mm判にしてリバイバルしたのかもしれません。いずれにしても、このトヨカ35以降、横二眼タイプのカメラは今に至るまで出現していません。