修理人たぐちの徒然日記コラム・ギャラリー
2017.03.03【Vol.1431】
カメラ修理教室はキヤノンPと事前告知してありますが、全ての受講生が手当出来ません。保有台数に余裕のある方より融通してもらうことになり、その中にキヤノンVTがありました。布幕のゴム部分が経年変化で溶けて貼り付いています。
数を減らしている民具。教材として使用し姿を消すは悲しく持ち帰り両幕交換することにしました。末永く道具として役立てて頂ければと思います。
幕だけに止まらずリボンも切れかかっています。作業するにチョイと厄介です。
逆転防止爪の掛かりを外し、先幕・後幕のシャッター幕を動作させるテンション(スプリング)を初期値に戻す事にします。
真ん中の白い両幕軸は右ネジ仕様でナットが左仕様になっています。
傷んでいる両幕を外したところです。剥がした後の接着剤を綺麗に取り除いておきます。
同じ幕幅に切りました幕に幕竿を取り付けるには金床を利用し直角を出し、片面に接着剤を塗布し、折り返しの糊代を取り、金床を重しと致し乾くまで待ちます。
乾いたようです。残りました面を貼り付けます。
同じように接着剤が乾くまで金床を重しとして密着させます。
外しました痛んだ両幕を参考に幕の長さとリボンの長さに裁断しますが、剥離紙に貼り付け金床を重し代わりに致します。L尺を利用しリボンを平行にしてから長さに合わせて裁断します。
シャッター幕作りにはお裁縫があります。そして結び目は歯科医・産婦人科の先生に教わりました外科結びを致します。
結び目は釣り糸と同じように緩まないよう瞬間接着剤で止めます。
個体に寄りましては後幕貼り位置の罫書きがされています。この個体にはありませんでした。後幕貼り位置を治具で測定します。
幕及びリボンは平行に貼ることが大事です。フィルム画面に照らして平行を取ります。
後幕に合わせて先幕を張るに当たって幕竿の重なりを0.5mmで貼ります。
重なりが少ないと高速秒時は早くなり、時には全開しない場合があります。重なりが広すぎると遅くなります。シャッター速度試験器がないと難しさがありますね。
勿論後幕と先幕の平行を確認することも大切です。
そこでシャッター試験器が無い場合でも楽しめる方法を教室で教えています。
1)両幕を貼り終えた時点で走行するようテンションをかけます。
(この時点では幕が走行するだけです)
2)次は五感の聴力に頼ります。秒時を1秒に設定し、後幕が1秒を刻むようテンションをかけます。聴覚が1秒と認識したならば1/8秒を確認します。
1秒と1/8秒を満足したならば後幕テンションを良し、とします。
3)次に秒時を速い位置に設定し、全開しているかの確認をします。
例えば1/60で半分開いたとします。テンションを全開するまで巻きます。
次に1/125はどうでしょうか?1/4が蹴られてしまいます。全開するよう少しテンションを掛けます。同じ作業を最高速の速度まで全開するよう少しずつテンションを掛けます。
シャター測定器は1秒の表示です。隠居人の聴力に衰えは無いようです。
1/1000秒は全開しており、楽しまれるには許容の範囲でした。
若干のテンション調整を致した値です。
シャッター幕交換は面倒な作業ですが、聴覚に依存することで楽しむ事が出来ますね!
次回の修理教室はキヤノンバルナック型の両幕作りに入ります。
カメラ修理同好会でも同じ説明を致し、完成試写すると喜びに変わったそうです。
所有者の脳の活性化にシャッター幕交換は良き刺激を与えるようです。