修理人たぐちの徒然日記コラム・ギャラリー
2016.04.15【Vol.1335】
1948年アメリカで発明された酸化トリウムを含有したレンズは超低分散光学硝子で色収差が小さい高屈折率レンズでした。
1950年初期ライツ社のズミクロンは空気をも撮すと例えられたのです。
しかし経年変化によるブラウニング現象で黄変する欠点がありました。
1970年になると使用が禁じられました。製造メーカーは残滓を厳重に管理している旨をHPで公表しています。
簡易測定ではありますが、トリウム非含有との違いを測定してみました。
今回のHEXANON 57mm 1.2は、正に放射能レンズなのです。其れでは腑分けを致しましょう。
確かHEXANON 1.2は絞り値機構に不具合を生じると腑分けに面倒な仕様である記憶があります。
社名環を外し、前環を分離します。
前群レンズを外しますと鏡筒に思えるのは内ヘリコイドで4本のネジで絞り値機構部を固定してあります。内ヘリコイドの内径より絞り値機構部の外径が大ですので外すことが出来ません。未だ此処では4本のネジは外しませんでした。
バヨネット環を外しました。ヘリコイドを分解するに絞り設定板と絞り値クリックの役目をする二ヶ所の押さえピン・コイルバネ・鋼球を別途保管しておき、絞り値環を分離します。
距離環を固定している三ヶ所の剣先ネジ(赤○部)を緩め分離します。
後群レンズも外しておきます。
制限環と中ヘリコイドへ無限位置の罫書き線を入れ制限環を外します。
完成時の焦点微調整は制限環の移動で調整します。
二ヶ所の直進キーを外しました。
内ヘリコイドに4本のネジを外し、固定されている絞り値機構部を逃がします。
内ヘリコイドから絞り値機構部を切り離した事と直進キーを外したことで内ヘリコイドが自由に回転させることが出来ました。
先ず中ヘリコイドと内ヘリコイドの重要な関係を検証します。
中ヘリコイドを近距離側(赤矢印)方向に送り出します。次ぎに内ヘリコイドを赤矢印方向に回しますと中ヘリコイドに当たり停止します。罫書き線を入れ両者の終端位置とします。
内ヘリコイドを分離しますと絞り値機構部が分離できました。
通常直進ヘリコイドは直進キーが働く溝は内ヘリコイドにありますが、f1.2の大口径から絞り値機構部側に求めたのでしょうね。
外ヘリコイドと中ヘリコイドの関係を検証します。
中ヘリコイドを赤矢印方向へ回転させると停止します。被写界深度赤点に合わせて終端位置の罫書き線を入れます。その後、反時計回りに回転させると両者が分離されます。
グリスを入れ替え組み立て途中で焦点合致を確認致します。若干の誤差であれば制限環の位置を移動して無限合致の調整を致します。
一時、価値がないと銀塩仕様レンズは見捨てられ、デジタル仕様のレンズがもてはやされました。しかし環境は変化し銀塩レンズを利用できるアダプターが豊富に用意されてきました。今は製造できないトリウムレンズはCCDにどの様な信号を送り出す手伝いをするのでしょうね。