種清豊のフォトコラムコラム・ギャラリー
2015.09.25【Vol.237】
今回ご紹介のクラシックカメラは、戦前のドイツを代表する写真関連企業ツァイスイコン社の高級レンジファインダーカメラ、Contax I(コンタックスⅠ型)です。日本でも2000年代初頭まで「コンタックス」というブランドでカメラが発売されており一度はその名前を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
コンタックスⅠ型は1932年に発売されました。1925年に発売を開始し、すでに35mmシステムカメラとしての地位を築いていたライカに遅れること7年目です。高級レンズ時ファインダーカメラの二大巨頭として戦前はことあるごとにどちらが優秀なのかと議論されてきたカメラです。独自のマウントを備え、交換レンズはもちろんカールツァイス製、テッサーをはじめゾナー、トリオターなど光学メーカーならではの豊富なラインナップも魅力でした。特に大口径F1.5のゾナーレンズをラインナップに加えることで圧倒的に他社のカメラをリードした点には注目です。
コンタックスは金属製縦走りシャッターを搭載し、布幕のライカに比べて耐久性があるとされていましたが、実際幕自体の劣化はなくとも、それを動作させるシャッターリボン(時代的に考えられる繊維は麻と綿の混合もしくはレーヨンとの混合と思われます)が経年による劣化で切れている固体も多く、オーバーホールなしでオリジナルの状態でキチンと動くものは少ないと考えられます。またその四角いボディーデザインから大柄に見えますが、高さがわずかに高いだけで横幅、厚みともバルナックライカとほとんど変わらない点も注目です。内部機構は正面向かって左側、大きなシャッター速度設定ダイヤル兼フィルム巻上げノブのあたりに集中しています。複雑に動くギアからは想像できませんが、大変合理的な設計により部品単位のユニット交換が可能になっています。
1936年までの約4年の生産期間中に7回ともいわれるマイナーチェンジを繰り返しているのも特徴で、それはモデルチェンジを繰り返すライカを少なからず意識しての方針だったのかもしれません。当初より1/1000を搭載していることがライカに比べ大きな優位とされていたコンタックスですが、1933年に1/2~のスローシャッターを搭載、最終モデルは最高速度を1/1250に上げるなどの改良点が主だった仕様上の変更点です。肝心の操作性は残念ながらレンズを取り付けると特に悪くなり、巻上げを迅速に行うことができません。また有効基線長の長い距離計は精度が高いものの、二眼式連動距離計ではファインダーが小さくて見えにくい点は不便です。
それらウィークポイントは後継機種のⅡ型以降に大きく改良されています。また、コンタックスⅠ型は黒塗りのみのカラーリングでしたので、後継機種のⅡ型、Ⅲ型のクロームコンタックスという呼び方に対してブラックコンタックスとも呼ばれます。そのブラックの輝きが約80年を経ても失われず非常に美しく、現在でも人気の高いクラシックカメラの一つです。